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第6話 社会科教師の一分

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坂本が話し続ける。
「俺の中学時代の社会の先生は、学生運動の世代よりはかなり若かったけど、『まともな本』を読む読書階級だったので、日本会議のことも、国民洗脳の手口も、反戦運動の凋落も、すべて把握して嘆いていた。
 彼は、日本人特有の空気を読み過ぎる特性が、旧日本軍の暴走と、安倍政権の暴走を許しているのだと批判していた。安倍首相に不利な文書を官僚が忖度して証拠隠滅するなんて典型だ。本当に忖度なのかも疑問だが?
 先の戦争の降伏後、政府や軍隊が、昼夜を通して片っ端から資料を燃やしたが、それと全く同根だと。
 安倍総理は官僚の人事を掌握する制度を導入したので、忖度せざるを得なかった。見事な独裁体制だと褒めていたよ。

 逆に、それをあえて批判するのは、社会科教師の一分だとも言ってた。

 「教育でしか、歴史修正主義は正せない」と。

 公務員は憲法第99条に定められた憲法尊重擁護義務がある。
 違憲の戦争法案を作った安倍政権よりも正しい、と。
 ちなみに、国会でこれを合憲だと証言した憲法学者 百地章氏も日本会議の中心人物だそうだ。生長の家原理主義者のね。
 ともかく、彼は平和主義の日本国憲法が大好きだった。
 アメリカ自身がプレゼントしてくれた、アメリカの参戦要求を拒むことができる唯一の強力な魔除けだと。
 ところが、第9条に自衛隊を明記しただけで、魔除けの効果はなくなり、今戦地に向かっているという訳さ。
 その先生は、安倍首相の宿敵の日教組に所属していたんだけど、日本で最も組織率が高い愛知県でさえ、憲法違反の安保法制制定に対して、組合が何もしないことを嘆いていたよ。安倍首相が改憲を成し遂げると公言しているのに、反戦と護憲の言葉がどこからも聞こえてこないことに呆れていた。組合がほとんど何もしないから、個人で名古屋の戦争法案反対デモに出かけていたりしたそうだ。本当の歴史通ばかりで、楽しかったと言っていた。
 彼によれば、歴史修正主義が誤りだと教える社会科教師は絶滅危惧種だそうだ。日本の加害の歴史を子供達に伝える教師なんて、もうあまりいないんじゃないかな?被害の歴史なら、ちゃんと教えているんだろうけどね。日本会議の存在を生徒に教える教師は、誰一人いないだろう。それも自慢してたよ。
 ちなみに、『教え子を再び戦場に送るな』と主張する教師を密告して処罰するためのサイトを、自民党が公式サイトに設置していた。さすがに、批判を恐れてすぐに削除したけどね。自民党文部科学部会が作成したんだ。彼らが最も力を入れているのが愛国教育なんだ。日本は、残念ながら異常な国なんだよ。
 彼の解説では、戦争を経験した世代は戦争の愚かさを子供にしっかり伝える。子供もそれに従う。しかし、孫の世代になると戦争のことなんてどうでもいいと思いだす。中には、戦争を美化する者(安倍界隈)さえ現れる。そして、戦争経験者がみんな死んだあと、また、愚かな戦争を始めるんだ。
 人間は愚かだから、戦争を風化させてしまうんだ。
 日本会議周辺も、ほとんどが戦後生まれで、戦場の悲惨さなんて想像もできない愚か者たちなんだ。人類の歴史は戦争の歴史なのにね。」
 そんな愚か者達に洗脳されて、南京事件はなかった説を信じてしまうような社会科教師が、彼は嫌いだった。もっとまともに戦争を勉強しろよと。(注:上から目線ですいません。しかし、実際に若手社会科教師は、知多郎的には日本会議にほぼほぼ洗脳されています。気づいてください。反歴史修正主義の保護者や生徒は、社会の先生にこの小説を読むよう薦めてください。)

歴史から学ぶことができるただ一つのことは、人間は歴史から何も学ばないということだ」(ドイツの哲学者ヘーゲル