#217 「両面宿儺」は朝廷の敵だった?

両面宿儺(りょうめんすくな)は大人気漫画・アニメ『呪術廻戦』で一躍有名になったキャラクターで、作中屈指の強さを誇るラスボス的な存在である。作中の両面宿儺は、腕が4本、目が4つという異形の姿をしており、1000年以上前の呪術全盛の時代に最強と言われた呪詛師が現在に蘇ったという設定がある。

呪術廻戦は日本古代の宗教や文化を題材としたキャラクターや用語が多く、両面宿儺もその1つだ。
両面宿儺は、日本書紀に登場する飛騨の豪族が元ネタとなっている。
日本書紀と飛騨地方の伝承では、それぞれ次のように両面宿儺が語られている。

日本書紀によると、両面宿儺は一つの胴体に二つの顔があり、手足が各四本ある怪物として恐れられ、大和朝廷に背いたとして難波根子武振熊(ナニワノネコタケフルクマ)に討伐されたとあります。しかし、飛騨地方では、両面宿儺は武勇にすぐれ、神祭の司祭者であり、農耕の指導者でもあったと言われ、地域を中央集権から守った英雄であったと語り継がれています。

飛騨に伝わる「両面宿儺」の伝説

日本書紀や地域の伝承など、両面宿儺の伝承はいくつか残されている。見た目は腕が4本で顔が2つという異形の姿をしているという点はおおよそ共通しているのだが、日本書紀では「朝廷の敵」とされているのに対し、地域では「英雄」や「神様」とされている。

両面宿儺に対する相反する2つの見方は矛盾しない。
両面宿儺の記述がみられるのは4世紀末から5世紀前半に在位した大仙古墳で有名な仁徳天皇の治世である。

そのころは大和朝廷が地方の豪族を取り込みながら勢力を拡大していった時期である。飛騨地方では慕われていた指導者だったが、朝廷に対立したことで「異形の者」として扱われ、実際にはあり得ない姿で記述されたと考えられる。

古代には朝廷に従わないものを異形の姿で描いたり記述したりすることが多く、例えば現在は妖怪として描かれることが多い「土蜘蛛(つちぐも)」も朝廷に従わなかった豪族のこととされている。

教科書に掲載されることもある「清水寺縁起絵巻」では、平安時代の朝廷と蝦夷との戦いが描かれているが、蝦夷の人々の容姿は天狗や河童、猿のように描かれている。朝廷が敵対する人々をどのように捉えようとしていたのかがよくわかる事例だ。

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【参考】


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