珈琲の大霊師028

「リフレール、俺はかなりやばい状態かもしれねえ。文字まで、一部だけ霞んで見えやがる」

「・・・・・・なるほど、どうやら×××っていうのはそういう存在って事ですか」

 リフレールが一人で納得している。

 リフレールが納得できるって事は、ここまでの会話で十分な推測ができる内容だって事だな。

 さっきから消えてる言葉は一部。消えるのは、どうも「何かのせいらしい」。リフレールが「そういう存在」だって言った奴が、恐らく原因だろう。

 その存在は、何かしらの理由で俺の聞こえる物と見えるものを制限している。そうする事で、誰かが得をしている。恐らくは、そいつ自身がか。

 話の流れを思い出せ。そんな事をして得をするのは誰なのか、俺に知られて困る事ってのは何なのか?

「んむ~?」

 騒いでいたせいか、モカナが目を覚ました。

「あれ・・・・・・?ジョージさん、起きたんですかぁ?」

 寝ぼけている。

「ああ。もう話はできるぞ」

「・・・・・・あっ!ジョージさん!!ジョージさん、ちゃんとボクが見えますか!?」

「見える見える。だから服の端を掴むな。伸びるぞ」

「あ、はいっ。うわっ」

 慌てて服を離した弾みで、モカナが座っていた椅子から転げ落ちた。転げ落ちているが、顔は満面の笑みだ。少し不気味だ。

「おいおい、大丈夫か?」

「はい!えへへ、良かった。ジョージさんが、ずっと変になってたらどうしようかってボクとても心配しました」

 すぐ立ち上がって、また俺の服の端を掴む。ああ、これは多分意識してやってないな。俺がどっかに行くのが怖いのか。

「悪かったな。もう大丈夫だからな」

 頭を撫でてやる。すると、モカナは安心したように気持ち良さそうに笑った。

「あぎゃー?」

 ドロシーの声?モカナの肩の上か。・・・・・・なんだ?どこを見てるんだ?こいつ。

「おまえだれじゃ?」

 ドロシーの視線の先には、小さなテーブルがあって、その上には小さな花瓶。それ以外は何も無い。

「どうかしたのか?」

 俺が話しかけると、ドロシーはスッとモカナの影に隠れてしまった。俺は、あまり懐かれてないらしい。

「・・・・・・だれじゃ」

 繰り返す。そこに、何かいるのか?待て、この状況で見えない奴がそこにいるとしたら選択肢は一つだ。

「リルケがそこにいるのか?」

 ドロシーに聞いてみるが、眉をひそめて良く分からないといった顔をするばかりだった。そうだ、この精霊頭良くないんだった。

「がっ!!!」

 がぶっ

 いてえーーーー!!!!!!!噛み付かれた!?

「わわっ!!ドロシー!何するのっ。駄目だよ噛んじゃ!!」

「・・・ジョージさん、水精霊がある程度人間の感情を読み取れるっていうの忘れてませんか?」

「あ、それでこいつ怒ってんのか!?悪い、悪かった!いてえ!許してくれ!」

「ぐぐぐー」

 強く噛んだ状態であむあむされる。痛い。とにかく痛い。

「ドロシー!だめだってばー!!」

 モカナがドロシーを引っ張ると、意外な程すんなりと抜けた。その瞬間に、即座に腕を引く。

 ガチン!!

 ガチガチガチ

 ドロシーは、まだ俺を睨んで歯をガチガチ鳴らして威嚇していた。

「ごめんなさい」

 素直に頭を下げて、やっとドロシーの威嚇は治まったのだった。

「・・・・・・×?」

 リフレールが何か呟いた。聞こえないって事は、俺に聞こえなくさせてる奴にとって恐らくは都合が悪い言葉だ。

 今度は随分短いな。

「リフレール、今の言葉が聞こえなかった。多分、それ結構重要なヒントだぞ」

「なるほど。良く分かりました」

 にこりとリフレールは笑うと、おもむろに花瓶を持ち上げた。

 そして、そのままモカナの周りを時計回りにぐるりと移動する。

 ドロシーの視線は、ずっと1点を見つめていた。

「なるほど」

 リフレールはまた呟き、今度は花瓶を持ったまま部屋を出て行った。

 暫くして、ドロシーに変化があった。

「お前だれじゃどっか行ったよ?」

 !?って事は、今ここからリルケがいなくなった?

 暫くして、リフレールが戻ってきた。その手に花瓶は無かった。

「どうですか?ここにリルケはまだいますか?」

「いや、ドロシーが言うにはもういないらしいぞ」

「ちょっと試してみますか。先程からジョージさんの耳や目に異常が発生したのは、恐らくリルケさんの仕業だと思います」

「・・・・・・そう考えるのが自然だな」

「聞こえるんですね!?良かった。・・・・・・となると、もう間違いありませんね」

 どうやら、さっきまでの異常はリルケの仕業だったらしい。どう考えても、その結論に至る。

 さっきの花瓶を持ち去る=リルケの退場=聞こえなかった言葉が聞こえるようになったという一連の流れから、かなりの事が推察できる。

 まず、花の精であるリルケは、『花から一定の距離までしか居られない』。だから、リフレールが花瓶を持ち去ったら移動を余儀なくされた。

 次に、俺の耳と目をおかしくさせていたのはリルケだった。という事。そして、消えていた言葉はリルケにとって都合の悪い言葉だっただろうということ。

 それらは、さっきのリフレールの一言に集約されている「聞こえるんですね!?良かった。・・・・・・となると、もう間違いありませんね」だ。

 それは、リフレールが試しに言った言葉がさっきは俺に聞こえなかった言葉だからだ。

 さて、ここまで分かった後更に考えなきゃいけない事がある。

「ジョージさんに手を出そうなんて、100年早かったですね」

 偉そうに、ちょっと自慢げにリフレールが胸を反らせる。

 さて、問題はリルケがこれを故意にやったのかどうかという事だ。

「雨が上がったら、ここを出た方が良いと思います。ジョージさんにあんなことをするんですから、信用できません」

 普通に考えたら、リフレールの言う事が正しい。リルケが俺を騙し、何かを企んでいると考えるのが普通だ。

 が、花の精になって始めて話せるようになったと言ったリルケの言葉を、俺は真実だと感じていた。

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