本会議:代表質問(野田佳彦2019/01/31)
施政方針演説など政府4演説に対する代表質問(衆議院本会議)
会派結成に当たり
○野田佳彦議員 社会保障を立て直す国民会議を代表して質問いたします。
社会保障と税の一体改革が決まったのは2012年ですが、「今後3年間で社会保障改革をなし遂げる」と今になって総理が発言するほど社会保障改革は遅れています。この現状に危機感を持ち、医療制度を初めとする社会保障制度を立て直そうという点で考えが一致した同志が集まり、新しい会派の結成に至りました。
「国民会議」と名にあるとおり、医療や介護の現場で国民との対話を重ね、政策を練り上げることを会派運営の基本としてまいります。
社会保障に対する将来不安が大きくなっている今日、社会保障の立て直しを野党結集のための政策の旗印として掲げる決意です。
国会においても党派を超えてご理解を得られるよう、これからの日本の有力な選択肢となる社会保障政策を提案してまいる覚悟ですので、高い壇上から恐縮でございますが、皆様のご指導ご理解を賜るよう心からお願いを申し上げます。
それでは順次質問に入ります。
統計不正問題
○野田佳彦議員 社会保障の将来に不安を抱く国民が多い中、セーフティネットへの不信を募らせる問題も発覚しました。賃金や労働時間の動向を示す毎月勤労統計の不正調査です。この不正が15年間も続いていたということは、民主党政権下でも見過ごしていたということであります。猛省しなければなりません。その上でしっかりと襟を正し、他の野党とも連携して、不正調査問題の全容解明に取り組む決意です。
「平成の、その先の時代」に向かう前に、与党の皆さん、さほど大きな問題はないとうやむやにせず、ともに全容を解明しようではありませんか。
毎月勤労統計の手抜き調査と手抜き調査の長年の引き継ぎは統計法60条2号に該当し刑事罰に問われる行為ではないでしょうか。政府の見解を求めます。
今回の事案が統計法違反・刑事罰に当たるという見解であれば、刑事訴訟法239条第2項、公務員の告発義務に沿って刑事告発する意思、告発義務を履行する意思が政府にあるか、見解を求めます。
逆に、今回の事案が統計法違反・刑事罰に当たらないという見解であれば、その理由と、では一体統計法違反の刑事罰に当たるような事例はどのようなものなのか、具体的に挙げてください。
政府が56の基幹統計を点検したところ、全体の4割にあたる23統計に問題があったことも明らかになりました。信用できない政府統計を基礎に、政策立案も国会審議もできません。市場調査も学術研究もできません。2010年1月、欧州委員会がギリシャの統計上の不備を指摘したことが報道され、ギリシャの財政状況の悪化が表面化しました。それが南欧に飛び火し、欧州全体に債務危機が連鎖したことは記憶に新しいところです。政府統計への不信は亡国への道につながりかねません。総理にはもっと強い危機感を持って統計の信頼回復に向け全力を尽くすよう要請をいたします。
日露関係 北方領土問題
○野田佳彦議員 計算ずくで法外な要求を突きつけてくる国もあれば、ポピュリズムに煽られ道理が通じない国もあります。2国間外交は本当に難しいと思いますが、総理は戦後日本外交の総決算を高らかに宣言されました。その一つが、日露平和条約交渉です。領土問題の解決に向けて意欲的であることは結構なことですが、基本姿勢に疑問がありますのでお尋ねいたします。
総理は昨年11月の日露首脳会談後、平和条約の締結後に歯舞・色丹の引き渡しを明記した1956年の日ソ共同宣言を今後の交渉の基本とすると明言しました。これは歴代政権が粘り強く交渉してやっとかち得た、北方4島を明記して帰属の交渉を継続するとした1993年の東京宣言から後退したスタンスです。総理、なぜ4島返還からわざわざ2島と軸足を移したのですか。明確にご説明ください。
歯舞・色丹の2島先行返還なら理解できますが、2島で最終決着という可能性もあります。全面積の7%の返還で妥協し残り93%を断念すれば、先人の苦労が全て無駄になります。総理は、過去の交渉を振り返り、昨年11月26日の衆議院予算委員会で「70年間全く変わらなかった」と言い切りました。「1ミリも動かなかった」と表現したこともあります。歴代政権の粘り強い努力に対して敬意を欠いているのではないでしょうか。ご説明ください。
日本側が2島返還へと大きく舵を切っても、ロシア側に変化の兆しは見られません。交渉責任者であるラブロフ外相は、第2次大戦の結果ロシア領になったと、相変わらず我が国が到底受け入れることのできない歴史観を主張しています。一方、河野外相は、国会審議においても、記者会見においても、日本側の交渉に臨む基本的な立場を明確にしていません。この彼我の差を見ると、2島どころか石ころ一つ返ってこないかもしれません。ラブロフ外相については、北方領土という呼称も使うなと言っているそうなので、あえて総理にお尋ねいたします。北方領土は我が国の固有の領土であるが現時点ではロシアによる不法占拠が続いているという法的立場に変わりはありませんね。昨日は小さな声でボソボソ言っていましたので、わかりませんでした。不法に占拠し続けていればいつか日本は諦めるという誤ったメッセージを周辺国に与え、竹島問題で韓国にエールを送りかねませんので、明確な答弁を求めます。
日韓関係 レーダー照射問題/元徴用工問題
○野田佳彦議員 さて、施政演説で総理は全く言及しませんでしたが、日韓関係は過去最悪です。特に哨戒機へのレーダー照射はあってはならないことであり、明らかに非は韓国にあるはずですが、我が国の抗議に対して韓国内の反日感情が高まっています。双方の言い分が真っ向からぶつかっているとき、日本は大人の対応と称して協議を打ち切ることにしました。私は、この対応に疑問を持っています。外交の本質は国益をかけた戦いです。武力という手段を用いることなく、知識・情報・説得力・発信力など総力を結集して国益をかけて戦う真剣勝負です。厳しい東アジア情勢を鑑み、我が国が大人の対応で自己抑制しようということでしょうが、途中で投げ出すことは外交敗北です。何事につけ、日韓の最大の問題は、事実の認識ができないことです。ですから、今回日本は、けんかではありませんから、冷静かつ明晰にファクトを示し続け自らの正当性を明らかにしていくべきです。理不尽な主張にはきちっと反論することも肝要です。そして、しっかりと国際社会にアピールしていくべきです。総理のご所見をお聞かせください。
元徴用工問題における韓国の対応も常軌を逸しています。同じ内容で日本と請求権協定を結んだアジアの国はほかに4カ国ありますが、条約を覆しているのは韓国だけです。この元徴用工問題についても、法と正義にのっとり、日韓請求権協定に基づき粛々と政府間協議の受け入れを求め続けるべきだと思いますが、総理のお考えをお聞かせください。
過去最大規模 平成31年度予算案
○野田佳彦議員 昨年11月20日、財政制度等審議会が麻生財務大臣に対して「平成31年度予算の編成等に関する建議」を提出しました。その中で、平成を「常に受益の拡大と負担の軽減・先送りを求めるフリーライダーの圧力に税財政運営が抗いきれなかった時代」と厳しく総括しています。「先人達や、新たな時代そして更にその先の時代の子供達に、平成時代の財政運営をどのように申し開くことができるのであろうか」と政策の失敗まで認めています。そして「平成という時代における過ちを二度と繰り返してはならない」と指摘した上で、「平成31年度予算は新時代の幕開けにふさわしいものになることを期待したい」と結んでいます。
ところが国会に提出された平成31年度予算案は一般会計総額が101兆4571億円。昨年度よりも3兆7000億円も増加し、当初予算として初めて100兆円の大台を超えました。総理、この過去最大規模予算案は財政審の期待に沿ったものであると胸を張って言えますか。ご答弁ください。私には、財政審の建議を黙殺してしまったように思えます。
ポイント還元の問題点
○野田佳彦議員 前年度に比べて歳出総額が大幅に膨らんだ主な理由は、手厚い消費増税対策です。総理は「いただいた消費税を全て還元する規模の十二分な対策を」と語られました。しかし、余りにもあれもこれも盛り込んだばらまき対策になっていないでしょうか。軽減税率はポピュリズムの極致であり、逆進性対策として効果がありません。プレミアム商品券も効果がないことは実証済みです。そのほか指摘したいことは山ほどある消費税対策でありますけれども、キャッシュレス決済のポイント還元策にポイントを絞って質問いたします。
税率10%の商品を大手フランチャイズチェーンでクレジットカードなど現金以外で購入すると2ポイント還元ですから税率は実質8%になります。中小小売点でキャッシュレスで購入すると5ポイント還元ですから税率は実質5%です。軽減税率対象の食品を現金で買えば税率は8%ですが、カードで買えば、大手チェーン店なら税率は6%、中小小売点なら税率は3%になります。10月から実質的に消費税率が3・5・6・8・10%と複数税率が併存することになりますが、総理は店頭で大混乱が起こると思いませんか。
就学援助を受けている子どもが学用品を買ったりお年寄りが日用品を買う場合、カードを持っていないので現金払いでしょうから、税率は10%です。一方、お金持ちが個人経営の店で高級和牛やキャビアを買っても、支払いがカードなら税率は3%です。現金で買い物をする子どもや高齢者は増税、カードを利用する富裕層は減税です。総理、キャッシュレス決済でのポイント還元策は逆進性を助長するのではないでしょうか。
ポイント還元策は本年10月から来夏の東京オリンピック前まで9カ月間実施されます。5ポイント還元の恩恵を受けてきた人たちは、廃止後は実質的に5%増税になります。我が国で経験したことのない大幅な引き上げです。ポイント還元策は消費税引き上げ前後の消費の変動を平準化する目的であったはずですが、東京オリンピック前後に大きな駆け込み需要と大きな反動減を惹起するのではないでしょうか。景気の先食いによって起こるオリンピック後の不景気を「オリンピックの崖」と言いますが、ポイント還元策により相当に急傾斜な崖になるのではないでしょうか。総理のご所見をお伺いいたします。
最後に、私が最も憂慮していることを質問いたします。
過剰なばらまき対策に予算を使うことは、社会保障の充実・安定と財政健全化のためなら増税もやむを得ないと考えていた国民を裏切る行為です。何のための増税かという根源的な政策不信を招きます。少なくとも、究極の愚策とも言うべきポイント還元策は撤回すべきではないですか。答弁を求めます。
還元率5%というアイデアは総理直々のものだと仄聞しています。さまざまな弊害をもたらすような思いつきを、政府も与党もなぜ黙認してしまったのでしょうか。絶対権力は絶対に腐敗します。そして絶対権力は絶対に独善に陥ります。私たちは少数精鋭の7人の侍ですが、独善と断固戦っていくことをここに宣言して、質問を終わります。
ありがとうございました。
【答弁】統計不正問題
○安倍晋三内閣総理大臣 野田佳彦議員にお答えをいたします。 今般の毎月勤労統計に関する事案と統計法についてお尋ねがありました。
統計法第60条第2号違反の罪は「基幹統計の作成に従事する者で基幹統計をして真実に反するものたらしめる行為をした」場合に成立するものと承知しています。厚生労働省の特別監察委員会においては、先般、それまでに明らかになった事実等について報告書を取りまとめていただいたところですが、さらに独立性を強めた形で検証作業を進めていただいているものと承知しております。
野田議員も総理を務めておられましたのでご承知のこととは思いますが、具体的にどのような事例であれば統計法違反となるかについては、犯罪の成否は捜査機関により法と証拠に基づき個別に判断されるべき事柄であり、政府としてお答えすることは差し控えます。
【答弁】日露関係 北方領土問題
○安倍晋三内閣総理大臣 北方領土問題についてお尋ねがありました。先般もお答えさせていただきましたが、一部議員のやじがうるさくて、よく聞き取れなかったかもしれません。
また、「領土問題の解決に向けて意欲的であることは結構なことですが」とお褒めの言葉をいただきましたが、意欲的であることは総理大臣としては当然のことではないかと思います。
北方領土は我が国が主権を有する島々です。この立場には変わりはありません。
日露関係はこれまで1993年の東京宣言を初め多くの諸文書や諸合意が作成されてきており、これらの諸文書や諸合意を踏まえた交渉を行ってきています。その中でも1956年の日ソ共同宣言は両国の立法府が承認し両国が批准した唯一の文書であり、現在も効力を有しています。1956年の共同宣言の第9項は、平和条約交渉が継続されること及び平和条約締結後に歯舞群島・色丹島が日本に引き渡されることを規定しています。従来から政府が説明してきているとおり、日本側はここに言う平和条約交渉の対象は4島の帰属の問題であるとの一貫した立場です。その上で、交渉内容に関わることや、我が国の交渉方針、考え方については、交渉に悪影響を与えないためにもお答えすることは差し控えさせていただきます。
いずれにせよ、政府として領土問題を解決して平和条約を締結するとの基本方針のもと、引き続き粘り強く交渉してまいります。
【答弁】日韓関係 レーダー照射問題/元徴用工問題
○安倍晋三内閣総理大臣 日韓関係についてお尋ねがありました。
韓国軍艦によるレーザー照射事案等については、専門的・技術的観点から防衛当局間で協議が行われたところであり、この事案等に関する認識及び今後の対応についてはこれまで岩屋防衛大臣や防衛省が随時明らかにしているとおりです。
旧朝鮮半島出身労働者の問題については、国際法に基づき毅然として対応していく考えであり、我が国の一貫した立場に基づき、主張すべきは主張し、韓国側に適切な対応を強く求めていきます。
先般行った日韓請求権協定に基づく協議の要請については、韓国側に対して誠意をもって協議に応じるよう粘り強く働きかけてまいります。
【答弁】過去最大規模 平成31年度予算案
○安倍晋三内閣総理大臣 平成31年度予算についてお尋ねがありました。
平成31年度予算は、全世代型社会保障制度への転換に向け、消費税の増収分を活用して幼児教育の無償化を初め社会保障の充実にしっかり対応するとともに、消費税率引き上げに伴い臨時特別の措置を講じることにより、予算規模は101.5兆円となっております。
特に今般の消費税率引き上げに当たっては、前回の8%への引き上げの際に耐久財を中心に駆け込み需要と反動減といった大きな需要変動が生じた経験を踏まえ、いただいた消費税を全て還元する規模の十二分な対策を講じることとしました。
同時に、財政健全化も着実に進めています。国の税収は過去最高62兆円を超えるとともに、社会保障関係費の実質的な伸びを高齢化による増加分におさめるなど歳出改革の取り組みを継続することで、新規国債発行額が政権交代前と比較して約12兆円減少し、安倍内閣発足以来7年連続で減少しています。
引き続き、経済再生なくして財政健全化なしとの基本方針のもと、「平成の、その先の時代」に向かってしっかりと取り組みを進めてまいります。
【答弁】ポイント還元の問題点
○安倍晋三内閣総理大臣 ポイント還元についてお尋ねがありました。
前回8%への引き上げの際には予想以上に消費の低迷を招き、その後の景気回復にも力強さを欠く結果となりました。また、大企業は消費税の引き上げ後、自己負担でセールなどを実施できるのに対し、中小小規模事業者は大企業に比べて体力が弱く競争上の不利もあります。こうした点を踏まえ、今回、中小小規模事業者に限定した消費をしっかりと下支えするため大胆なポイント還元を実質するとしたものであり、ばらまきとのご指摘は当たりません。
また、逆進性を助長するといったことのないよう、誰でも簡単に加入できるプリペイドカードなど多様な選択肢を用意し、クレジットカードを持たない幅広い消費者がポイント還元のメリットを受けられるようにします。
むしろ雇用の7割を占める中小小規模事業者の売り上げが伸びることになれば、従業員の方々の所得拡大など裾野の広い波及効果も期待されると考えます。
その実施に当たっては、混乱を回避するため、ポイント還元の対象となる店舗に還元率を明示したポスター等を張り、消費者の皆さんが一目でわかる工夫を講じます。
また、来年の夏は東京オリンピック・パラリンピックに伴うインバウンド消費など需要の拡大が見込まれることから、今回のポイント還元はその手前の来年6月までの時限措置とすることで反動減による景気への悪影響は最小限に抑えることができるものと考えております。
今回のポイント還元を初め十二分の対策を講じることで、10%への引き上げによる景気の腰折れを防ぎ、その回復軌道を確かなものとしてまいります。
(以上)
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