#30 大仏建立の原因となった伝染病は?

「貴族同士のあらそいや伝染病によって世の中が乱れていた。そこで聖武天皇は仏教の力で国を治めるために、大仏の建造を命じた。」

多くの小中学校の教科書にはこのような記述があるが、ここで言う「伝染病」とはいったい何なのだろうか。
答えは天然痘である。天然痘は、古くから「痘瘡(とうそう)」や「疱瘡(ほうそう)」と呼ばれた病である。「瘡」の字にはかさぶたや腫れ物という意味がある。感染すると7~15日ほどの潜伏期間の後、高熱・頭痛・腰痛にみまわれ、発症4日目ごろから全身に赤い発疹があらわれ、次第にふくらんで水疱となり、その中に膿がたまって痛みや痒みがひろがる。完治しても特徴的なあばたが残ってしまう。毒性の強いウィルスだと死亡率は20~50%になる。

聖武天皇の天平年間は天然痘の大流行期で、当時の人口は約450万人。その約3~4分の1にあたる100万人~150万人が死亡したとする説もある。当時の有力者だった藤原不比等の4人の息子が相次いで感染・死亡した。藤原四子と呼ばれた息子たちは政界のリーダーだった長屋王を謀反の疑いで自殺に追い込んでいたことから、4人が相次いて死亡したことは「長屋王の祟り」と言われた。

律令制度ができて中央集権化が進んで人々が都に集まるようになったこと、遣唐使の往来によって大陸からウイルスが持ち込まれたことなどが感染拡大の理由と言われている。

その後、天然痘は日本で恒常的な伝染病となり、源実朝、伊達政宗や夏目漱石など有名な歴史上の人物も罹患した。

参考


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