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#115 『桃太郎 海の神兵』ストーリー徹底解説

作品概要

『桃太郎 海の神兵』は、第二次世界大戦中に日本の海軍省の命を受け、松竹動画製作所によって制作され、戦争末期の1945年4月12日に公開された。落下傘部隊の隊長である桃太郎が犬・猿・雉とともにヨーロッパ諸国が占領する鬼ヶ島に攻め込み現地の人々を解放するという、センセーショナルな内容の典型的なプロパガンダ作品である。
内容はともかく、アニメーションとしての評価は高く、日本初の長編アニメーション作品と言われておりアニメ史としても価値がある作品である。
ここでは、戦時中のプロパガンダ作品の例として授業で部分的に見せること念頭に、DVDの分数を表記しながらストーリーを解説する。★の数は個人的なシーンの重要度である。

オープニング(00:00~)★★★★☆

特筆すべきは当時のクレジット。「海軍省後援」と大々的に打ち出され、その後に「松竹株式会社製作」と続く。
そして、「メナド降下作戦に参加せる海軍落下傘部隊将士の談話による」というテロップが入る。

シーン1:帰郷(01:11~)★★☆☆☆

物語は、桃太郎のお供となる猿・犬・雉と熊(金太郎から友情出演)が海軍から一時帰省をするというシーンから始まる。4人の故郷は富士山の麓の村で、典型的な地方の里山の集落という印象である。4人の帰郷に故郷の動物たちは大喜び。
4人は故郷の神社で拝礼した後、それぞれの家へ帰る。
猿には幼い弟が、犬には年老いた両親が、雉には幼い子どもたちが、熊にはかわいい妹と父(母?性別不明)がおり、それぞれの家庭の温かなシーンが描かれる。

シーン2:猿と弟(08:03~)★☆☆☆☆

村の子どもたちと遊んでいる猿。子どもたちから「海軍の話をして」とせがまれる。航空隊として飛行機を操縦して空を飛ぶ話に子どもたちは夢中になる。
一方、川のほとりでは兄の帽子をかぶり手旗信号をして嬉し気なサル弟。誤って兄の帽子を川に落としてしまい、帽子を取ろうと川の中へ落ちて流されてしまう。その様子を見た郵便屋のツバメがあわてて兄の猿へ報告する。
大慌てで弟を助けに向かう猿。騒ぎを聞きつけた犬も同行する。颯爽と川に飛び込むと、犬や動物たちの協力もあり、滝の一歩手前で弟の救出に成功する。
花咲く野原で弟と穏やかなひと時を過ごす猿。そんな中、猿は空に舞う無数のタンポポの綿毛に落下傘部隊のパラシュートを思い浮かべるのであった。

シーン3:桃太郎登場(17:41~)★★★☆☆

舞台は切り替わり、南国の砂浜。ウサギの海兵が双眼鏡で偵察をしている。そこには「海軍設営隊本部」が置かれていた。ヒョウやトラ、南国のサル、ゾウ、サイ、リスなど現地の動物たちを働かせて陣地を建設するウサギ。これらの動物は現地の住民をイメージしているのだろう。軽快な音楽とともにあっという間に陣地ができあがる。(22:46)
そこに飛行機の轟音が鳴り響いてくる。あわてて飛行機を迎える準備をするウサギ兵たち。飛行機が着陸すると、最初は遠くから様子を見ていた現地の動物たちも歌を歌って歓迎する。整列して敬礼するウサギたちの前に満を持して登場する桃太郎と、お供の猿・熊・犬・雉。(26:30)
日章旗を掲げて行進する一行。大勢の猿たちが大量のカバンを並べる。カバンの中身を予想する現地の人々。
現地の動物たちからの南国のフルーツの差し入れを口にして一息つく一行。カバンの中身は明らかにならず。

シーン4:日本語教育(30:28~)★★★★☆

学校と思われる場所で犬が現地の動物たちに日本語を教えている。動物たちはうまく発音できず、集中力も散漫。学級崩壊寸前である。
そこに通りかかる熊と猿。熊のハーモニカの演奏で猿があいうえおの歌を歌う。動物たちも歌を合唱することで一件落着。
日本軍が現地の人々に日本語教育を行っていたことのオマージュとなるシーンだが、現地の人々の言葉を動物の鳴き声で表現しているところに当時の現地の人々への見方がうかがえる。
現地の動物たちも動員しながら、音楽に合わせて調理や武器の手入れ、燃料の移動などを行う兵士たちとともに歌は終了する。

シーン5:作戦開始(39:09~)★★★★☆


郵便屋のペリカンにより、故郷からの手紙や差し入れが兵士たちに届けられる。アイスクリームカップの形をしたびっくり箱に驚く犬、大きくなった子どもたちの写真を見る雉、弟からの手紙に決意をする猿などが描かれる。
桃太郎の命令を受け鬼ヶ島の偵察に向かう雉たち(41:35~)。それを見送る犬と猿。
訓練中の熊たちのもとに、偵察機が帰還する。かけよる兵士たち。敵の攻撃により1名が戦死したことを桃太郎に報告する雉。よくみると多数の銃弾の跡が残る戦闘機。しかし、偵察によって得られた航空写真をもとに作戦が決定される。部隊に作戦を告げる桃太郎が檄を飛ばす。(46:25~)

「いよいよ、われわれの待ちに待った作戦は、明朝を期して火ぶたを切られることとなった。皆もすでに覚悟はできていることと思う。わが海軍落下傘部隊の長い間、秘密の内に鍛えた訓練の成果を、初めてあらわす時がきた。お前たちは、この長い間、両親や兄弟たちにも訓練のことを語ることができず、苦しいことであったと思う。明日こそ、われわれは、最後の一兵となるまで敵陣に突撃するのだ。皆覚悟はできているか!?(はい!)よし、今夜はわれわれの最後の夜となった攻撃隊出発は、4時。以上!」

大量に並べられたカバンからリュックとパラシュートを出し、落下傘の準備をする兵士たち。入念にパラシュートの整備を行う。一人ひとりのパラシュートをチェックし、背中を叩き「よし!」と活を入れる桃太郎。裏方の兵士たちは日の丸弁当をつくり、飛行機の燃料補給を行う。

シーン6:王国の滅亡(50:18)★★★★☆

唐突に始まる過去回想。平和なゴア王国に突如あらわれる黒船。中からやってきた白人は王様を騙して海賊に王国を侵略させる。王様は最後まで戦ったが、敗れて美しい島は海賊のものとなる。そして次のナレーション。

千古斧鉞(せんこふえつ)を入れざるジャングルに古き石像あり。刻みて曰く、「月明明るき夜、王道天子の国より、白馬にまたがりたる神の兵来たりて、必ずや民族を解放せん」

欧米諸国に植民地支配をされた現地民の悲痛な叫び。それを解放するのは日本軍であるというメッセージである。
場面は変わり、明け方の落下傘部隊。(54:53~)
現地の動物たちに見送られて輸送機は出発する。

シーン7:部隊降下・戦闘(59:42~)★★★★★


軍歌とともに映し出される戦場に向かう飛行機。
嵐の中を飛行する輸送機の中は緊迫感が漂っている。
雲の切れ間に束の間のなごやかな空気が流れる。隊員たちは日の丸弁当を頬張る。降下三十分前、援護の戦闘機が基地へ戻ると、隊員には再び緊張感が戻る。
いよいよ降下が始まる。(1:05:00~)
リアルな降下の様子は、さすがは体験入隊をしてまで再現したという当時のスタッフの意気込みを感じる出来栄えである。

敵兵の激しい射撃を搔い潜り、隊員と共に降下された武器を素早く組み立て鬼ヶ島に攻め入る日本兵。桃太郎の号令のもと、激しい戦闘が繰り広げられる。逃げ惑う白人たちは不自然なほどふにゃふにゃしている。あえてなのだろうか、白人たちの作画は現代なら炎上するレベルで手抜きである。

シーン8:鬼ヶ島降伏(1:09:52~)★★★★★


白旗をかかげて降伏する白人たち。
中には一瞬だが手を挙げて怯えるポパイの姿も描かれている。(1:10:10)
敵軍の将校と交渉を行う桃太郎。白人の将校の頭にはきちんと鬼の角が生えている。語気をあらげて即時の全面降伏を求める桃太郎に対して狼狽しながらも条件交渉を行おうとする白人将校。桃太郎は「全面降伏をするか、総攻撃をするか、ただこれだけだ」という最後通牒をつきつける。その後は描かれていないが、おそらく全面降伏をしたのだろう。
このシーンは、シンガポールを陥落させた際、山下奉文中将がイギリスのパーシバル中将と行った停戦会談が元ネタになっていると思われる。この交渉で山下中将が発した、「無条件降伏か、イエスか、ノーか」という台詞は当時の日本で流行語となった。

この後、兵士たちの故郷の村で平和に遊ぶ子どもたちの様子がラストシーンとなる。アジアの国々を侵略したヨーロッパ諸国を鬼になぞらえ、日本軍が鬼退治をしてアジアを解放し、平和な世界が訪れるというストーリーだ。
完成が終戦間近となってしまったため、良くも悪くもこの作品を見た子どもたちは少なかったが、当時の日本が子どもたちに何を伝えたかったのかがよくわかる作品である。

【目次】

【参考】


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