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2022年7-12月Works

2022年下半期の全作品と振り返りコメントです。

【書籍】


◆【共著:『現代メタルガイドブック』(P-VINE RECORDS)】
和田信一郎 a.k.a s.h.i.さんからは日頃大いに刺激を受けているが、何よりも共感するのは、メタルを起点にしつつ彼が意識的に広げている俯瞰的な視座。ポップミュージックからの視点をメタルに還元しながら――逆も然り――常に対象に迫ろうとするまなざしに学ぶことが多い。メタルとハードコアは自分の大切なルーツの一つなので、そういった点でもこのジャンルの音楽に対して少しだけ貢献できてよかった(というのもおこがましいけれど)。

【対談記事】


◆【PRKS9】2022年, HIPHOPの現在地 重要ジャンル・作品総整理 by つやちゃん×遼 the CP
評価すべき音楽やアーティストのために、意義あることであればできるだけのことをしたい。ただそれだけの想いに突き動かされて遼 the CPさんと深夜遅くまで熱く語り合った企画。それにしても、釈迦坊主・Tohji以降とも言うべきか、オーセンティックなヒップホップ軸からやや外れたハイパーなオルタナティブ・ヒップホップがここまでシーンを作り熱狂を生むとは(つい1、2年前までは)思っていなかった。PRKS9(やAVYSS)がメディアとして果たしている役割の大きさを年々痛感する。


◆【note】コスメは語りはじめたVol.1「コスメとファッション」
ひょんなことから始まったマリコムさんとの対談企画。現時点で世の中において答えが見つかっていないテーマに取り組んでいる自覚があり、だからこそ内容については様々な意見があるだろう。自分の中でも、ここで発言している主張については1年後には考えが揺らいでいる可能性を捨てきれない。だが、とにかく思考してみたい。このテーマについてこの切り口で考えることに意味がある、という勘を頼りに動いている。

【トーク(Podcast/Radio/Event)】


◆【トークイベント:歌舞伎町のフランクフルト学派】伏見瞬×西村紗知×つやちゃん「教えてつやちゃん!100の質問状」
2022年下半期、とても楽しかった仕事のひとつ!優れた書き手の方たちと話すのはいつだって楽しいに決まっている。トークイベントをきっかけに出会った方も何人かいて、そこからまた次の企画が生まれたりも。一人で書くより皆で書いた方が楽しいし、有意義なものが生まれることを再確認。こういう機会を与えてくださった伏見さんと西村さんに感謝いたします。

◆【トークイベント:続・日本語ラップナイト】つやちゃん×赤井浩太×韻踏み夫「わたしはラップをやることに決めた フィメールラップ批評原論刊行記念トークイベント」
2022年下半期、最もやりきった感のあった仕事のひとつ!赤井さん、韻踏み夫さん、そして運営に入っていただいたラッキーストライクの袴田さんと何度も打ち合わせを重ね語り合った。実のところ、書籍を出したこと以上にその書籍を通じて同時代のリスペクトする書き手の方たちと知り合い議論できたことの方が嬉しかったし充実感があった。もちろん、自身の課題も見つかった。この日の夜のことは一生忘れない。

◆【トークイベント:現代メタルガイド邦楽編】和田信一郎×藤谷千明×つやちゃん×大久保潤「現代メタルガイドブック刊行記念トークイベント」
和田信一郎さん、藤谷千明さんと初めてお会いした。事前打ち合わせ等ではあれもこれも話そう!と思っていたが結局本番は時間がなく全ては網羅できない(トークイベントなんて大体いつもそう)。改めてここで伝えると、自分のメタル遍歴は原体験がXとLADIESROOM。だが当時はそれをメタルとは意識しておらず、その後いわゆる洋楽メタルとしてスラッシュメタルやメロデスを聴くようになって「あれってメタルだったんだ」と再確認した。と同時に自分はニューメタルとメタルコア~スクリーモの洗礼が大きく、リアルタイムだとそのあたりが一番思い入れがある。

◆【APPELE VINEGAR -MUSIC+TALK- ポッドキャスト】
出演:ASIAN KUNG-FU GENERATION後藤正文さん・小熊俊哉さん・矢島由佳子さん・つやちゃん「音楽にまつわる様々なトピックについて、時にはゲストを迎えつつ幅広い視点で語り合うポッドキャスト」※レギュラー出演中

2022年下半期のポッドキャストにおける一番のトピックスは、番組連動プレイリストがSptify公式という形で新たに始まったこと。月に一回、4人で頭を悩ませながら曲を選んでいる。いつも、まずは非公開プレイリストにそれぞれが10曲ずつくらい入れていくわけだが、誰かが曲を入れたらその選曲を見て誰かが外す/変えたりするなど、水面下で地味な駆け引きが行われている。(というのはもしかすると自分だけかもしれない?)

【インタビュー】


◆【ミュージック・マガジン2022年12月号】SUGIZOインタビュー
よくサンレコ等で拝見するSUGIZOさんの素敵なスタジオにて取材。自分はインタビューの度にぐっときて涙腺がゆるんでしまうダメな人なのだが、SUGIZOさんは本当に真摯で熱かった分、これをどの程度テキストで表現するかという点に悩む。特に、ミュージック・マガジンはどちらかというと淡々としたトンマナだと思うので、やや抑制気味に仕上げざるを得ない。けれども、媒体カラーを意識することで自分の中に有限性やルールが生まれ、それをいかにクリアするかという点で技術が磨かれていく。毎回が訓練。

◆【bbl MAGAZINE vol.178 10月号】Joyce Wriceインタビュー
日本の血をひいているジョイス・ライスだからこそ、日本のメディアからの取材は嬉しいのかもしれない。終始笑顔で、非常に明るいヴァイブスに満ちていた。最近の愛聴盤を訊いて、あぁこの人は本当にR&Bが好きなんだなと感じた。

◆【rockin'on 2022年10月号】Beabadoobeeインタビュー
サマソニで来日していたビーに、多彩な切り口で取材。ビーのTikTokやInstagramが好きでよく見ているが、そこで得たフィールを元に質問に落とし込んでいった。

◆【雑誌サイゾー2022年1月号】yahyelインタビュー
2010年代半ばにヤイエルや小袋成彬らが作った、ポスト・ダブステップやアブストラクトR&Bの魅力的な浮遊感覚、都会のムード。あの空気感はそれまで存在しなかったもので、いつかきちんと言語化したいと思っている。取材自体は、良い意味で意見がバラバラなバンドの実態が見えて面白く、特に篠田ミルさんの一つひとつの発言が鋭かった。

◆【CINRA】マネスキン インタビュー「いま、ロックスターには何が求められている? マネスキンが語る、ステージに立つ人間としての使命と役割」
マネスキンには訊いてみたいことが山ほどあったわけで、ほぼ全部をぶつけることができて良かった。通訳の伴野さんに深く感謝。しかし、マネスキンのポジティブな空気というのは一体何なのだろうか。このバンドには何か大きな力があるし、だからこそ2023年以降もぜひ追っていきたい。「ここを掘れば何か大事なものが出てきそう」という勘は重要で、自分はマネスキンにそれを強く感じる。

◆【Rolling Stone Japan】SYD インタビュー「シドが明かす失恋の乗り越え方、ジ・インターネットの今後、フジロックへの想い」
シドから出る一つひとつの言葉が好きで、それはなぜかというと、やはり愛についてとことん考えている人だからだと思う。『Broken Hearts Club』はきっと長く聴き続けるアルバムになる。

◆【Rolling Stone Japan】Pale Wavesインタビュー「ペール・ウェーヴスが変化し続ける理由 インディじゃなくてオルタナティブになりたい」
ここでもまたポップパンク路線の影響源としてパラモアの名前が!ヘザー単独の取材ということで、やりたい方向へどんどん突き進んでいるんだなというのは伝わってきた。そうなると個人的には他メンバーとの関係性がどのように変化しているのか気になっていたので、この後来日した際にrockin’onでヘザー&キアラに話を訊けたのは良かった。

◆【rockin'on 2023年1月号】Pale Wavesインタビュー
短期間の間に2回目の取材。今回はヘザーだけでなくキアラも一緒に話を訊けるということで、その発言だけでなく二人の間に流れる空気感もキャッチすることができて参考になった。撮影への移動中もずっと仲良く話している二人を見て、この人たちが何も変わっていないただのバンド仲間であることを確認できて安心。

◆【Qetic】Elle Teresaインタビュー「ラップをする覚悟」
2016、17年くらいか、Elle Teresaのアルバムを初めて聴いた時に「生きるということの寂しさに気づいちゃっている人だ」と思った。ただ世間ではいまいち誤解されている気がしていて、このインタビューではElleのリアルをきちんと伝えることに徹した。

◆【Qetic】minan×キム・ヤスヒロ×細田日出夫インタビュー「アイドルの在り方」
痺れるインタビューだった。リリスク旧体制の最後のライブ直前。インタビュイーの三人全員の中に、何か言葉にできない色々な感情が渦巻いていた。もしかしたら踏み込んで訊きすぎたところもあったかもしれないけれど、貴重な証言を残すことができたのでは。Elle Teresaの記事もそうだが、自分はQeticはわりと感情を出しても許されるトンマナのメディアだと捉えていて、その点でこういった深く踏み込む取材は相性がよい。その自由度の高さは、フォトグラファーのヴァイブスからも感じる。フォトグラファーが色々なトライをしているし、それはとても素晴らしいことだと思う。

◆【i-D】Awichインタビュー「その視線は次の挑戦へ。止まらないAwich、新たなステージへの野望を語る」
2022年最も多忙だったラッパーだけに、ヘアメイク中なんとか時間を見つけてのインタビュー。Awichの凄さは、あらゆる角度から色んな質問をぶつけてもブレない一貫した受け答えにある。普通、あれだけ色々訊いたら綻びが見えるはず。芯を貫き通すということ。

◆【i-D】kZmインタビュー「ヒップホップが次に向かう先とは。拡張し続けるkZmの音楽性」
kZmは不思議な人。ロックやテクノなどひたすら非ヒップホップな方向へ行きながらも、やはりヒップホップを感じる。その「不思議さ」に迫った取材。

◆【i-D】MFSインタビュー「性別関係なく正当に評価されたい。ラッパー・MFSが振り返るPOP YOURS」
この後「BOW」でグローバルヒットを飛ばすとは、当時はまだ知る由もない。5lackとLittle Simzへの愛を熱く語ってもらった取材だった。

◆【Real Sound】あっこゴリラインタビュー「あっこゴリラが明かす、音楽活動と心の相関関係 揺れるアイデンティティの間で得るもの」
さすがに話が面白い。アーティストは感覚的に話す方が多いけれど、中でもあっこゴリラさんは最も感覚的な人で、それを取り繕わずにストレートに感覚のままぶつけてくるので最高に面白かった。当然それは音楽にも反映されている。

◆【Soundmain】uyuniインタビュー「バンドやネットカルチャーもルーツに持つ、多才な女性トラックメイカーの現在地」
Soundmainで新たに始まった、女性のトラックメイカーを取材する連載の第一弾。uyuniさんがまさにそうだが、今のサンクラ・シーンで活躍するアーティストはルーツが多種多様で本当に面白い。

◆【Soundmain】TORIENAインタビュー「音楽は天命――10年の活動でさらに自由を獲得したサウンドクリエイターの今」
連載二回目でいきなり大御所が登場。その事実からも分かる通り、女性のトラックメイカーの数は非常に限られている。メンタル面での落ち込みを乗り越えたTORIENAさんの発言は、聞いていてとても奮い立たされた。こういう話こそが原稿執筆の糧になる。

◆【Soundmain】e5インタビュー「私には絶対に凄い曲が作れる――ボカロ・邦ロックの影響からラップシーンに躍り出た新世代のカリスマの現在地」
サンクラ・シーンで今最も熱いラッパーの一人、e5さんの取材。やはり、正統派日本語ラップよりもボカロと邦ロックをルーツとしていることが分かり非常に興味深かった。

◆【Soundmain】中村さんそインタビュー「音楽も人生も肯定するコンセプト「カワイイ×ポップ」を深掘りする」
いつかどこかで「ニッポン可愛い論」をまとめたいと思っていて、その点で非常に参考になる取材だった。「可愛い」という概念が広くなり色んなものがただただ「可愛い」とだけ表現されてしまうのは、そこに言葉が追いついていないから。きちんと言葉を与えてあげることで、もっと「可愛い」の解像度は上がっていく。中村さんそさんは今のサンクラ・シーンの中で最も可愛いを追求されている方。根掘り葉掘り色々な角度から「可愛い」について訊いた!

◆【Soundmain】rowbaiインタビュー「レーベル〈LOW HIGH WHO?〉所属、謎に包まれたトラックメイカー/シンガーソングライターの思考に肉薄する」
rowbaiさんは2021年にリリースしたEP『Dukkha』が非常に良くて、ずっと取材したいと思っていた。アンダーグラウンドシーンでは少しずつ名が知れてきてはいるが、現時点ではまだそんなに知名度があるわけではない。それでも話を訊いておきたいアーティストがいるし、そういう想いに賛同してくださるSoundmainはありがたいメディア。いつも感謝しています。

【ライブレポート】

◆【BEATINK】Little Simzライブレポート「ラップもファッションも身のこなしも、 どこを切り取っても超クール!昨夜開催された単独公演のライブレポートを公開!」
即日ライブレポート。ライブは非常に素晴らしかったのだが、21時過ぎに終わり次第すぐポッドキャストの収録でOMSBさんと喋り色々と熱い話をした後、深夜「さてどんなライブだったっけ…」と一瞬迷子になった記憶。けれども一流のラッパーはさすが、書き始めたら記憶が鮮明によみがえり乗りに乗って、結局書き終わった後もYouTubeでシムズのライブ映像を見漁ったという。

◆【Rolling Stone Japan】Joyce Wriceライブレポート「ジョイス・ライス充実の初来日、R&B黄金時代を想起させるシンガーの躍動感」
2022年に観たライブの中で、実は最もY2Kを感じたショーだったかもしれない。自分がR&Bを聴き始めた2000年代のあのフィーリング!ビルボードの雰囲気にまんまと陶酔した自分は本ライブをきっかけにこの素敵な会場に通うことになった。

◆【Rolling Stone Japan】THE HOPEライブレポート「ヒップホップシーンのど真ん中を貫く圧倒的リアリティ 熱狂を生んだフェスTHE HOPE総括」
THE HOPEに行った大人が皆その後口をそろえて言うのが「今10代にヒップホップってあんなに人気なの?!」という台詞。自分も、分かってはいたものの、あの光景を目の当たりにして新鮮に驚いてしまった。レーベルのヒップホップ担当の方達と話すと、皆やはり「THE HOPE」「POP YOURS」を基準に考えを改めたと言う。自分もそう。この熱をいかにキャッチするか。ヒップホップはもう確実に10代の「文化」になっている。

◆【Rolling Stone Japan】BADASS VIBES TOKYOKIDSライブレポート「歌舞伎町に集った若者たちの退廃的な革命、ヒップホップフェス総括」
今の東京は、それぞれのイベントやパーティ単位で観た際に本当に素晴らしい企画が多い。それら様々な場に出演しているアクトを一挙に集めたサーキットイベントがこちら。アビサーもそうだが、こういう場で起こっている熱気といったら凄まじく、ハコの中に沸き上がる空気をできるだけパッケージングできるよう努めた。今のシーンの熱は、今後10年後20年後に語り継がれるものになると思う。この目で確認し、テキストに残しておく。

◆【rockin'on 2022年10月号】2022サマーソニック ライブレポート
海外アクトのMCは、確かにリスナーとして鼓舞されるような見事な内容が多かった。けれども、それを音楽表現とともに届けられるからこそ説得力があるわけで。音楽とMCがどのような点においてシナジーを起こしているのか?という点を意識的に拾い上げていくよう努めた。

◆【Rolling Stone Japan】aespaショーケースライブレポート「aespa衝撃の初来日、斬新すぎるK-POP4人組が提示した新たなオルタナティブ」
2022年に観たライブで最も衝撃的だった公演の一つ。K-POP第四世代ファンダムはネットでは可視化されているが、実際にリアルの場で(国内で)これだけの数が集うのはなかなかないため、その意味でも非常に参考になった。思っていた以上に多かったゴスファッション。

【論考】


◆【ユリイカ2022年8月号】母音殺し、ピンポン玉のゆくえ――HipHopとTikTokの現場から
LEXやJP THE WAVYのラップが「母音殺し」を行なっている点に着目し、戦慄かなのまで含めた口語芸能の最前線に迫った論考。同時代の表現者の優れた試みをユリイカに残すことができて良かった。

◆【DAWN N°2】dodoが無邪気に、かつ真摯なまでに行う押韻の実験
今年刊行されたマガジンでこれ以上の力作はないだろう。紙の雑誌の底力を感じた、全編集者/ライター必携のバイブルなのではないか。その分制作も難航したようで、私がこの原稿を書いたのは2021年。dodoのラップの不思議な魅力についてはいつか言語化したいと考えていたので、果たせてよかった。

◆【雑誌ele-king12月号】国内ヒップホップ年間ベスト10、オールジャンル年間ベスト(個人)
Awichや般若、OMSBの素晴らしい作品については恐らくミュージック・マガジンで識者の方々が大々的に扱ってくださるだろう……という根拠のない読みをした上で、かつele-kingなのでもう少しエッジィな思想を込めた方が良いと判断しセレクト。結果、ヒップホップでありつつも「日本語ラップとして」「ロックやダンス、ハイパーミュージックとのクロスオーバーとして」のニュアンスが強い選盤に。

◆【TOKION】2022年の私的「ベスト映画」文筆家・つやちゃんが選ぶ今年の3作品
ご依頼は「2022年のベスト映画」ということでいただいたのだが、特にベストというわけではなく自由に書かせてもらった。ここで自分が『ケイコ 目を澄ませて』の素晴らしさを真面目に語ったところでそんなことは皆さんがすでにやってらっしゃるので、あえて映画批評筋が扱わない作品をセレクト。例えば『ニュー・オーダー』などは批評家がワーストに選ぶのも分かる。ミソジニックな描写も多い。だが、むしろ映画を信じていないという点に強いインパクトを感じたので取り上げた。『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』もそう。あのコナンが反異性愛主義を、(台詞ではなく)きちんと「画面で」描写したという点で衝撃的だった。

◆【Rolling Stone Japan】マネスキン新曲「THE LONELIEST」クロスレビュー
クロスレビューというスタイルは楽しい。しかも割とシンプルなパワーバラードだからこそ、いかに広げて書くか?という技が試されてやりがいがある。

◆【Quick Japan WEB】ポスト・イケメンとしてのBE:FIRST
BE:FIRSTについて書いてください、というご依頼をいただいて真っ先に考えたのは「もうこれ以上論じることある?」という疑問だった。インタビューも論考も多くの方が様々に語り尽くした対象についていかに新鮮な切り口で論じることができるのか。リサーチしてみると、「メンバーのキャラクターの深掘り」「音楽面での分析・批評」「BE:FIRSTのヒットチャート面での分析」「SKY-HIの想いと哲学」あたりの切り口が99%を占める。面白いことに、アイドル(的な立ち位置)にもかかわらず外見についての言説・言及がほとんどないのだ。なぜ?と考えてたどり着いたのが「ポスト・イケメンとしてのBE:FIRST」というテーマだった。

◆【FNMNL】XG論考「XG TAPE #2 GALZ XYPHERの衝撃」
当初思っていた以上にXGがヒップホップ文脈をハイブロウに攻めてきて驚いている。なぜなら、あまりコアに行き過ぎるとハイコンテクストになり取っつきにくい印象が強まってしまうのではないかと。しかし、XGはその定説を覆した。タイアップとってペイドメディアの露出を図れば売れる時代は遠くなりにけり、ヒットの構造はますます複雑化しているが、高いスキルを持ちマーケティング戦略がハマればまだまだ何だってできるのだという夢を与えてくれた。XGからは目が離せない。ついに2023年、EPあるいはアルバムのリリースがあるか。

◆【Billboard JAPAN】「宇多田ヒカル、Netflixシリーズ『First Love 初恋』で再注目されているFirst Loveに秘められた巧妙な歌詞」
これも難しいご依頼。なぜなら、「First Love」なんて語り尽くされた楽曲だから!もはや言及された全ての資料を集めること自体が不可能に近いが、切り口としては頻繁に言われる「ブレスや言葉の区切りの独自性」という指摘からいかにカウンターを取るかが重要。全く異なる主張をするか、乗っかりつつももう一歩踏みこんだ主張に発展させるか――ここで選んだのは後者だった。

◆【Real Sound】Mori Calliope論考「リスナーを魅了する“不完全性”の正体 ネットラップやK-POP文化が交差する特異な音楽性」
いわゆる「ネットラップ」をきちんと日本語ラップ史に接続させるというのはいつも意識していること。Mori Calliopeという才能を正当に評価しつつ、ネットラップの捉え直しができて良かった。

◆【ele-king】Earl Sweatshirt『sick!』論考
ele-king WEBは、音楽作品に迫るアプローチとして非常に実験的な方法を許容してもらえていてありがたい。音楽をいかにオルタナティブな形で記述するかという批評の実験の一つ。こちらは食べ物の比喩で表現するという試み。

◆【ele-king】KAMUI『YC2.5』論考
KAMUIの過小評価はいつまで続くのやら。ということで、このレビューも発端は不満と怒り。繰り返すが、私はele-kingWEBレビューでは実験性を意識しているので本レビューもやや違った角度から書いてみたのだが、こんなにも皆が本作のレビューを書かないのならまずは正面きったストレートなテキストが必要だったのかもしれない。(少し反省)

◆【ele-king】Nouns『While Of Unsound Mind』論考
多くの作品評を書くわけだが、発表して数か月経ってもその出来に満足できているものなんてほとんどない。けれども、本稿はその数少ないうちの一つかも。エモは自分にとって重要な音楽ジャンルだからこそ、いつも以上に力が入る。難産だったが、苦しみながらも書ききれて良かった。

◆【ele-king】watson『FR FR』論考
2022年の日本語ラップ、自分が選んだ年間ベストはwatsonの『FRFR』だった。特に年末に向かうにつれて、ラップ関連の場に行けば行くほど本当にいつどこでも皆がwatsonの話をしていた。意外にもまだきちんと書かれたレビューがなかったため、できるだけ王道の魅力を伝えられるよう努めた。

◆【note】カンパニーXY withラシッド・ウランダン「Mobius/メビウス」を観て考えたhyperpopのこと
ようやく観ることができたカンパニーXY。2022年に観賞したステージの中でも最も疲れ、精神が削られていく感覚を覚える作品だった。時代が進むにつれて、自分は様々な領域をまたいで起こっている共時性というものにますます惹かれている。それは、歴史が無効化されつつある現代においてたった今生まれ消えてゆく物事に共通する点を見出すことで、その永遠性をつなぎとめる作用を感じているからかもしれない。

◆【note】笑えない喜劇――プルカレーテ×佐々木蔵之介『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』の素晴らしさ
『リチャード三世』以来のプルカレーテ×佐々木蔵之介のタッグ。400年前に書かれたモリエールの作品が現代においても機能してしまう恐さ。「殺伐とした街に紙幣をばらまくことで尊厳を保ち」という記述の通り、この日私はバレンシアガの鞄を買い心を満たすことで帰路についたのだった。

◆【note】『The Concert』(スターダンサーズ・バレエ団)が素晴らしかったという備忘録
2022年は、バレエ公演も2年ぶりに戻ってきてその多くを目撃することができた!中でも、初見だった『The Concert』は場内が笑いに包まれる傑作だった。23年5月にしんゆり芸術祭でアンコール上映が決まったとのこと。


◆【サイゾーWEB連載Vol.5】新世代フィメールラッパー・7、苦しい環境へ怒りをぶちまけながらも楽園へ誘う
7の登場は、2022年の日本語ラップにおける大きな事件の一つ。watsonも7も、J-POPの影響がはっきりと楽曲に出ているのが面白いと思う。

◆【サイゾーWEB連載Vol.6】2020年代HIPHOPが本格化―加速度を増すヒップホップ×ダンスミュージックの新解釈
同時代の面白い作品に共通している傾向を探り、それを軸としてテーマ化し論じることができるのが時評の良いところ。過去好きだった文芸時評をリファレンスにしている部分もある。

◆【サイゾーWEB連載Vol.7】 戦慄かなの 「かわいい」の機微を表現する圧倒的クリエイティビティ
戦慄かなのがやっていることがどれだけ凄いことか全く世の中に伝わっていない。同じケンモチヒデフミprodでも水曜日のカンパネラの凄さは伝わるけれど戦慄の凄さが伝わらないこと、それは戦慄のやっていることが「可愛い」というガールズカルチャーにより立脚しているから。あと、本人のキャライメージ。結局、批評筋はそういうのは「苦手」なわけで、私が戦慄について書き続けるのは書籍『わたしはラップをやることに決めた』を書いた動機と全く同じ。現状への怒り。

◆【サイゾーWEB連載Vol.8】韻踏み夫著『日本語ラップ名盤100』刊行特別編
韻踏み夫さんは全然自分と違うタイプの批評家だからこそ面白かった。初歩的なツッコミはこういう場で先に済ませておいて、それを前提としたうえで各所で有意義な議論をしよう!

◆【サイゾーWEB連載Vol.9】ちゃんみなからLE SSERAFIMまで、日韓の交流が生む新しいボーカル表現
ちゃんみなの本格的な韓国進出はかなりエポックメイキングなことだと思うのだが意外に騒がれていない。LE SSERAFIMもそうだが、そもそもK-POP自体が洋楽と邦楽ジャーナリズムが扱わない特異な文化になりつつある。K-POPが思うほど日本のメディアを相手にしていないという側面もあるし、これは非常に入り組んだ問題。K-POPをどう捉えるかについては、重要な問いとして引き続き考えていく。

◆【QJ Web 連載Vol.5~9】ラップ×漫才連載「扇動する声帯」
本誌とWEBで交互にvol.5~9を掲載。ラップ単独でラップについて考えるよりも、あるいは漫才単独で漫才について考えるよりも、そこに別ジャンルを比較対象として挙げることでより一層両者に通ずる時代性が見えてくる。コスメの対談連載と同じく、この連載も答えがないまま試行錯誤のうえで取り組んでいる研究。とは言え、連載も9回まで回を重ねたことである程度見えてきたものがあるのでそろそろまとめに入ろうと思う。

【レビュー/コラム】


◆【GINZA2022年11月号】ギュギュッと凝縮!気になる最旬トピックス 11
うち3記事の監修・執筆

GINZAの面白さであり強みは「実際の読者層がすでに認知してはいるが深くは知らない情報」と「全く知らない未知の情報」のバランスがうまくとれていることではないか。そういう点で、絶妙な塩梅を探るのが難しくとても勉強になった。

◆【GINZA WEB】2022年上半期、“マイベストエンタメ”を教えて! 文筆家 つやちゃんの3選
2022年にTikTokを席巻した「ギャルちょーかわいい」を紹介できて良かった。そこでなされているのはTikTokというアートフォームにおける画面の奥行きの獲得であり、きちんとそういうことを誰かが指摘するべき。当たり前だが、映像は映画やドラマのためだけにあるわけではない。

◆【ミュージック・マガジン2022年10月号】1990年代 Jポップ・ベスト・ソングス100 つやちゃんのベスト10選出&コメント/UA「情熱」レビュー/H jungle with T「WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーブメント」レビュー/EAST END×YURI「DA.YO.NE」レビュー
激動の90年代を振り返る良い機会になった。こういう企画は後日必ず「あれも入れておけばよかった」「今考えたら順位が変わる」等が出てくるのだが、本企画については不思議とそれがなかった。つやちゃん1位~5位は宇多田ヒカル「Automatic」、安室奈美恵「How to be a Girl」、UA「情熱」、サザン「愛の言霊」、globe「Love Again」。

◆【rockin'on 2022年8月号】「70年代ハードロック伝説特集」AC/DC『Highway to Hell』評/「新作アルバムレビューズ」beabadoobee『Beatopia』評
私がハードロックバンドで最も偉大だと思うのはAC/DCとサバスだが、その両バンドの似て非なる違いを明らかにしながら論じたAC/DCレビュー。

◆【rockin'on 2022年9月号】「新作アルバムレビューズ」Pale Waves『Unwanted』評
Pale Wavesのコアが3作目にしてようやく分かってきた。“軽薄さ”を軸に執筆。珍しくすんなり書けた回。

◆【rockin'on 2022年10月号】「新作アルバムレビューズ」YUNGBLUD『YUNGBLUD』評
サマソニの“走りまくっていた”YUNGBLUDを見て「この人はなぜこんなに走っているのだろう」という素朴な疑問から膨らませていったレビュー。

◆【rockin'on 2022年11月号】「レッチリが止まらない」特集『Unlimited Love』評/「新作アルバムレビューズ」RINA SAWAYAMA『Hold The Girl』評
RINAの新作評はなかなかに苦労した。紛れもないど真ん中を射抜くポップ・アルバムなわけで、そういった意味でとにかく徹底的に「ポップスター」として論じるか、ポップな中に隠れた「リナならではの記名性」について論じるか。色々迷い2パターン書いた上で、よりテキストに力を感じた後者を提出。

◆【rockin'on 2022年12月号】「ガンズ伝説は続く」特集『Use Your Illusion BOX』評/「新作アルバムレビューズ」Carly Rae Jepsen『Call Me Maybe』評
ガンズの『Use Your Illusion BOX』を久方ぶりに聴いて色々と考えを巡らせた。初めて聴いた時は1枚にまとめた方が良いんじゃないかとか生意気なことを思っていたわけだが、凝縮された完璧な作品を求めてしまうのは若く純粋な指向、あるいはHR/HM的価値観によるものではないか。今は、だらだらと聴きながらその味わいを享受することができる。ここ10年くらいの海外でのガンズ言説をリサーチできたことも面白かった。

◆【rockin'on 2023年1月号】「2022年洋楽アルバムベスト50」特集Beyoncé『Renaissance』評、Megan Thee Stallion『Traumazine』評、Bad Bunny『Un Verano Sin Ti』評/「新作アルバムレビューズ」Joji『SMITHREENS』評
一番苦労したのはBeyoncéの『Renaissance』評。海外の様々な論考もさらった上で、その多くがダンス復権やハウスカルチャーといった切り口で書かれていることを確認。本当にそれだけで語るに足る作品か否かを考えに考えた結果、「ベッドルーム」や「愛の交歓」というテーマに行き着いた。既存の切り口を前提としたうえでさらなる論理を発展させていた池城美菜子さんや小林祥晴さんの評も面白かった。

【ライナーノーツ】


◆HAIIRO DE ROSSI『Revelation』ライナーノーツ
今時フィジカルで新作を出す(出せる)ラッパーなんてなかなかいないわけで、それだけで本気を感じる渾身の一作。ライナーをご依頼いただいたのだが、先にメールインタビューでいくつかお話を伺いつつ執筆。ラップの世界は移り変わりが激しいので常に新人ばかりが注目されがちだけど、OMSBや般若と並んで2022年は中堅~ベテラン勢の自己批評的な力の入った作品が目立った。シーンの厚みを感じる。

【書評】


◆【ミュージック・マガジン2022年10月号】木津毅『ニュー・ダッド ――あたらしい時代のあたらしいおっさん』(筑摩書房)
非常に面白かったエッセイ!批評と名乗らなくとも、本書には随所に批評的視点が潜んでいるわけで。全ての男性に読んでもらいたいな。


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