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【秘書対談】人のパフォーマンスを最大化するチカラ。秘書から紐解く、人と働く仕事学。

「秘書」というお仕事、どのようなイメージを持たれていますか?例えば「社長や上司のスケジュール管理をする人」や「付き人のようにずっと一緒にいる人」のようなイメージを持っている方もいらっしゃるのではないでしょうか?テレビドラマで見たことがあったり、自分が務める会社に秘書の方がいたりと、その存在をなんとなく感じていつつも、実際にどのような仕事をしているのか、あまり公には知られていないのではないでしょうか?
今回は、そんな「秘書」として活躍経験のあるお二人を招き、そのお仕事内容を紐解きます。その実態を深掘りしていくと、マネジメントや日々のコミュニケーションに今日から活かすことのできる、対人関係におけるハウツーが見えてきました。

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服部 春奈(はっとり はるな)
東京都出身。2001年国内メーカーに入社し、宣伝部でメディア業務(テレビ、ラジオ、デジタルなど)を担当。
メディア業務に加えて15年以上、部長職の秘書業務も兼務。

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若山 さくら(わかやま さくら)
打楽器奏者兼スタバのお姉さんという異色の経歴から、ハンズオン型投資会社の役員秘書兼経営企画室を経て、現在はM&A、ファイナンス、VC(ベンチャーキャピタル)をメインに扱う都内法律事務所の秘書兼何でも屋として勤務。


最大限の力を発揮できるようサポートしていく、それが秘書の仕事領域。

― 本日はよろしくお願いします。お二人とも「秘書」としての活躍経験がございますが、服部さんは部長秘書、若山さんは弁護士秘書と、フィールドや立場が異なるように思います。まずは、お二人のお仕事の範囲や領域についてお伺いできますでしょうか?

若山 私は「ボス弁」と呼ばれる経営者であるパートナー弁護士1名の秘書業務に加えて、そのボスからお仕事をいただいている居候の弁護士「いそ弁」3,4名の方のサポート業務を担当させていただいています。服部さんとは状況も業務内容もかなり異なるのでは?と思っています。いかがですか?

服部 そうですね。私の場合は、所属している組織の部長秘書として、歴代6名の部長クラスの方を担当しました。いわゆる秘書部に所属する役員秘書ではないのですが。秘書というと担当のボスにつくイメージではありますが、部長だけでなくその部署のメンバーたちが働きやすくなることも役割として担っていたと思います。例えばスケジュール管理業務1つをとっても、その部長に仕事の報告をしたい部下たちがいて、どう時間を確保するか、というところを調整するのも秘書の業務です。全体のスケジュールに対して「今どのミッションの優先順位が高いか」、「これは後回しでもいいのか」、「この来客を優先すべきかどうか」など。その組織におけるバランスを判断する力とコミュニケーション能力が問われるお仕事だと思います。企業における秘書と、一人一人の弁護士に就く秘書とは、また性質が異なっていて、そこが仕事内容の違いにそのまま出てくるかもしれないですね。

―同じ「秘書」という肩書きですが、お二人の場合だけを見ても、その仕事内容が異なっているのですね。それでいうと、全国数多にいらっしゃる「秘書」の方のお仕事内容っていうのは、千差万別なんでしょうね。

若山 テレビドラマで観る秘書ってすごくキラキラしていたり、華やかなイメージがあるじゃないですか?でも実際は、「地道」という言葉が適しているお仕事だと思っていて。現在の弁護士秘書も前職の秘書業務も、服部さんがおっしゃったように、「周りの方々の気持ちを汲んでボスに伝える」、「ボスの気持ちを汲んで周りに伝える」、その間に入って潤滑油のように機能する存在だと感じています。
また、手土産の手配やお礼状を出したり、会食に参加される方々のパブリックリサーチを行ったり、他にも、電車で移動するときの経路を調べるなど、こうやって聞くと細々した仕事も多くあるんです。ただ、電車の経路を調べること1つをとっても、「何が最短でかつ、楽なのか。」「最短でも乗り慣れていない線であれば、ボスにとってはストレスになるかもしれない。」「歩くのが嫌いなボスだったら、最短ではなくても、乗り換えが短い方がいい」など。乗り慣れてないがゆえに、遅れてしまったら、それがストレスになる可能性もある。「ここまでは電車で移動するけれど、ここからはタクシーの方がノンストレスで移動できる」とか、その時その場で、最適解を出すイメージです。一見ただの経路調べでも「どうすればボスの負担が減るか、どうすればボスの仕事のパフォーマンスを上げられるか。」をサポートする仕事が秘書の重要な考え方だと感じています。業務内容だけを聞くと、本当に地味なことかもしれないけれど、その一つ一つが、ボスのパフォーマンスの最大化に繋がっているんです。高いヒール履いてスカートひらひらとなびかせて、というイメージもあるかもしれませんが、連絡や調整のために走り回ったりもするので、スニーカーの日もありますし(笑)雑草魂でいかなきゃ!というシーンはたくさんありますよ(笑)

kaitlyn-baker-vZJdYl5JVXY-unsplashのコピー

服部 秘書の担当業務=スケジュール管理、出張手配や手土産手配というのが一般的に知られていることではあるのですが、それぞれに表面上では伝わっていない裏側がありますよね。スケジュール管理も多くの場合、予定通りにはならない。秘書が必要な人=それだけ忙しい人なので、突発的な緊急案件が入ってきたり、急にスケジュールが飛んだり、いろいろなことが起きます。もちろん人によりますが、実際に「飛行機に乗り遅れそう!」と早朝から連絡が入ったこともありました。万が一に備えて、航空サービス会社のお客様相談センターなど、あらゆる緊急連絡先のストックをしていたのですぐに連絡をして、便を直前で調整する手配をするとか、そういうこともとても多いんです。日々の管理をする以上に、そういった緊急自体に柔軟に対応を行っていくのが大切な仕事なんです。若山さんのおっしゃる通り、地道で泥臭いこともたくさんある。私が過去に担当していた方は、取引先の多い部署だったので、記憶力もとても求められましたね。一回だけしか会ったことのない方だと、そう何人も覚えられないので「あの方、どなた?」と聞かれた時に、スッと答えられるように準備しておく、だとか。

― どうやって一瞬でたくさんの方を記憶していくんですか!?

服部 ベタですけど、頂いた名刺にその方の特徴を書き込んだり、ですかね。

若山 私もよく似顔絵を書いてました!

服部 やりますよね!それこそ過去の失敗談なんですけど、すごく見た目にインパクトのある方がいて、キティちゃんのネクタイをしていたんですよ。それで名刺に「キティちゃん」ってメモをしていたら、全く顔を思い出せなくて...。キティちゃんのネクタイの柄だけは鮮明に覚えてたんですけどね(笑)

若山 かわいい!次に会った時は、もしかしたらディズニーのネクタイかもしれないですね(笑)

服部 今でこそ笑い話ですけど、当時の失敗談ですね(笑)それこそ今はスマホが当たり前なので、その場でいろいろな情報を確認できますけど、デジタル領域がそこまで発達していなかった当時は、外ですぐに情報を確認したり変更することもできなくて、スケジュール表を会社のPC画面上でずっと記憶していたり。その絵を頭に残しながら「きっと今部長はこの辺りを移動中だ」とか「この時間までは商談中だ」とか記憶していましたね。若山さんは、そういった記憶をしておくみたいなことはそんなに無い?

若山 ボスから聞かれた時に、何事もすぐに答えられるように記憶しておくことはありますね!少しでも待たせてしまうと、それがボスのストレスになりますし、その後の商談に変に影響しないように。なので、唐突にボスがご飯を食べたいって言い出したとしても、以降のスケジュールのパフォーマンスを守るためなら、もちろん遮ります。それによって予定が崩れてどこかにシワ寄せがきてしまう可能性が少しでもあるなら、ボスのパフォーマンスを最優先して私がしっかり導いていきます。なんでも要望を叶えるのではなく、お仕事としてのコミットに向き合っていくことで、結果的にお互いのリスペクトにも繋がっていくと思うんですよね。

相手の気持ちを「分かろう」とする姿勢に、全てが詰まっている。

ー お二人の仕事内容をお聞きしていると、共通する部分はあれども、やはりフィールドが異なる分、出てくるワードにも違いがありますね?

若山 就く相手の方によって、本当に全然違うんですよ。同じ会社でもそうだと思います。

服部 私が過去担当した方も本当にバラバラで、全て任されるくらい丸投げの方もいれば、自分で何でもできちゃう方もいて。それぞれの特徴ややり方に合わせた対応に変えているかも。

若山 今服部さんがおっしゃったことがきっと全てで、私たちは相手に合わせて自分自身をカスタマイズしているんですよね。それが共通していることだと思います。仕事の表面上に見える業務は異なるかもしれないけれど、根底は相手に合わせているということだと思います。

― なるほど。「相手に合わせる」「自分をカスタマイズする」いずれも、誰でも簡単にできることではない印象がありますね。お二人は、どうやってそれを見極めて実現しているんですか? これって秘書のお仕事に限らず、いろいろな仕事の場で求められることだと思っていて。

若山 私は、相手のことをすごく見ています。探っています。何をされたら喜ばれるかな、嫌いかな、と。どれだけ長く就いていても、ずっと観察し続けていますね。「見る」じゃなくて「視る」っていう表現が適切かもしれないですね。「視る」ことを大事にしています。

服部 コミュニケーションが全てじゃないですかね。ビジネスの話もプライベートの話も含めて。部長の行きつけのお寿司屋さんが北海道にありまして。そこの大将が弊社の商品をご購入して下さったというお話をたまたま聞いていて。その後偶然その大将からのお電話を取り次ぐ機会があったので、「この度はありがとうございました。」御礼をお伝えしたんです。そうしたら「直接お伝えしてなかったのに、僕のこと知ってくれているんですね!」と喜んでいいただけました。こういった些細なことや、他にも部長のご家族のことで「お嬢様がご結婚する」とか「御子息様が受験で忙しい時期」とか。それは秘書だからではなく、一緒にお仕事をする相手としてコミュニケーションを取ることは当たり前のことという意識を持っています。それゆえに気配りができることがある。そういうのが大事なんじゃないかなと思いますね。

若山 素敵なお話です。仕事上見えないからと言って、そこまでコミュニケーションを踏み込まない関係性も多いですからね。私が先ほど挙げていた「探る」という点だと、ちょっとやり過ぎなくらいやってみるのも大切なことかなと思っていまして。やり取りの中でジャブを打ってみるんです、もちろんの失礼の無いように。

服部 うんうん。わかる。

若山 例えば「お電話はこちらでかけて、出られたら取り次ぎましょうか?」とか。すると「私そういうのは大丈夫、自分でかけるから。」って。ボスのやりたいこと、やりたくないことの範囲を探るんです。お仕事への考え方が分かると、それに伴って一つ一つの聞き方が変わってくるんですね。先ほどの電話の話をもとに相手を探ると、先方からのメールに対して「スケジュールは空いていますけれど、ご返信されますか?私から返信しておきますか?」と。すると「あ、今日はお願いしてもいい?」とか、「メール案だけもらってもいい?」とかスムーズにバランスが取れていくんです。ここまで踏み込むと嫌なんだなと分かると、こちらからのアクションや歩み寄り方の選択肢が変わっていく。そういった言葉尻の違いだけでもコミュニケーションのストレスを減らすことができるんです。

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服部 相手の気持ちが分かる人ってすごく大事なことだと思います。今どうしてほしい、これはやっておいてほしい、っていうのが、長年就いていれば読み取れてきますよね。

若山 相手の気持ちを想像する、分かろうとするって、秘書にとって重要なことだと思うんです。ただ、これって秘書に限らず、いろんなところで重宝されることですよね。

服部 そうだよね。お土産一つにしても「この人にはご家族がいるけれど、きっと毎日会食だろうから、ご本人よりもご家族が喜んでいただけるものをお渡ししようかな」とか、「そうするときっと、奥様からの旦那さんとしての株が上がるだろうな」とか。相手の気持ちを考えることですよね。

若山 目の前の相手だけじゃなく、その奥も見ているんですね!さすがです。

服部 でもさっき若山さんが言ってくれたように、秘書だからこうあるべき、ではなく、どんなお仕事にも通ずることだなと私も思います。相手の気持ちを察することは、全てのシーンにおいて役に立つ

その真髄は、「視る」。とにかく「視る」こと。

服部 私は経験も長いし、できて当たり前かなと自分では思うけれど、若山さんが若くして、こんなに想像力や相手への配慮ができるのはなぜなんですか?

若山 あ、それで言うと、スターバックスコーヒーで働いていた時に言われたことが凄く大きな影響を与えていて。「心遣いができるね」って言われたことがあるんです。それも気遣いじゃなくて、心遣いと言われたんです。雨の日に杖をついたお客さんがいらっしゃった時の話なんですけど、お店を出られる時に「お気をつけて行ってらっしゃいませ。」とお声がけをする、これは「気遣い」なんですね。それでその当時私は、お客様の手をとって段差を一緒に歩いて、一緒に傘をさして「行ってらっしゃいませ」と送り出したんです。そしたらそれを見ていたお客様が「あなたは今、心遣いができていたね」と言って下さったんです。心遣いなんて言葉、今まで使ったこともなかったんですけど、その時から自分の中で大事にしていることの一つになりました。何をしたらその人の役に立つのか。相手に対して心を遣って行動を起こすこと。想像力と似ているけれど、私はこの言葉がすごく好きですね。

服部 それこそ、「視ている」がゆえにできたことだったんだろうね。視て、把握して、その先を想像していく。心遣いって素敵な言葉ですね!

若山 あとは「備える」ことも大切だなと思います。先日服部さんにお会いした時に、福岡県のお土産をいただいたじゃないですか。私あの時思ったんです。服部さんは普段何人分のお土産を買ってるんだろう?って。お会いする約束をしていたとはいえ、他にもいろんな人と会うだろうから、きっと何人と会ってもいいように準備しているんだろうなって。この人とこの人用にとかじゃなく、とりあえず20人分とか。

服部 バレてるね…(笑)いつもお土産を買うときは、たくさん買ってます(笑)

若山 何かあった時の心の備えがある感じがしています。どんな時でも臨機応変に対応できるよう。ね、服部さん。

服部 分析されてるなー。もちろんこの人のためにと選ぶ物もあるけれど、おっしゃる通り、これから直近で会う予定の人たちみんなに向けて、いつもお土産は買っています。お会いしたときの話のネタになりますしね。

若山 話のネタをプレゼントしてくれるんだって思っていました(笑)例えばそれが一人で食べきれないものとかだと、誰かにシェアした時に、またそのエピソードを私が話せたりだとか。自分自身の手の届く範囲外も見えているのは見習わないと、と勉強させていただいております。

服部 仕事もプライベートもそうだけれど、どれも本当の意味では一人でできないし、自分の周りには必ず誰かがいると思うんですね。だからこそ、人を「視る」ことが必然的に重要になってくるし、人と一緒にいることの本質的なことなんじゃないかなと思います。これからはAIの時代かもしれないけれど、誰と仕事をしたいか、この人のためだからやってあげたい、何事も相手あってだし、結局人が動くのはそこだと思っていて。この人のお願いだから、この人に任せたい。そういう時に思い出してもらえるかどうか。それに尽きるのかなって。

若山 その通りだと思います。今日は素敵なお話をありがとうございました。

服部 こちらこそ楽しい時間でした。ありがとうございます。