珈琲の大霊師027

 目を覚ました時、俺の目の前には俺の足の上に上半身をうつ伏せにして寝るモカナと、うつらうつらしているリフレールの姿だった。

「・・・・・・見えるようになったな」

 ホッと胸を撫で下ろす。さすがに、ずっとリルケしか見えないとか冗談じゃない。

 俺の声に反応してリフレールががばっと顔を上げた。目の下がくまになってる。酷い顔だ。

「よう、やっと見えるし聞こえるようになったぜ」

「・・・・・・心配させておいて、それですか?見えるようになったのは何よりですけど」

「悪かったな。つっても、俺は何も悪くないんだけどな。リルケに言ってくれ」

「私に見えてたら、今頃隅っこでガタガタ震えてる頃ですよ?」

 にこりとリフレールは笑った。器用に目だけ笑ってないんだが。

 辺りは暗い。明かりはロウソク一本か。月明かりも無いな。まだ雨の音がする。月明かりがなくて当たり前か。

「今何時だ?」

「もう深夜ですね。多分、日付が変わった頃だと思います」

「そうか・・・・・・」

 確か、リルケは見えるようになった事に心当たりが無いって言ってたな。

 リルケの言葉を信じるなら、リルケが見えるようになるにはリルケの意思はあまり関係無く、一定の条件を満たす必要があるって事になる。

 リフレールやモカナの事が見えるようになったのは何よりだが、例のケシ畑に案内できるのはリルケだけだからな。その条件が分からないと、先に進めねえな。

「今日の事、演技じゃないんですよね?」

 真面目な顔で聞いてくるリフレール。

「何の為にそんなめんどくさい真似しなきゃならねえんだよ」

「そうですよねぇ。じゃあ、どうして見えるようになったんでしょう?」

「俺もそれを考えてたんだ」

 そうだ。リフレールなら、そういうのが分かるかもしれないな。頭が回る上に、精霊がついてるんだしな。

 聞いてみるか。

 要点を纏めて話す。これまで、リルケと話したのは2回。昨夜、この部屋で1回。今朝、あの庭で1回だ。

 昨日は、話の途中でリルケが見えなくなった。今日は、俺が眠ったらリルケが見えなくなった。

 どちらも、リルケは話す事が出来る事、見られることそのものに驚いているように見えた。

「そうですか・・・。サウロ」

 リフレールがその名を口にすると、いつも無愛想な水精霊が肩の上に現れる。こいつ、用が無い時は本当に出て来ないんだよなぁ。

「話は聞いていた。まず、俺達精霊と、話にあった花の精っていうのは全然違う存在だ。だから、俺にもリルケっていう花の精は感知できなかった」

「そうなのか。意外だな」

「波長が全然違う。俺達ほど血統のある存在じゃなくて、妖精、妖魔とかそういう類だ」

 妖精?妖魔?なんだか、穏やかじゃないな。

「・・・・・・あんた、自分で気付いてるか?」

「あん?」

「あんたの血、××なってるぞ」

 ん?なんだ?今、耳が詰まったような感じがしたぞ?

「なんだ?何て言った?」

「?あんたの血が××くなってるって言ったんだ」

 俺の血が、何だ?何だって言ってんだ?こいつ、俺に意地悪でもしてんのか?俺の血がどうにかしてるらしいが、まただ。また耳が詰まったみたいに。

「おい、全然分からないぞ。はっきり言ってくれよ」

「!?ジョージさん、本当に聞こえないんですか?」

 リフレールが、酷く驚いたように俺に食いついてきた。尋常な様子じゃない。・・・俺がおかしいのか?まさか。

「・・・・・・リフレールは聞こえたって事か?」

「はい。ジョージさんの血が、××くなってるって」

 まただ。また同じ部分が聞こえない。これはもう偶然なんかじゃねえな。俺が、その部分を聞けなくなってるって事だ。

「悪い。何故だか分からないんだが、俺の血がどうにかっていう部分だけが聞こえねえ」

 途端に、リフレールが青ざめる。この顔、俺が結構やばい状態かもしれないってことか?

「サウロ、何が起こってるか分かりますか?」

「こいつの体に大きな異変は無い。さっき言った通り、血が××くなってるだけに見える。でも、普通の人間の血が突然××くなるはずがない。多分、××××××××××の仕業だ」

 !!今度は、違う言葉が聞こえなくなった!?しかも、サウロの唇の動きからしても長いぞ?

「!?何故ですか!?何故、×××がジョージさんの血を?」

 これは、おかしい。絶対におかしい。特定の言葉だけが、俺に聞こえないようになってる。

 くそっ!これじゃ情報の整理のしようが無いぞ。

「リフレール、ちょっと待ってくれ。聞こえない言葉が増えた気がする。そうだ。文字。今言った言葉を紙に書いてくれ」

 すぐに察してリフレールが洋紙を取り出し、木炭でサッと書きなぐる。

『何故、###がジョージさんの血を##くしたのか聞いていました』

 ッッ!?

 目まで!?なんだこれ、霞んでやがる!!聞こえなかったらしい部分だけが、目でも見えない。何が書いてあるかさっぱり分からない!

 どうなってやがる!!

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