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むかしむかしのその昔⑦          『101本の緑の物語』

21世紀を迎える前、出版社勤務の友人から原稿を書いてほしいといわれた。
「なんでもいいのよ」というけれど、なにを書けばいいんだろう。

いま手元にあるその本の「はじめに」には、
  あなたが育てる本。
と書いてある。

ときにはやさしく、ときにはきびしく、わたしたちの目の前で、そして心の中で、自然はさまざまに表情を変えます。だから自然とのふれあい方も百人百様。そんな多彩な自然との出会いのかたちを、1冊の本にしてみました。

『101本の緑の物語』工作舎編より

その原稿依頼は私だけではなかった。なんと、保育園児だった娘にもお願いされたのだ。「聞き書きでいいから。子どものことばでおねがい」。

テーマは「自然との出会い」。自然は私がたいせつに思っていることであるけれども、短い文章にするには逆にむずかしいとも思えた。

私の思う自然は、四季折々のものである。四季によって自然はほんとうにさまざまな表情を見せてくれる。そして、どの季節も捨てがたい。考えれば考えるほど、短い文章で自然との出会いを書くのはたいへんなことだと思えてきた。

私は先に娘の声をひろって書いてみた。

はこねやまは、さくらがさくととってもきれい。さくらの花びらは、ピーってふえがならせるんだよ。それから、雨がふったときは、木のしたにはいるとぬれないよ。だって、木はおおきなかさみたいだからね。
秋は、いろんないろやかたちの葉っぱがいーっぱいあって、どんぐりもたくさんおちてる。こうさてんのところで、たべられる木の実が、たくさんひろえるばしょがあるんだ。ほいくえんのせんせいが、おしえてくれたんだよ。

『101本の緑の物語』工作舎編より

そうだそうだ。いつもどおりに目の前の自然を書けばいいのだ。私は娘におしえられ、さくら、新緑、紫陽花、ヒマワリ、どんぐり拾い、冬空、霜柱を描き、最後にこう書いた。

どの季節も子どもたちにとっては友だちなのだ。

『101本の緑の物語』工作舎編より


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