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34歳♂独身無職実家暮らしの日常⑧【姉という生き物〜念願のウォッシュレット〜】

父や姉についての記事を書くことで、自分の中で
それぞれの人物像を整理をすることができたが、改めて変わった人間だと思う。

以前より大人になって実家へ帰ってきたからか、そんな父と姉の共通点がかなり見えるようになった気がする。

中でもやっかいなのは、2人とも素直ではないので口下手な所が共通している点だ。

特に姉は臆病者な割に調子に乗りやすいので、本人は軽い気持ちで言ったことで家族を不快にさせることが多々ある。

臆病者に付随して素直さも出せないので、本当の自分の気持ちや要望を伝えるのが上手ではないなと思う場面も少なくない。

今回はそんな口下手な姉の身体を張ったメッセージについてのエピソードである。


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再度になるが、築40年は経とうかという木造平家の一軒家である私の実家は、至る所にガタがきている。

床の軋みは仕方ないとしても、掃除やメンテナンス不足によって異臭がするのは、老朽化よりも深刻だ。

という理由で、整理整頓に加えて家内外の掃除、特に異臭対策を随時行なっていくことにした。

異臭がする箇所は大きく2つある。
トイレと風呂場だ。

まず異臭といえばトイレだが、我が家のトイレはこの令和の時代に未だ汲み取り式だ。
所謂ボットン便所である。
私が小学校高学年の頃にボットン便所が簡易水栓式に昇格したので、正式にはもうボットン便所ではないのだが、形式的にはそれに該当する。

都会育ちの方のために念のため説明するが、
汲み取り式とは、月に一回市役所の委託業者がバキュームカーを引き連れて、我が家のタンクに溜まったそれらを持っていってくれるという仕組みだ。
料金は市役所で家族の人数分の汲み取りチケットを購入し、業者に渡すことになっている。
何とも原始的な仕組みである。

タンクは庭先のマンホールを開けると中を覗くことができる。月に一回の汲み取りなので、月末はなかなかの量が目の前まで迫っており、何とも言えない迫力がある。

そんな原始的な住居環境と同じく、まわりは田畑ばかりなのでふとした時に肥料のようなにおいが漂ってくることはある。

しかしある日、私が帰ってきてから1ヶ月少し経った頃、突然明らかにそれとわかる異臭がする時があった。

それとすぐにわかったので、まっすぐ家の外にあるマンホールに向かった。

マンホールを覗きに行くと、茶色いスポンジケーキのような何かにフタが持ち上げられていた。 

今まで絶対に届かない距離でも迫力を感じていたものが、メガネもかけていないのに3Dとなって地上に飛び出しているのを見て絶望したことを覚えている。

汲み取りを待たずして、それらがタンクの許容量を超えてしまったのだ。

余談だが、発見した日は私の誕生日であり、とんだ誕生日ケーキを貰ったものだと呆れた。


一瞬、私がずっと在宅なので、それが原因だとも考えた。
しかしながら、実家で暮らしていた学生時代には溢れるようなことは一度もなく、もちろんタンクの許容量は変わっていない。
人一人分の増加で溢れるまでには至らない、原因は他にある。

原因はおそらく簡易水栓式トイレの寿命で、少しずつ水がタンクに溢れ出したのだろうとのことだった。

下水のように流れては行かず溜まる一方なので、
汲み取り式の水漏れは死活問題だ。

水を流すレバーを引けば開く便器の中のフタも調子が悪く、劣化していたことは間違いない。

とは言っても、私が帰ってきたことでタンクの許容量を少なからず圧迫していたことは確かである。


少し気まずい思いになったが、そんな私の横で
姉も同じく気まずそうな顔をしているのが、何やら気になった。

その理由は、後にわかることになる。


程なくして、最新型のウォッシュレットが着いた便器が設置され、暮らしのクオリティが上がったと同時にスポンジケーキ問題はめでたく解決となった。


その次に風呂場の異臭であるが、厳密には風呂場ではなく、排水溝から逆流してくるにおいによるものだ。


これを排水枡というのだが、生活排水が集まる会所のようなものだ。
ここに汚れが溜まるとそのにおいが逆流して、
真横にある風呂場にはなんとも言えないドブ臭さが広がる。

母が特ににおいに関して不満を募らせていたので、ここの掃除をすることにした。

家族全員がにおいは気になっていた様子だが、日々の忙しさを理由に誰も掃除をせず、もはや最後に掃除をしたのはいつだったか思い出せないほど放置されていた。

会所の蓋を開けると、濃い茶色のヘドロのようなものが溜まっていた。
綺麗な状態の時には枡の半分は水が溜まっているのだが、水分のほとんどが茶色の何かで敷き詰められていた。

両親曰く、鉄サビなどの長年の汚れが溜まって
いるのではとのことであり、たしかにドブの
ようなにおいもした。

しかしそれよりも、最近どこかで嗅いだ覚えのある独特の異臭だったことに違和感を覚えながら、
柄杓で汚れを取り出し排水管も高圧シャワーで流して綺麗にした。

バケツいっぱいに溜まった茶色のヘドロは、
家の回りが畑なのをいいことに、自然の力を借りることにした。もちろん、敷地内である。


畑の真ん中に家が立っている形なのだが、捨てた位置から少し見上げたところに姉の部屋があった。

申し訳ない気持ちもあったが、何も育てていないスペースは姉の部屋の前しかなく、日当たりもいいので自然の力を借りるには最適な場所だった。

なかなか大変な作業だったが、異臭もなくなり
また一つ家族のために良い行いをしたと小さな
達成感に浸っていた。

ところが数日後、入浴中にまたしても異臭が漂ってきた。

最近頻繁に出会うあのにおいだった気がしたが、
そんなわけはないと自分に言い聞かせながらも、不安は拭えずにいた。

嫌な予感とともに会所のフタをあけると、
そこには茶色の塊が溜まっていた。

ヘドロのようなものではなく固形であり、
よく見ると赤や緑の繊維質のものが混ざっており、取り出して放置していたところハエがたかっていた。





それは茶色いスポンジケーキの具材だった。
家族の中にパティシエがいる。





百歩譲って、「小」は許せる。よく聞く話であり、かく言う私も冬場は我慢できずにしてしまうこともある。 

しかし、「大」はない。
人として「大」はしてはいけない。

それは液体しか流さないと言う風呂場の排水構造の問題でもあるが、何より人としての尊厳を守るためにしてはいけないと思う。


以前掃除した茶色の塊も、老朽化による鉄サビ
なんかではない。
思えば風呂や洗濯の排水まわりに金属なんて使われていない。

掃除しながらも薄々は思っていたことではあるが、まさか家族の誰かが風呂場でケーキ作りをしているなんて思いもせず、いらぬ想像はすぐに掻き消していた。

信じたくはないが、家族以外ありえない。 
私は家族一人ひとりに事情聴取をすることにした。

まず汚れの正体を鉄サビだと断定した両親だが、さすがに「大」はしていないとのこと。
いくら歳を重ねたとはいえ、まだそこまで耄碌していないと少々ご立腹であった。

特に母は介護職で高齢者相手の入浴介助の時に、
排泄物をぶちまけられた、とよく話をしており
こうはなりたくないと常々こぼしている。

父も風呂で排泄するなんて普通では無い、といった口ぶりだった。
嫁子供の金を使い込むのも普通ではないと思ったのだが、この時は自分の心に留めた。


話し方や雰囲気から察するに、両親は本気で汚れは鉄サビだと思っていた様子だった。

両親は犯人ではない。
そして、そう結論付けたのにはもう一つ理由がある。


実を言うと、早い段階で私は姉だろうなという
ぼんやりとした確信があった。 

姉は季節関係なしに寝る前には風呂に入らず、朝にシャワーを浴びるという謎のアメリカンスタイルを貫いている。

出勤前の朝は例外なくシャワーを長時間浴びているのだが、姉が出てきた後に排水溝から悪臭が漂うことが多い気がしたからだ。

それからしばらくの間、姉が出勤したのを見計らってからの排水溝チェックが私の日々のルーティンに加わった。


現場を抑えることが何よりの証拠になるのは当然なのだが、そんなことができるわけもないので、私はしばらくルーティンを続けることにした。

ルーティンを続けた結果、かなりの確率で排水溝に茶色い具材が溜まっていることがわかった。

これはもう現場を押さえたも同然だった。 
私の中で、すでに姉はパティシエだったのだ。



その後さらなる確信を得るために、
意を決して私は姉に直接聞いてみた。

直接とは言っても、デリケートな話題なので確信していることは伏せ、冗談混じりにまさかとは思うが、という流れで聞いてみた。

もちろん、そこで姉から言質を取ることはできなかった。言質が取れても困ったので、少し安心した。
するわけないだろうといった感じで両親同様、少々ご立腹だった。

それからしばらくルーティンを続けていたが、
私の牽制が刺さったのか、その後茶色い具材はパタリと生産されなくなった。
このことも、姉が生産者であることを裏付ける要因の一つであると思っている。

その変わりに、朝に姉がトイレに籠る時間が増えた。

そして時を戻すと、これがあの時姉が気まずそうにしていた原因である。


これは推察になるが、

時間のない朝にトイレに籠るのは非効率だ。

ウォッシュレットも付いていないし不衛生でもある。

この後シャワーを浴びるのだから、
もう、良いのではないか。

姉はそう考えたのだと思う。

しかし弟である私に容疑をかけられ、さすがにまずいと思ったのだろう。

そしてトイレに篭る時間が増えた途端、立派な
茶色いスポンジケーキが出来上がった。


姉はその時何も言わず、私も何も言わなかったがあの気まずそうな表情からはそんなことを伺えた気がした。



上記の通り、その後ウォッシュ付きの最新型が導入されたことにより、風呂場の異臭騒ぎも無事解決となった。

ルーティンは今も続けているが、今のところケーキの生産は止まっている様子である。




私はこの風呂場パティシエ事件に関して大変驚いたので、知人や某質問系掲示板など各方面に相談をした。

識者の方々からは、さまざまな意見を頂く事ができた。

ストレスや女性ならではの便秘に悩んでいるのではとの意見もあり、自分にはない見識に感心した。

そんな中、動物の仕業ではという方もいた。

動物説に関して真剣に考えてみたが、そもそも飼っている動物もいないし、仮に野生の動物であればそこら中に草木があるのにも関わらず、わざわざ会所のある所まで登り、写真の通りあの豚の鼻のような穴をめがけて用を足していることになる。

排水管の中にも茶色の塊は詰まっていたので、
被害状況から風呂場に侵入してする以外ありえない。

そこまで排泄リテラシーの高い動物だったら
ペットになって欲しいくらいだ。
動物説を唱えた識者は、少し変わった方なのだろう。

心理面や体調面さまざまな要因があり、姉がそのような行動を取ったのだろうとは私も思う。
しかしその多くはウォッシュレットをつけて欲しい、という願いだったようにも思える。 

そして、上記の通りその願いは叶った。


これが口下手な姉の身体を張った精一杯のアピールの結果だとしたら、その願いは自分の行動によって叶えたことになる。


行動で示すこと、その大切さを私は姉から学んだ気がした。



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