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脳内のさわがしさを日記にしたら1万2千字になった件


これは、せっかく家にいるので、本腰を入れて日記を書こうとしたところ、いたってシンプルな日なのになぜか1万2千字になってしまった文章である。

「話が飛ぶ」という現象がニガテな方は今すぐこの記事を閉じてほしい。

内容は、朝起きて、病院に行き、帰ってくるだけである。注意欠陥の持病をもつ人の頭の中がどうなっているのか、一緒に体験してもらいたくて書いた……というつもりではなかったが、「外からみるとわかりにくいが、頭の中が落ち着かない」という症状を少しでも想像してもらえたら嬉しい。むしろ最後まで読んだ人に飴ちゃんあげたい。

4月3日(金)

 持病の薬がなくなった。医師からしばらくは毎日飲むように言われている薬だ。時間とスケジュール管理が苦手な持病の薬がなくなったので、その薬をもらいに大学病院に行かねばならぬのだが、なにせ時間とスケジュール管理が苦手な持病のため、予約の日に病院に行けなかった。そしてその予約の日をすぎ、薬が底をついたので、さらに時間とスケジュール管理の苦手な持病が悪化した。

しばらくは薬を飲まずになんとかやっていたが、1週間を過ぎたあたりから様子がおかしくなってきた。だいたい何が起こるかというと、日中起きていられなかったり、連絡を返せなくなってくる。深夜に頭がわんわんうるさくなり、明るくなるまで眠れない。食事もろくに取らず、どんどん部屋が汚くなり、風呂にも数日入っていない。意識が溶けていくようだ。これはいかん。

先天性のものなので、薬を飲めば症状が消えるのではなく(心理療法てのもあります)、これが3割くらいましになるだけなのだけど、3割ましになるだけでいくばくか社会参加できるようになるのだ。この差は大きい。

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\言い訳からはじまる/

担当の医師がいるのは火曜日と金曜日。一度予約をすっぽかした者の受付は午前中のみ。なぜ、午前中しか受付しない。今週の火曜日にも再チャレンジを試みようと、友人に朝電話してもらうように頼んだ。しかし、その前の晩は5時までらんらんと目が冴え、眠れなかった。私の疾患は概日リズム睡眠障害とかいうのを併発しやすいらしい、簡単にいうと昼夜逆転だ。

9時に電話が鳴り、友人の声が聞こえた時、ハッキリと思った。お願いだ、寝かせてくれ、頼む。電話を切ってくれ。こんなに親切な友人を持ったのに、私はなんて恩知らずなんだ。起きたよ…行けそうありがとう…とたわごとを言い、よかった、じゃあ、と電話が切れたのを聞くか聞かないかのうちに意識を失い、14時まで寝た。あとから友人に聞いたところ、電話中もほとんど寝息のようなものが聞こえていたらしい。

 火曜水曜と、人間離れした姿で生き延びた。火曜は泥のように過ごしたが、めしの時だけ躁状態になったのでインスタのストーリーを更新しようとしたが、途中でアプリが落ち、私も落ちた。水曜はとにかく風呂に入ることだけに集中した。昼過ぎに動き始め、寝起きのトイレと共にユニットバスにお湯をためる。アイディアが湧いてきたのでブツブツと独り言を録音しながら長風呂する。風呂から上がり、めしを作る。卵焼き、昨日炊いた米、キムチ、インスタント味噌汁。ご飯だけは、1日1回はお盆にならべてそれなりにちゃんとしたものを食べる、ようにしている。これは数年前症状が悪化してマジ鬱になりかけた時に学んだライフハック。あとはもうバナナとかヨーグルトとか枝豆とか梅干しとか、そこらへんに転がっているものを口に入れてなんとかやり過ごす。似た悩みを持ってる人へ、開けてすぐ食える日持ちするものを置いておけ。シリアル、バナナ、チョコ、オレンジジュースがあれば死なない。生き延びよう。

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\前日の日記まで書く/

木曜に一念発起し、リモートワークしている友人とビデオ通話を繋いで、「連絡を返す」というタスクを終わらせるのを見守ってもらっていた。そう、見守ってもらっているとなんでもできる、赤ちゃん。否、赤ちゃんだってひとりでも遊べるな。途中でベッドに寝転がりそうになったら指摘される。上の空で全く関係ない話をし始めたら指摘される。救世主とはまさにこのことか。

''ご連絡遅くなり大変失礼いたしました。すみません、ここ数日持病の症状が強く出てしまい、連絡が返せていませんでした。明日、病院に行ってくるので、土日は回復につとめ、また月曜に体調を報告させていただいてもよろしいでしょうか。ご迷惑おかけして大変申し訳ございません。''

f**k持病。f**kA**D。(この持病の何がこわいってこうやってやらかして仕事を失ったり友人を失ったり「免罪符にすんな」など不理解な言葉を言われた時の精神的ダメージで二次障害の不安障害やら鬱を引き起こすことだ)

これで実質、執筆業に関しては3連休を獲得したといえる明日は病院に行き、帰ってきたら数週間ぶんのゴミをまとめよう。溜まりに溜めた家事を片付けよう。月曜日までゆっくりと体調回復にいそしめる。つまり、日記が書ける。まさか、文章の仕事をしているのにその休みでも文章を書くというのか、驚かれるかもしれないが、悲しいことに、こういうテーマで書こうと始めっから決まっている文章と、その時の気分を書き記す文章は、全くちがうものだ。

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\''ちりつも''を吐き出す/


頭の中に無数の''ちり''が舞っている。決まった主題について書くときは、あるひとつの''ちり''に集中して、それがどっか行ってしまわないように注意しながら書く。それでもその''ちり''は、くしゃみひとつでどこかに飛んで行き、全然関係ない''ちり''が目の前にあらわれる。それを気にしていたら本来見ておくはずの''ちり''が見当たらなくなる。またそれを探すところから作業が始まる、という作業が常に発生している。

その間に、無視せよ無視せよと背中を向けている頭のすみっこに、''ちり''がつもってくる。''ちりつも''である。この''ちりつも''が私の脳みその容量を徐々に圧迫して、本来やるべきことに割けるエネルギーが足りなくなってくる。そしてどんどんちりつもの方の声が無視できない大きさになってくる。同時にPhotoshopとIllustratorとLightroomとPremiere ProとGarageBand()を開いているような状態だ。本当に開かないといけないのはグーグルドキュメントである。
何を言っているかわからない人はパスタを茹でながらパンをこねて米をとぎフォーを水で戻して冷凍うどんをチンしているみたいなイメージで伝わるだろうか、あるいは……いけない落ち着け、主題に還りなさい

つまりその積もったちりが今ここに吐き出しているものである。日常を過ごしているだけでこれだけのちりがつもるのは、創作としてはありがたいことでもあるが、日常の仕事に支障が出るのでかなり困ったものでもある。
なので部屋の掃除をする前に、頭の中の掃除をしてしまおうというわけ。

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8時30分 おはようございます

金曜の朝、前回電話をかけてくれた友人にまた頼む。今度こそ。まず自分で8時半にアラームをかける。私にとって8時半のアラームは家の外で猫がニャアとなく程度のものである。(例えが悪かった、私は家の外で猫がニャアと泣くのが一番効果的なんだった…)そして9時、アラームが鳴り、友人から電話がかかってくる。朦朧とした意識の中さらに頼みごとをする。「何か…何か話をして…」入眠時の幼児のような頼みだ。だれかが「起きる起きない」と関係ない話をしてくれると気になって起きられることがわかってきた。

友人は家族に久しぶりに連絡したと話し始めた。バナナを食べながら相手の家庭環境の話を聞く。そちらは親とどれくらいの頻度で連絡をとる?と聞かれてしまった。こうなるともうその話をするしかない。

\この持病がわかるまで/


母親とのLINEの履歴は、大学時代にすべて消してしまった。

持病のガイドブックには、''周りの人は「なぜできないの?」「どうして◯◯しなかったの?」「だらしない」などの言葉はかけないようにしましょう '' などと書いてあるのだけど、母は当時、それらのラインナップをミルクレープにして投げてくるのが日常だった。それもそうだ。進級もろくにできなさそうで、バイトも遅刻ばかりで続かない、金欠の娘である。

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大学3年の冬、この持病の診断を受ける1ヶ月前、7キロ痩せ、札幌の実家に帰ったことがあった。母は、モデルなんかしているから摂食障害になったんだと主張した。東京で通っていた医者からは現在の持病を疑われ、大学病院の紹介状をもらっていたが、母はそんなはずないの一点張りだった。

その時、どうしても言い争いがいやで、
・大きな声で威圧しないでほしい・同時にいくつも質問されると覚えられないから1個ずつ言ってほしい・反応が遅くても考えてるから待ってくれ・冗談でもけなされると言葉どおり受け取ってしまうのでやめて

などのお願いを大量に、箇条書きにして読み上げた。
(*当時本当に困っていたことを書いたのだが、あとからこの疾患のことを調べると適切な対応ばかりだった。)

母親は何泣いてんのと笑った。「昔は素直だったのに、変わったね」と。

その晩、このままだと自分に失望したまま生きていくことになる、大事だと言ってくれと頼んだ。母親は背中を向けて寝ていた。そんな承認を求めたことなど一度もなかったので、困っているようにも見えた。
実家を発つ時、恐縮するほどの食費を渡されたのを覚えている。東京に戻り、専門の外来で注意欠陥の疾患だと診断された。


大学最後の1年間、体調は回復していたが、通院費が月に1万必要だった。
母との連絡は心労になるため滞っていたが、連絡と学費は引き換えと言われ、無視できなかった。私のできなさや無計画性を問いただす言葉を薄目で確認し、短い返事を送り、そのつど削除していた。父に金銭の連絡をお願いすることにした。そのころ、文章を書き始めた。仕事のきざしが見えた。

新卒でなんとかフリーランスになり、母親にもわかるような仕事をし、収入を伝え、自立するにつれ、親子間のトラブルは減った。

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今は、私のキャリアを嫌味なく応援し、見守ってくれている。最近はちょっとした弱音まで聞くようになった。大学の友達を実家に招いた時、「どんな怖いママかと思ってたら天然でびっくりした」と言われて拍子抜けしたことがある。連絡を返すのを忘れていても、3日に1回くらい、ぽつぽつと連絡がくる。

父親に関しては意味不明である。ネコチャンシールを集めていたかと思えば、アマゾンプライムで韓流ドラマを見すぎて「괜찮아」とLINEしてきた。「大丈夫」の意だが、気遣ってくれているのかこちらは大丈夫と報告しているのか、日本語に訳しても意味がわからぬ。まぁ、ヘイトに染まるよりずっといい。猫を飼ってくれ、月イチで帰るから。

10時15分 家を出てください

と、いうようなことの短縮版を友人に話していたら10時15分になっていた。あと15分で家から出ないと間に合わない。そのためには布団から出ないといけない。結局最初のアラームから2時間かかったが、10時半に布団から出て、10時40分に家を出るのに成功した。ジーザス。

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ものすごく天気がいい。マスクをして気づく。コンタクトにすればよかった。毎週金曜更新の、私のためにApple Musicがセレクトしてくれたニュー・ミュージック・ミックスを聴きながら駅に向かう。な、なんだこのセレクトは。なぜこれが好きだと思ったんだ。打ち込みのクラップ音と予想を悪い意味で裏切ってくるコード進行に、飛ばしたい気持ちをグッとこらえる。たまに口汚くなるが、私は曲なんて作れない、そうだろ、幼少期の作曲の経験でいい気になるんじゃあない。私よ、あんたがすごいんじゃない、ヤマハがすごいんだ。椎名林檎さんや宇多田ヒカルさんの前で同じこと言ってみろ。GarageBandもろくに使えたことはないし、ましてやこんなポップス作れないし発表するその行動力と勇気はリスペクトしないといけない。真摯に生きろ私。

電車の中はくだりということもあって空いていた。横長い席にひとりかふたり。誰も座っていない席の真ん中に座る。ソーシャルディスタンスをとらないといけない。2メートルあけないといけない。誰も私の隣に座ってくれるな。こんなに空いているんだ。口を一文字に結び、わかりやすく足を組む。誰の迷惑にもなっていないはずだ。降車する駅で立ち上がると足がビリビリしびれていた。ソーシャルディスタンスにも代償がある。

でももし、ソーシャルディスタンスが普及するなら、私はずっとこのままがいい。何しろ電車や駅の中は人が近すぎやしないか。車間距離があるんだから人間距離もどうにか普及してはくれないか。見知った人だけが2メートル内にいる世界でよくはないか。エスカレーターだって1段ずつ立っているのは近すぎる。満員電車などもってのほかだ。

11時30分 病院に着いてください

そうこうしていたら病院はもうすぐそこで、時計を見ると11:28をさしていた。いけない、受付は11:30までだ、いますぐこのニュー・ミュージック・ミックスを聴くのをやめて、受付に電話しないといけない。もうすぐつきますから待っててくださいと。いや、でも、走ったら間に合うかもしれない、少し走る。携帯を見る。29分になっている。ベビーカーの親子を横切り、信号機まで行く。渡れなかった。大きな音を出してコンクリートを運ぶトラックが通過する。電話しないと。スマホを開いて、病院の番号を見つける。かけた時には30分になっていた。マクス越しにイヤフォンのマイクで話す。あの、すみません、30分までの受付で、◯◯先生なんですけど、間に合いますか、あとどれくらいか?、えあ、もう、もうつきます、あともうすぐでつきます。トラックがまた通過する。あー、はい、えと、2分くらいでつきます、はい、はい。電話を切る。横断歩道を渡ると、歩道は桜並木だった。

友達のストーリーでもう葉桜だ、というのをみた。正直ずっと家にいたので桜など全然見れていない。最後に見たのは雪が降った日だ。顎がかくんと上がり、さっきまで走っていたのも忘れてよたよたと歩く。病院の入り口についたのに、スマホでぱちぱちと写真や動画を撮ってしまう。

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いけないいけない、自動ドアがあくと、アルコール消毒液がようこそしている!嬉々として手に出す。ジェルのやつだ!丁寧に手にすりこみながら受付に向かう。イヤフォンを焦って外し、スマホを受付にゴトっと置き、さいふから診察券を出す。その横にも消毒液が置いてある。これもジェルのやつ!気づくとスマホとイヤフォンとサコッシュの紐がグリングリンに絡まって、イヤフォンの先がコツンコツンと床に当たる音がする。順番になったらお呼びします。とりあえずその絡まったのを全体的に脇でおさえ、体をかがめて待合室のいすに向かう。座ると同時に持っていた荷物が一緒になったのが椅子の横にボロボロっと転がる。ひとつひとつ分離させながら思う。鼻をかみたいけどティッシュを忘れたし、もしかしたらスマホも消毒しないといけないんじゃないかと。トイレに向かい手を石鹸であらったあと、トイレットペーパーで鼻をかむ。スマホを拭くために少しだけちぎる。私の名前が呼ばれたような気がした。何せ広い大学病院なのに番号が表示されるディスプレイなどなく、テレビでは国会の様子が流れている。受付に戻って、呼ばれましたか?と聞くと怪訝そうな顔で「まだですけど」と言われる。ジェルのやつをもうワンプッシュもらい、スマホをしこしこと拭く。

『村上春樹、河合隼雄に会いに行く』を読んでいるけど、会話の下に補足でそれぞれの文章が書いてある。いったいどう読めばいいんだ。見開き1ページを全部読んでから、下の補足を読むか?それともいちど会話をすべて読んでから、最初から補足を追うべきか?日差しがあたたかく、本をめくるたびまぶしい。目を細めていると眠くなってきて、眉を寄せて同じ行を睨んでいると7番にお入りくださいと名前が呼ばれた。

12時15分 診察を受けてください

「最近具合はどうですか。」

「はい、先々週来るはずだったんですけど来られず、そこから何回か来ようとしたんですけど来られずで、少し大変でした。」
「朝はどうですか。何時ごろ起きられてますか。
「薬を飲んでいると11時ごろ、飲んでいないと13時ごろになりますね。」
これは嘘。薬を飲んでいると12時、飲んでいないと14時だ。嘘つき。見えっぱり。

「やっぱりね、まず朝ちょっと頑張って起きて、昼間起きているようにしてもらって。そうすと夜も寝られるようになりますから、ね。仕事はどうですか?うまく行ってますか?」
「はじめるとはかどるんですけど、はじめるまでが時間かかるんです」
「みなさんそうおっしゃいます」
「起きてから、なかなかはじめられなくて、遊んだりさぼったりしているわけではないんです。ずっと仕事のことを考えているんですけど、始められなくて…

「ああ、それには名前があって、


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