期待の矛先

 僕はこれまでの人生で期待されて生きてきたという自覚がある。これは僕自身がナルシストだからとかそういう話ではない。

僕はこれまで自分自身に役割を課してきた。その役割は誰かのために存在するものだった。だから、その役割を全うしようとすれば僕は自然と期待される。事実、されてきた。そして、僕はその役割を自覚し忠実にこなしてきたという自負がある。僕は誰かに期待されてその期待に応えようと必死に生きてきた。僕の運命は透明な水晶玉に委ねられていた。

僕は誰かからの期待を求めていた。けれど、期待されるのはあまり好きじゃなかった。期待されたら僕はそれに応えようとしてしまう。僕に向けられたまっすぐで透明な瞳が僕は嫌いだった。


僕をそんな目で見るな。

僕に助けを求めようとするな。

お願いだから、僕に期待をかけないでくれ。


本当のところ、僕は誰かに期待したかったんだ。

期待ばかりされてきた中で、自分が誰かに期待することを禁じられているように、僕は冷たい鎖につながれて身動き1つとれなくなってしまった。


僕は最近誰かを信じてみたくなったんだ。自分のすべてを任せてもいいと思えるような奴に出会いたいんだ。それは相棒というものに近いのかもしれない。でも、僕の隣にはいつも誰かがいた。それこそ僕にとっては相棒のような奴ばかりだった。


でも、本当の僕を知っているのは僕自身だけ。僕の声は真っ暗な部屋でこだまして僕の耳に届くだけ。もちろんこれまでの僕は、相棒に対して自分の多くをさらけ出してきたつもりだ。そもそもが目立ちたがり屋な性分だったから、なるべく普通とは違うことをしようとしてきた。自分の特異さを誰かに認めてほしかった。でも、その特異さなんてものはどこにもない。僕は普通の人間だ。いや、人間に普通も異常もない。人間はそれ以上でもそれ以下でもない。人間でしかない。


僕はおそらく誰かに期待したいのだと思う。でも、それが誰なのかはまだわからない。いや、わからないふりをしている。わかっても、それが本物かどうかわからない。

わからないと言って目を背けることは簡単だ。だって、見たくないものは見なければいい。自分には関係ないといったように何食わぬ顔で、その場を立ち去ればいい。でも、生憎僕はそういう人間ではない。

ほっとけないんだ。僕は期待を求めている。昔は自分自身に対して求めていた。でも、もうおなかいっぱいだ。少なくとも今はおなかいっぱいだ。だから今は自分以外の誰かにその期待を求めている。僕自身が誰かに期待することを求めている。


僕は僕でありたいと思う。

待っていても、何も変わらない。

自分が今の状況を変えたいと思っているなら、自分から動かなきゃ。



そうやって僕は周りへの期待をしてこなかった。

何でも一人でやろうとしてた。

僕は僕自身にばかり期待してた。


僕はそれを変えたい。

だから僕はまた僕に期待するね。

最後まで読んでいただきありがとうございます。 皆様から頂いたサポートは今後の自己研鑽のために使わせて頂きます。 僕の書いた文章で何か少しでも感じていただけたら、僕にとってこれほどうれしいことはありません。