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あれから2か月経って:レジ袋有料化、とそこからNext資本主義なことを考えてみた

レジ袋有料化が始まって2カ月弱。何かが始まるときは必ずその逆に向かうベクトルが発生するのが私たちの社会。今回も色々と起きていると思います。僕は、正直に申しますと、レジ袋有料化も含めた昨今のプラスチック問題の世の中の動きに、いまだに何か引っかかっています。「なんか腑に落ちない」、みたいな感じです。それは、本当に問うべき問題を解いていないのではないか、という事です。今回は、この本当に問うべき問題について改めて考えるために、レジ袋有料化制度の最初の2か月を振り返ってみたいと思います。

レジ袋のパラダイムシフトは起きた?

今から2か月ほど前、レジ有料化が導入される直前のそのころ、世の中の片隅では、レジ袋有料化は実効性のある制度なのか?レジ袋有料化は意味あるのか?レジ袋有料化でプラスチックごみ対策となるのか?などかなり懐疑的な意見で盛り上がっていました。確かに、ここ数十年のレジ袋は無料でもらうものであるという、あたりまえの習慣が終わる直前だったので、人の心理としての、その習慣が変わることに対する不安から、レジ袋有料化には懐疑的な意見が多かったと記憶しています。

それから2か月経ち、レジ袋に関するパラダイムシフト後のニューノーマルはどうでしょうか?スーパーやコンビのレジでの定員さんの言葉が「レジ袋は必要でしょうか?」の声がけが完全に変わりました。店内を見ても「レジ袋は有料です」「レジ袋の無料配布は終了しました」「お買い物はマイバックと」などの表示が見られます。最近のNHKニュースによると、コンビニでのレジ袋辞退率は有料化前は約25%程度だったのですが、有料化後は何と、セブン‐イレブンが75%、ファミリーマートが77%、ローソンが76%でいずれも大幅増。4人に3人は辞退している結果となっています。有料化制度の効果てきめん、と言える結果だと思いますが、その理由に含まれる一つとしては、日本人がもっている和の心ではないでしょうか?決められたことを守るという、その心、重要です。ちなみに、僕はこのような仕事をしていると、よく聞かれる質問がこちらです「何で日本人はルールをちゃんと守るのか?」。本筋をついている質問だと思います。でもこのポイントが、プラスチックごみ問題を含めたすべての環境問題に関する深層でしょう。レジ袋有料化は小手先の技であり、システム思考的に解決するべき課題は他である、と言う事に気がつかなければなりません。この件は以前の記事でも書きましたが、レジ袋有料化制度開始から2か月たった今、改めて強調にしたいと思います。

そのシステム思考的に解決を目指し、そして課題と正面から向き合うために、改めてプラスチックごみ問題の最新動向を僕なりにまとめ、最後に本当に解決するべき課題を議論したいと思います。

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海洋汚染などプラごみ問題の現状

まずはデータのおさらい。以前の記事でも使用したデータはこちら。プラスチックの資源循環に向けたグリーンケミストリーの要素技術の第4章 国際的なプラスチック管理の最新動向執筆時に作成したもの。分母は地球1個です。

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仮に、世界中でレジ袋有料化制度が始まり、レジ袋が完全に地球上からなくなったとしても、減らせるプラスチック量は約16%の約4800万トン。プラスチック使用量全体からすると、大した量の削減をすることはできません。ここに一つの論点が由来します、それは「レジ袋有料化は意味ない説」。データだけ見るとそうかもしれません。日本国内のデータを見ると、2018年で排出されたプラスチックごみは約891万トンでレジ袋は約3%の20~30万トン程度です。日本はそもそもプラスチック製レジ袋を削減してきているのですが、今回のレジ袋有料化では「雑巾を絞りに絞る」状態かもしれません、「もう水は出てきません」みたいな感じです。プラスチック使用料の削減、プラスチックごみの削減において、プラスチック製レジ袋有料化制度で減らせる量はたかが知れているので、「自分だけはいいや、3円で買えば済むんだし」、という事で良いでしょうか?この考えは、レジ袋有料化制度を小手先の技でしか見ていません。レジ袋有料化制度は私たちの地球環境を守るための、一手にしかすぎません。

その視野をちょっと拡大してみましょう。ニュースを見ていると、プラスチック製レジ袋が悪者にされて、海洋ごみやマイクロプラスチック問題の原因である、と強調されています。確かにそうですが、これこれ、このウェブサイト、少々古い報告書、環境省の報告書水産庁書類のなどを読む限りは海洋ごみの50~60%、グリーンピースの報告書をベースとした記事では年間約64万トン、多くの海洋ごみの由来は漁業で使用されている漁具(漁網やロープ、ブイ等)と言うのが事実です。ちなみに、意図的にまたは事故的に漁具を海洋投棄した場合は廃掃法違反、つまり不法投棄となります。世界的に見ても不法投棄案件です。この記事を読んでいただいている方で漁業関係者の方は少ないかもしれませんが、ルールに基づき業網を適正に処理処分するのも、地球環境を守るための一手です。

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でもこれらの世の中をにぎわせている論点の前に、重要なことを忘れていないでしょうか?二つあります:①そもそも悪いのは私たち人間、②使った後廃棄物管理をちゃんとしていないから。プラスチックごみ問題や海洋プラスチックごみ問題の論点を聞いていると、「プラスチックが悪い説」が多いのですが、本当でしょうか?プラスチックのせい、ではなく、プラスチックを使っている私たち人間のせいではないでしょうか?「レジ袋有料化反対論」の中には、新たにごみ袋を買わないといけなくなった、とか、ロールポリ袋の使用量が増えたので意味ないのでは、と言う声があります。実際生活しているとそうだと思います、レジ袋の使用を削減したとしても、何かのプラスチック製の袋が必要な場合はあります。であれば、使ったらちゃんと捨てる、適正にリサイクル・処理処分する、ポイ捨ては絶対にしない、などが重要です。でも、残念ながら、日本でも目に余る光景をよく見ます。これがなくならない限り、プラスチックごみ問題やその他環境問題は絶対に解決しないでしょう。レジ袋有料化だからレジ袋をもらわないようにする、に加えて、地球環境を守るためにレジ袋をもらわない、最低限必要な場合は購入して、ルールに基づいてちゃんと捨てましょう。

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プラごみ問題に関わる国内外の規制や政策の動向

僕たちのチームが2018年6月に発表した報告書、Single-Use Plastics: A Roadmap for Sustainabilityを基に作成したのが下の図です。2018年6月の時点においては、①世界では127か国がプラスチック製レジ袋に対して何らかの対策を取っている、②プラスチック製レジ袋配布を規制している国は84か国、③43か国はプラスチック製レジ袋の製造・輸入規制を実施、④27か国ではプラスチック製レジ袋を含めたプラスチック製容器・食器類を禁止、⑤27か国ではプラスチック製レジ袋に課税し、⑥43か国においてはプラスチック製品類に対して生産者拡大責任が導入。自分たちで調べてみて結果を見た時は、「意外に多くの国が何らかの手は打っているのか、実際はそう思えないけど」、という事を当時感じたことを覚えています。一つの傾向としては、廃棄物管理が十分でない国は、使い捨てプラスチックの使用を禁止・制限するという事です。アフリカでレジ袋使用禁止が比較的早期に導入されている主な理由は、廃棄物管理問題から由来しています。

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さらに、2017年末から実施された中国国内への廃プラスチックの輸出規制、いわゆる中国ショックや、2021年1月からバーゼル条約上の手続きが適応されるプラスチックごみ輸出入を踏まえて、ここ数年、各国で使い捨てプラスチックの削減政策強化が導入されてきています。例えば、日本も2022年以降に家庭から出るプラスチックごみの一括回収制度の議論が始まったり、EUでは昨年使い捨てプラスチック製品禁止法案が採択され、代替品が存在するカトラリーやストローなどの使い捨てプラスチック製品の流通の禁止や、プラスチックボトルの回収率を2029年までに90%、プラスチックボトルのリサイクル材用含有率を2025年までに25%、2030年までに30%という目標も設定。プラスチック製品をなるべく使わない、使用したら適切にリサイクル・処分するための政策を導入・実施するのが、世界の潮流となっていることには間違いありません。中国においても、既に大手コンビニやスーパーでは無料配布はしていませんが、主要都市では今年末から、国内全体としては2022年からプラスチック製レジ袋の使用が禁止されます。タイのバンコクでも自主的な取組として小売者協会が今年初めから実施しています。プラスチック製レジ袋も今後削減していくことが、世界の循環経済のスタンダードになるでしょう、新型コロナウイルスが世界的大流行になるまでは。

コロナ禍においては、改めて循環経済戦略への戦略的変更が求められています。普段の暮らしをより清潔に保ち、新型コロナウイルスへの感染を防ぐために、使い捨てプラスチックへの需要が再び高まっているからです。新型コロナウイルスがどの程度プラスチックの表面に残存するかという科学的・医学的な情報もありますが、新型コロナウイルスの感染主要経路は飛沫感染ととなります。でも、コロナ禍の生活においては、なるべく衛生的なものを使用し、それを使ったら処分する、と、大量生産大量消費時代のその生活が求められているのは事実です。しかも、医療現場ではプラスチック製個人防護具が必須であり、また、アクリル板の仕切りやプラスチック製飛沫防止シートなど、ニューノーマルな社会ではプラスチックが必要です。

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新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、レジ袋有料化や使い捨てプラスチック製品禁止措置を緩和・延期する動きが多く出てきています。例えば、アメリカのカリフォルニア州では2016年から全米で最も早くプラスチック製レジ袋の提供を禁止しましたが、今年の4月から、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、プラスチック製レジ袋の無料化が始まりました。この動きはアメリカのニューハンプシャー、イギリスのオンライン販売、タイでもデリバリー関連を中心として使い捨てプラスチック製品が再び使われてきています。日本でも、コロナ禍においてはレジ袋有料化制度に対する様々な意見があります。コロナ禍においてはレジ袋が必要であるとか、各家庭でレジ袋をごみ袋として利用されていたこともあり、批判低な意見もあるのは確かです。さらに、コロナ禍においては、マイバックは持っているけど、それぞれの食品などを安全に持ち帰るために、ロールポリ袋の使用量が増えた、との報告もあります。

ここで感じるのは、やはり小手先の技では、プラスチック問題対策が不十分であること、です。コロナ禍だからもそうですが、廃棄物管理が進んでいる日本に住んでいても、道端を見ればレジ袋やPETボトル、たばこのポイ捨てを見ますし、これがなくならない限りは、プラスチック問題もなくなりません。レジ袋有料化制度に加えて、プラスチック製品使用規制措置をすればよいのでしょうか?いま議論が進んでいるプラスチック製品一括回収に加えて、さらなる廃棄物管理技術開発が必要でしょうか?全部重要です、でもこれらも小手先の技にしかすぎません。プラスチック問題はプラスチックのせいでしょうか?そうではありません、プラスチック問題とは、私たち人間自身の問題なんです。それをシステム思考的アプローチを用いて解決を目指さなければなりません。

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プラごみ問題の解決に向けた今後の課題

プラスチックごみ問題において、本当に解決するべき問題は、第一次産業革命をきっかけに市場経済から資本主義経済へ移行した現在の経済の仕組みに行きつくのではないでしょうか?経済と環境のトレードオフ、だった社会システムにパラダイムシフトを起こさなければなりません。これと同時に、高度化していった科学的技術の在り方もそうでしょう。つまり、環境保護の観点が完全に抜け落ちていた。今までの技術と資本主義の融合による経済社会を変えない限り、プラスチック問題もしかり、気候変動問題もしかり、ありとあらゆる地球環境問題は解決しないのではないでしょうか?資本主義経済の原資は天然資源。天然資源を開発する技術の発展と共に資本主義経済が発展し、資本が世の中で拡大するようになり、天然資源の開拓者や技術の開発者が今のところ勝者=いわゆる先進国となっています。資本が人間社会を拡大しながら富を生み出し、人間の暮らしが豊かになりますが、そこで使い倒された天然資源は、二酸化炭素として、廃棄物として、地球環境中に排出され続けています。それに対する自然の反応が地球温暖化であったり、海洋中のマイクロプラスチックであったりします。でも一度動き出した資本主義経済は止めることはできません。新型コロナウイルスが資本主義経済を一時的に止めましたが、その瞬間に人間の社会が経済的に崩壊するのを目のあたりにしました。ではどうすればよいでしょうか?

資本主義と環境主義の融和が必要です。Next資本主義、ポスト資本主義、ネクストESG、Beyond SDGs、社会的共通資本、コモンズなど言い方はありますが、どれもしっくりこないので、仮に、サステナブルな環境と資本主義システム(Sustainability System for the Environment and Capitalism:SEC)としましょう。資本主義では資本を稼いだだけ・拡大しただけその見返りとして経済的な富を生むことができましたが、この300年間、天然資源を搾取し続け、自然環境の破壊を行ってきました。それに対して、今私たちが求められているのは、SDGsが達成した後の社会、サステナブルな社会です。いかにサステナブルな行動、地球環境を守る行動をした人が、その見返りに社会的信用度、そして経済的な利益を得られることができる、新たなシステムが必要です。それが、サステナブルな環境と資本主義システムです。

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このサステナブルな環境と資本主義システムが、名前から難しく聞こえますが、実際はそうではないのです。例えば、レジ袋有料化制度に基づいてマイバックを使った人、地方自治体のルールに基づきちゃんとごみの分別をした人、リサイクル素材を使用した製品を購入した人、何らかの二酸化炭素排出削減をした人、などのサステナブルな行動、言い換えるとサステナビリティアクションを実行した人が社会的信頼度・貢献度を評価されるシステムが必要です。そのサステナビリティアクションで社会的信頼度が高い人は、例えば消費税が無税・減税となるような、社会の誰もがその貢献度を、「この人はすごい」と認識・賛美するような、新たな価値観を産むのがサステナブルな環境と資本主義システムが目指すところです。もちろん、言うは易く行うは難しで、この考えは僕の頭の中の妄想にしかすぎませんが、何人かの経済学者の先生や環境経済の専門家の方は、このような考えの研究をされていると思います。現実化されていないという事は、かなりハードルが高い理論と認識しますが、国連職員としても地球環境を守るために、実現したい新たなシステムです。

いきなり“目指すはサステナビリティアクションで消費税減税!”、となると現実性がほぼありませんが、例えば、一企業が実施しているポイントシステムを応用できないでしょうか?今のポイントシステムは、資本主義を拡大させるど真ん中システムで、買い物をするとポイントがたまり、次の買い物に使える、つまりお金を使えば使うだけポイントも増える、と言うシステムです。例えば、サステナブルな商品を買うとサステナビリティポイントがたまる→ある程度ポイントがたまるとそのお店・システム内でのサステナブルなお買い物の合計金額から5%割引になる、のようなアプローチです。このシステムでは、消費者はサステナブルな商品を購入する、つまり普段の買い物から環境を意識する、と言う新たな価値観を持つようになるでしょう。また、お店側もSDGsをビジネス展開のど真ん中においてサステナブルな商品開発を続け、サステナブルな商品を消費者に届けることでビジネス展開をしつつ社会的課題も解決していくアプローチを取るようになるでしょう。自身の今後のマーケティング戦略の一つとなると思います。

CSR、CSVときてESG、そして次世代の、サステナブルな環境と資本システムへの移行は、あるべくしてある流れではないでしょうか?社会全体がサステナブルとなるこのシステム、サステナブルな環境と資本主義を創り上げていくというのは、Next ESGとして世の中が求めているものでしょう。僕は経済学者でもなく、ただの国連職員なので、このサステナブルな環境と資本主義システムの考えは、まだ初歩中の初歩ですが、実現に向けてより具体的にし、その思考を深めていきたいと思います。おそらくこの思考の一部は、以前議論したSDGsスタンダード的な思考がベースとなるでしょう。考えが深くなってきたら、改めてnoteに書きたいと思います。

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