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まだまだ続く:プラごみの話し

1.プラごみの話しは続くのです

何度かnoteに書いているプラごみの話しが今回のテーマです。今回改めて「プラごみ」の話しを書こうと思ったのは、廃棄物資源循環学会の地元関西支部が毎年開催している「廃棄物法制度に関するセミナー」に呼んでいただいたからです。今年のテーマ設定がずばり「プラスチック規制に関して」です。僕の役割は、今年3月に開催された国連環境総会再開セッションで採択された決議、プラスチック汚染のない地球に向けたプラスチック管理の条約化にまつわる国際的な動向の紹介です。

ちなみに、関西支部の廃棄物法制度セミナーには過去2回もお話しさせていただく機会をいただき、今回が3回目です。1回目がたしか2017年、関西支部の法制度チームに入れていただいて最初のお仕事がUNEPとグローバルな廃棄物の現状に関するお話しをさせていただきました。そして2回目がその2年後の2019年、タイトルが「国際的なプラスチック管理の最新動向」、3回目の今回と同じタイトルです。手抜きしたわけではありませんが、この3年間で国際的なプラスチック管理が大きく動いたこともあり、改めて皆さんに最新動向について情報を共有したいと思います。

なんだかんだで、ここ最近は月1~2回程度色々な場所でプラごみなどのお話しをさせており、noteも同じような内容になる傾向ではあります。でも、毎回あれこれ考えなおし、自分の考えも改めて見つめ、世の中の動きも見つつ、その時の考えをアップデートしながら書いておりますので、ご理解ください。

2.はじめに

プラスチック管理に関する国際的な情勢の中、私はいまだに腑に落ちないことがあるのです。プラスチックの現状に関する報道だったり各種ウェブサイトでも、「プラスチックが悪い」と言うトーンで常に情報が流されている事です。例えば、「この企業がプラスチック製品を大量に生産しているから悪い」、とかです。3年前、私はこの関西支部の廃棄物法制度セミナーでお話しさせていただいた時、このように私の講演をスタートしました。

  • プラスチック問題、本当にプラスチック問題なのでしょうか?

  • プラスチックがあるからこそ、安心で安全な水や食料品を手にすることができる。

  • プラスチックがあるからこそ、私たちの経済社会が成り立っています。

  • プラスチックが問題ではなく、根本的な問題は私達である。

情報の伝え方は非常に重要です。心理学的な言葉を使えば、言葉は良きも悪しきも群集心理をコントロールすることができます。「プラスチック汚染の原因はプラスチックである」、この言葉が背景に隠れている情報を世の中に伝え続けることによって、本当に私たちが見なければいけない本質を隠してしまうのではないでしょうか?その本質は誰もが気が付いているけど、誰もが見て見ぬふりをしている。その問題に気が付かなかった過去は止まれることができませんでしたが、今はその問題に気付いていながら止まることができない、という、人間の地球環境に対する悪しき慣習を繰り返しています。

この3年間でプラスチックを取り巻く国内外の情勢が急激に変わりました。廃棄物の分野でお仕事されている皆様も、その事業の内容も変わってきたと思います。3年前のセミナーで受けた質問の一つが、「プラスチックの管理に関する条約はできるのか?」でした。私は「議論はされているが、今のところ条約化するという結論に至っていない」と回答させていただきましたが、その3年後の今の答えは「条約化することになりました」、です。

今回はこのような背景を踏まえて、「国際的なプラスチック管理に関する最新動向」についてお話しさせていただきます。

3.それは50年前から明らかであった

本質を改めて考えるために、今日は50年前に出版されたこの本を持ってきました。「かけがえのない地球 - 人類が生き残るための戦い」。1972年の当時は、日本でようやく公害について正直に正面から見つめるようになり、世界でもようやく環境汚染と言う単語が使われるようになった時代です。そんな当時、世界58カ国152人の科学者の環境に関する英知を集めて作成されたのがこの本です。この本を読むと、今の現状を語っているのではないだろうか、と思える文章が多数あります。例えば:
「現在の環境問題が、自然への誤った人間の接近の仕方によって生じていることは厳然たる事実である。われわれは、往々にして、地球の住人の一部である事を忘れ、地球の主人であると認識しがちである。人類の進歩とは、人間を取り囲む外界の環境を改造、征服することに追って達成されると認識する。すなわち、人間の利益に反すると考えられる環境部分を破壊してでも、人間の利益を優先させようとする悪しき態度である。高級な知能を持つ人類は、自然を破壊し、劣悪化することによってもあるいは生物の一緒として存在することは可能であるかもしれない。しかし、そんな環境のなかで、人間として尊厳を保った形の生存ができるものであろうか?」

これは今の言葉ではなく、50年前の言葉です。2022年を生きる私たちにグサッと刺さる言葉ではないでしょうか?

当時の解決するべき課題も書かれています。例えば:
「われわれは現在、様々な経済上の問題をかかえている。例えば、環境の問題、高い消費性向、消費者運動、資源利用の問題、都市部への過度の人口集中の問題等である。政治の分野では、外部不経済、資源不足、都市化の減少問題について、場当たりの解決で済ませようとする悪しき傾向がみられる。従って満足すべき成果はあがっていない。目下、様々の問題、都市化や技術発展に伴って生ずる諸矛盾は著しく増大しており、相互間の緩衝作用も増大してきている。科学思想において事実を総合的に理解する必要が認識されているのと同様に、経済学の分野でも人間の工業生産活動と都市生活感の独立性および相互関連性について総合的に解決すようとする動きが生まれてきた」。

また、この本には地球環境問題の解決策も書かれています。
「望ましい人間環境を生みだすということは、単に自然の調和を保ち、天然資源を経済的に管理し、生物、人間の健康をおびやかす脅威を取り除くことだけでは達成されない(つまりDoingだけでは解決しない)。自然の力と人間の意志のたえまない交流によって実現しなければならない(人間と環境のBeingをシンクロさせる)ということです。

少なくとも、ここ日本ではありとあらゆる環境対策が進んできました。でも、世界で見ると日本の最新動向は「雀の涙」程度。残念ながら私たち人類は、50年経っても何も変わっていないかもしれません。

4.我々は本当のごみ問題を見ているのか?

  • プラスチック問題、本当にプラスチック問題なのでしょうか?

  • プラスチックがあるからこそ、安心で安全な水や食料品を手にすることができる。

  • プラスチックがあるからこそ、私たちの経済社会が成り立っています。

  • プラスチックが問題ではなく、根本的な問題は私達である。

これがずばり真実です。この50年前の本にはこうも書かれています。
「人間は自然を無料の浄化装置や無料の処分場としか見ていなかった」、「目の前の豊かさを得ることに目をくらみ、その長期的な結果がどうなるか見て見ぬふりをしていた」。

これが全ての環境問題に共通する本質的な問題ではないでしょうか?気候変動問題もそう。今世紀末までに気温上昇を1.5℃に抑え込むためには、今後20年間で少なくとも8000兆円もの環境投資が必要、年間400兆円、一人当たり年間5万円必要。水俣病も同じでした、あの企業があの当時1億円をかけて排水処理施設を建設し排水処理を適正にしていたら、その数年後に4000億円も支払わないで済んだのです。プラスチックの場合は、色々な数値が出ていますが、年間約1兆円ぐらいの自然を及ぼしていると言われています。これもすべて、「目の前の豊かさを得ることに目をくらみ、その長期的な結果がどうなるか見て見ぬふりをしていた」、結果です。残念ながら人間は同じ過ちを繰り返しています。これからも繰り返すでしょう。

プラごみの話しの前に、改めて分母を地球丸ごと一個としたごみ問題の現状をしたいと思います。

先ずはこの図、一般ごみの発生量を処理区分別に分類して2050年まで予想したのもです。2020年の一般ごみの発生量は約21億トン、東京スカイツリー5.8万個分です。その約半分が、いわゆるオープンダンプや単純埋立、リサイクルは22%と限られたものです。2050年はどうなっているかと言うと、一般ごみの排出量が約1.5倍の38億トン近くになります。単純埋立は50%から42%に減少しますが、分母が大きくなるので結果としては排出量は増加、リサイクル率の上昇率はわずか2%にとどまる、と言う予想が出ています。

2050年は日本も含めた多くの先進国がカーボンニュートラルを遂げる目標にしている年です。カーボンニュートラルを達成するための一つの重要なカギが、循環経済社会の構築・実施です。つまり、地下資源を掘らずに、地球上で人間が一度使った資源をリサイクルして使い続けていく事が実践になっていないといけません。しかし、この図を見る限りは、そうはなっていないのが2050年の未来社会でしょう。2050年になっても循環型社会はやってきません。

次のグラフは2020年における所得別一般ごみの処理形態です。上から順に、高所得国、上位中低所得国、低位中所得国、低所得国となっています。先進国と呼ばれているのが世界人口の1/8が住んでいる高所得国、それでもリサイクル率は40%程度、高所得国でも約半分の一般ごみが処分場に捨てられているのが現状です。所得水準が下がれば下がるほど単純埋立処分率は大きくなり、こちらも世界人口の1/8が住んでいる低所得国では約90%もの一般廃棄物がオープンダンピングされているのが現状です。日本は今でこそ環境対策先進国ですが、ほんの50年ほど前は、日本もオープンダンピングが一般的な時代でした。


こちらの図は、2020年所得別一般ごみ排出量比、とそれを2050年まで予想した表になります。日本人は一般ごみを年間約920グラム程度排出すると言われていますが、粗大ごみや一般ごみの定義に入らない廃棄物を入れると、世界標準の一日2.1キログラムとなると思います。みなさん、普段ではどうでしょうか?何気ない普段の生活でも結構なごみを出しているのが、日本人の生活スタイルです。減らそうと努力したとしても、その努力はわずかな量かもしれません。でもこれが現状です、そのわずかな量でも毎日365日何十年と1億2千万人が続けていく事が、ごみ問題、プラごみ問題解決に至ります。

その他の国の現状はどうでしょうか?上位中所得国と低位中所得国の合計の人口は約60億人、世界の75%の人口がこの所得レベルに住んでいます。ここに属する国は、高所得国に追いつき追い越せ、と言う経済的にも政治的にも外交的にも勢いのある国が多くあります。この状況は今に始まったのではなく、この50年前に書かれた本にその予想が書かれてあります。
「70億人の人口が、アメリカ人やヨーロッパ人、そして日本人のような生活を望む状態を想像してほしい。70億の3/4が都市に移り住んで、先進国並みのエネルギー消費、資源消費をする状況を想像してほしい。こんな夢が実現する可能性は全く考えられない。しかし、もしこのような状況が起こり得たとして、どうやってこの矛盾を解決しうるか。人口を減らす、「どこの人口を?」。消費を減らす、「だれが?」。都市を改造する「どの国で」。エネルギーを節約する、「だれが?」、全ては私ではない。

この問い、「だれが何をするべきか?」、の答えはみんな知っています。でも実際には、自分以外の誰かがするであろう、と考えてしまうのが私たち人間ではないでしょうか?問題は私たちである、その答えそのものです。

5.プラごみ問題

このグラフは1970年の人口、資源採掘量、一般廃棄物排出量の数値を1とし、2050年までの経年変化実績と予想を表示しています。人口は約36億人から約97億人、約3倍増加し、資源採掘量は約200億トンから約1800億トン、約9倍増え、廃棄物は12億トンから27億トン、約2倍以上に増えると予想されています。ちなみに、地球のバイオキャパシティ、つまり地球が1年に再生できる生物資源の量は約4500億トン、既に1990年以降はその量を越えて資源を採掘しているのが人間社会です。

ここからプラスチックの現状を見ていきたいと思います。プラスチックのデータを見てみましょう。1970年のプラスチック製造量は約3500万トン、現在は約4億トン、2050年には約6.2億トンにもなることが予想されています。プラスチックの製造量は右肩上がり、プラスチック汚染と言おうが何だろうか、プラスチックは私たちの社会生活にとって必要不可欠です。プラスチックがあるからこそ、安全で新鮮な食料品が世界中に行き渡り、冷凍施設がないような場所にも対応できる。また、ペットボトル飲料水があるからこそ、インフラが整っていない開発途上国の田舎町に、安心で安全な水を届けることができる、と言うのが現状です。

加えて、プラスチック素材の包装があるからこそ、賞味期限を延ばすことができ、その分物流コストを抑えることができる、つまり輸送に関わる二酸化炭素排出量を抑えることができています。言い換えると、SDGsを達成するために必要な素材である、ということになります。

でも、残念ながら、先ほどの映像で見たように、プラスチック汚染を引き起こしています。プラスチック汚染が地球規模の喫緊の課題となった今、みんなのつながりに基づく国際的な対策を打たなければなりません。

では次にプラごみのデータを見てみましょう。このスライドでは色々なグラフを重ねています。まず真ん中にあるピンクのグラフがプラスチック製造量の予想グラフです。現在は約4億トンのプラスチックが製造されており、2050年にはその量が約6.2億トンになると予想が出ています。

その下にある緑と青と赤が積み重なっているグラフがプラごみの排出量予想です。現在は年間約約3.3億トンのプラごみが排出されています。2050年には約5.6億トンまで増加する予想が出ています。緑色の部分がリサイクル、今後もプラごみ全体の9%から10%程度を推移するのではと言われています。リサイクル技術はもちろん向上するのですが、全体的な量が増えるため、リサイクル率にしたら今後30年間もそれほど変わらないであろう、と言う予想です。赤の部分がプラごみの90%近く締めているのがオープンダンプも含む埋立処分です。なんだかんだ言ったとしても、埋立処分が今後も主たる処分方法である、と言うのが現状かもしれません。そして最後、青のグラフが、水系への流出、年間プラごみ排出全体の約3から4%程度が水域へ流出、つまりこれが海洋プラごみにつながっているというのが現状です。

みなさん、ここで何か気が付きませんか?3年前にも議論になったポイントです。ここ最近のプラスチック汚染関して、「海洋プラごみを見てプラごみ全体を見ず」、と言うような世の中の流れになっていないでしょうか?プラスチック汚染問題=海洋プラごみ問題、と言う図式のイメージが作られていないでしょうか?プラスチックごみのうち、水系流出しているのはわずか3から4%程度、大部分はオープンダンプを含めた陸上の処分場に捨てられています。海洋プラごみ問題で生物が痛められている姿は痛々しく、今のSNS社会ではそちらの方が目立つ存在ですが、一番重要なのは、目立っていない普通のごみ問題なのです。ここを取り違えてしまうと、プラスチック問題は絶対に解決しません。

6.プラスチック汚染の終結:法的拘束力のある国際約束に向けて

このビデオは、今年3月にUNEP本部で開催した国連の環境管理に関する最高意思決定機関である国連環境総会で、プラスチック汚染対策の条約化に関する決議が採択された瞬間です。このビデオでもわかるように、その採択の瞬間は、スタンディングオベーションで感動的な瞬間でした。拍手は鳴りやまらず、逆に大きくなるばかり。感激のあまり涙する人、お互いの成果を認め合うUNEP職員としてもなかなかお目にかかることができない、プラスチック汚染問題に取組むのだ、と世界が一つになった瞬間でした。

でもちょっと待ってください。プラスチック汚染問題は今に始まったことではなく、その中でも問題視されている海洋ごみ問題も今に始まったことではありません。なぜいまさら、と言う冷静な人は、この場に誰もいませんでした。

この50年前の本に既にこんなことが書いてあります。
「人間は自然そのもの、そして海洋をごみ箱として使用している。海洋が恒久的に受けているごみの被害についても考慮しなければならない。人間は、廃棄物を海に流してしまえば。それらは海の果てのいずこかへ消え去るものと錯覚しがちである。」

国連加盟国193カ国がそれを認め、対策を取らなければならないと認識するまで、少なくとも半世紀かかったという事実を認識しなければなりません。海洋ごみ問題は50年前から確実に認識されていたが、国際的な抜本的な対策は取ってこなかった。ここにも同じ本質的な問題が隠れています、「海洋ごみ問題、プラスチック問題もきっと誰かが解決してくれるはず、自分ではない」。その間、4000兆円もの環境汚染被害をもたらし続けていたとしても、です。

とはいうものの、少なくとも今年3月に採択された決議を基に、世界はプラスチック汚染の終結に向けて動き出しました。現在、本年11月後半に開催する第1回交渉会議に向けて、UNEPでは各種準備を実施しています。皆さん、ここで一つお知らせです。UNEPはあくまでも交渉会議の事務局を担当のため、交渉会議の主役は193か国の加盟国です。条約の交渉方法も含めたありとあらゆることはこの193か国の国連加盟国の手に握られています。もし、新たな条約に対してご意見等がありましたら、日本の場合は環境省と外務省にお話ししてください。UNEPはあくまでも中立的な立場で、交渉会議のサポートをする役割を担っています。

条約交渉会議はまだ始まっていませんので、その内容はまだ白紙です。ここからスタートです。この都の11月のウルグアイラウンドから交渉会議が始まり、来年と再来年2日ずつ交渉会議を行い、全5回の交渉会議で条約の内容を決めていきます。

プラごみ対策の選択肢

本年3月の国連環境総会の決議に含まれている、条約化に向けたキーポイントは主に二つです。①包括的なライフサイクルアプローチ、②共通だが差異のある責任。

①に関しては、プラスチックはありとあらゆるところに使われている万能な素材のため、そのライフサイクルすべてをコントロールしなければならない、と言う認識の下、設計、製造、流通、販売、消費、分別、回収、処理、処分と言う全てのステップを包括的に管理していく対策を講じなければなりません。②に関しては、大元を辿ると南北問題と言う言葉が使われるようになった1950年代、実際は帝国主義まで遡るかもしれませんが、経済格差のある現代社会においては、その格差に基づく対策を各国が実施しなければならない、ということが求められています。10年前の水俣条約もそうですが、国際的な管理体制にはこの共通だが差異のある対策を実施することが必要になります。

また、目的、定義、対策、実施、モニタリング、科学的知識、予算、遵守、事務局、締約国会議、教育、意識啓発、などある程度条約の柱も提案されています。これらは分野に関係なく条約の柱となるもので、今後2年かけてこれらの条項も国際交渉による文章化が行われます。

条約の文章は2024年中に確定しますが、その後、国連環境総会による採択、国連外交会議による採決を経て、国連加盟国がようやく条約への署名・批准手続きが可能となります。条約発効条件、例えば50か国が批准してから90日後に発効する、と言うのも今後も交渉内容に一つになります。

さて、皆さんが気にされているプラごみ対策はどうなるかと言うと、今の時点で全くの白紙で、どうなるかわかりません。以上です、と言うのが今現在、UNEPとしてお話しできることです。

ここからは完全に個人的な見解でお話しさせていただきます。このため、今からのお話しの内容に関しては、私が所属しているUNEPの意見ではありませんので、ご理解を。

され、まずは、既に関連する条約としてバーゼル条約と水俣条約があります。特にバーゼル条約では、数年前から汚れているプラスチックはバーゼル条約上の有害廃棄物となったことから、リサイクル目的だとしても各国定義で汚れているプラスチックの輸出入はバーゼル条約、日本の場合はいわゆるバーゼル法に基づいて実施しなければなりません。新たな条約においても、リサイクル目的のプラスチック廃棄物の輸出入は議論されると思われるので、バーゼル条約との関連も重要なポイントとなります。

それと、まずは、条約全体としてプラスチックの定義は何になるのか、と言うのが重要です。プラスチック名の付くすべてを対象にするのか、汎用性の高いポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンフタレートになるのか、それとも熱可逆性プラ全てになるのか、使い捨てプラスチック全てとなるのか、今のところわかりません。ここも、どのプラスチックを押さえるべきか、言い換えるとどのプラスチックが最も環境汚染を引き起こしているのか、と言う論点になるかもしれません。皆さんであれば、どのプラスチックを条約で抑えるべきかアイデアはありますか?

そして、プラごみ。ここも最初は定義が難しいと思います。廃棄物定義問題は数十年にわたり、国際的な場で様々な議論が行われていますが、最終的には各国国内定義に依存するため、国際的な定義を見出すことが非常に困難です。でもこれは、身近なことでも言えると思います。例えば、この真夏の炎天下、のどが渇いたので自動販売機でPETボトル入り飲料水を飲み、ごみ箱に捨てる瞬間はその人にとって廃棄物ですが、分別ごみ箱にPETボトルが入った瞬間にはそれが2次資源の原料となります。ちなみに、この前、出張で止まったホテルの部屋のごみ箱には、「燃えないごみ」と「燃やすごみ」の2か所の捨てる場所がありました。私はプラごみを捨てたかったのですが、どちらかにしてよいかわからず、別途、ビニール袋に「プラスチックごみ」をマジックで書いてそこに置いていました。最終的にどうなったかは、わかりません。

では仮にプラスチック条約の対象が、日本のプラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律と同じくプラスチック使用製品、つまり一般的に使われているプラスチック製容器包装をなった場合、どうなるでしょうか?こうなると、日本に住んでいる私たちには理解しやすい条約となるでしょう。一言で言えば、普段使用し廃棄しているプラスチック製容器包装全てが条約対象となり、国際的に決められた何らかの対策を実施することが国としての義務となります。

とはいうものの、日本の法制度やプラスチック廃棄物管理システムは日本だからできるレベルのもので、欧州を入れてもそのレベルに達しているのは世界的に見れば少数派、マイノリティーです。多数派は先ほどビデオで見たように、ケニア・ダンドラ処分場の状況が普通であり、そもそも廃棄物管理が適正と言うレベルに達していない国となります。そうなった場合、地道にプラスチック廃棄物を含む廃棄物全体の管理の強化が必要となり、プラごみ管理と言うよりも、廃棄物管理そもそも論となるでしょう。

でも逆に考えて、この新しい条約は海洋プラごみ対策のためと定義してしまい、水系に流出してしまうプラごみのみ対象とする、と言うのも一つの選択肢になるかもしれません。でもその場合、対象となるプラスチックは年間製造量のわずか1/30程度となるため、骨抜き条約となってしまうでしょう。

もう一つ、取り上げたいのが、プラスチック廃棄物は新たなビジネス展開となるか?です。そもそも、私たちのいる廃棄物業界では、人々の不要なものを取り扱うことから、基本的にはビジネスとして成り立ちにくい業界ではあるのですが、プラスチックリサイクルは少々話が異なるかもしれません。プラスチック汚染対策の条約ということは、明らかにプラスチックをリサイクルしていかなければならない、ということが間接的に明示されているため、それが補助金によるビジネスなのか、サステナビリティやSDGsと言う文脈からのビジネスとなるのか、社会的価値創造・そのリターンと言う新たな社会的課題解決型ビジネスと言う新たなドアが廃棄物業界でも開くのか、など、様々なビジネス展開の可能性を秘めています。条約交渉化の裏では、業界内外における将来につながるビジネス展開の駆け引きが激しくなっているのは現状です。そこに日本企業が入り込めるのか、入り込めたとしても生き残れるのか、2030年や2050年という長期ビジョンを明確にし、この激動の”資本主義市場”でプラスチックリサイクル業を、新しい価値観で実施することができるか、と言うのが成功するか失敗するかのカギとなるでしょう。

UNEPではこんな取り組みもしています。ユニクロとのコラボです。国連とか、条約と言うのは、普段の生活とはかけ離れたところにあるようなイメージですが、プラスチック条約で最も重要なことは、普段の生活で私たちが何をするか、と言う点です。プラスチックと共に生きる私たち、プラスチック汚染対策も普段の生活のなかの私たちの手の中にあります。

7.我々は本当の地球の姿を見ているのか?

  • プラスチック問題、本当にプラスチック問題なのでしょうか?

  • プラスチックがあるからこそ、安心で安全な水や食料品を手にすることができる。

  • プラスチックがあるからこそ、私たちの経済社会が成り立っています。

  • プラスチックが問題ではなく、根本的な問題は私達である。

これを踏まえて、環境対策の今後はどこに向かうのでしょうか?それを最後に考えてみたいと思います。

2年後に条約の内容が確定する見込みの新たな条約、プラスチック汚染対策に関する条約は、プラスチック対策を実施するための重要な国際実施につながる重要なものです。これは間違いありません。プラスチック条約も含めた多国間環境条約と言うのは、1850年ごろの欧州の環境対策条約を皮切りに、今では約250もの様々な多国間環境条約があります。私たちの廃棄物業界が良く使うのは、バーゼル条約、水俣条約、ロッテルダム条約、ストックホルム条約ぐらいだと思います。おそらく世界中にこのすべての多国間条約を把握している人はいないと思いますが、その中には、廃れたもの、現在の社会情勢に合わないもの、現在の環境対策に合わないものなども多数ある事でしょう。

また、ここ数十年の多国間環境条約対策は、年々、低濃度化・細分化の傾向があります。モニタリングや分析機器技術の向上や実施精度の向上・簡便化に加えて、今までざっくりしか見えていなかった環境問題の詳細が明確になっていたというのが理由です。プラスチック条約のモニタリング手法は今後議論されていきますが、例えば海洋1L当たり5マイクロ以下のマイクロプラスチックが何個以上であれば汚染地域として対象となる、ようなモニタリング手法も将来的には可能になるでしょう。

ではその低濃度化・細分化はどこまで進むのでしょうか?最終的には環境中の汚染濃度物質を通り過ぎて、生物・人体のDNA損傷レベルを検出して汚染度合いを決める、と言うところまで行きつくかもしれません。それが我々人類が目指すべき環境汚染対策でしょうか?

その答えの一つが、意外なところで見つけることができます。それは、人類の歴史で、人類が農耕社会を構築し、文明を開化させていた時期に深まった哲学や宗教的な知識です。私は、典型的な日本人で、無宗教なのですが、般若心経とか空の世界、孔子・荘子の教え、旧誓約書やカントやサルトルをはじめとするヨーロッパ哲学、西郷隆盛の天道や日本文化のお天道様の考えなどの、神とか天とか宇宙とかを全て自然環境に置き換えて読むと、ここに答えがあるのです。それはBeiingです。

先ほども読みましたが、この50年前に書かれたこの本に書いてある解決方法をもう一度読んでみたいと思います。
「望ましい人間環境を生みだすということは、単に自然の調和を保ち、天然資源を経済的に管理し、生物、人間の健康をおびやかす脅威を取り除くことだけでは達成されない(つまりDoingだけでは解決しない)。自然の力と人間の意志のたえまない交流によって実現しなければならない(人間と環境のBeingをシンクロさせる)ということです。」

ルールを作る・実施する、法制度を作る・実施する、国際条約を作る・実施する、みんなで作ったSDGsを実施する、これら全てはDoingです。Doing は目の前の問題を解決するためには良い手段でしょう。でも、本質的な解決方法は、being です。人のbeing が変わらない限り、人間は目の前の対策を作りDoingし続けるでしょう。それでは本質的な問題は解決しません。

8.おわりに

  • プラスチック問題、本当にプラスチック問題なのでしょうか?

  • プラスチックがあるからこそ、安心で安全な水や食料品を手にすることができる

  • プラスチックがあるからこそ、私達の社会はこんなにも便利である。

  • プラスチックが問題ではなく、根本的な問題は私達である。

プラスチック条約、これ重要です、目の前の問題を抑え込むためには条約を作りその対策を実施する、doingをすることは重要です。
でも、それは本質的な問題解決方法ではありません。人間のBeingが自然のBeing と再びシンクロしたとき、気候変動もしかり、プラスチック汚染もしかり、ありとあらゆる環境問題が解決するでしょう。


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