漢文の入門期指導は、短い白文を用いて語順を理解させるという正攻法以外にないのではないか。

何度も書いていて嫌になるが、現在の所属校はいわゆる進路多様校である。みんな大好き「生徒実態」はしんどい。

中学校で、ここなら入学できるよ、と言われた生徒が多い。入試はあるが、ほとんどの生徒が合格する。

言語文化は必履修科目である。だから全生徒が履修する。言語文化には古典分野が含まれており、もちろん漢文を学習する。

漢文が役に立つ/立たない論争には関わりたくない。国語科の教員でも、「漢文が全員に必要じゃないと思う。漢文は全高校生がやらなくていいと思う」と言う方がいる。私はそう思わないし、私なりに漢文を学習する価値については考えがある。しかしここでは触れない。

所属校で漢文の入門期の指導は、統一して漢文の語順についての学習を優先する。熟語の構成からはじめて、字数を徐々に増やす。返り点は語順の学習のなかで必要だから、レ点と一二点を指導することになる(それ以上の、上中下点や甲乙丙点は優先度を低く設定している。)。書き下し文についての指導も、語順の指導を終えたあとで、補足的に行う。返り点に従って◻︎の中に番号を振ることは一切しない。再読文字については、語順を混乱させるので、「未」のみ指導する。余裕があれば「将」、「且」まで指導する。置き字は、字の意味を重視して「而」、「於(于)」を指導する。「読まない字」などという粗い説明はしない。意味があることを必ずおさえる。

このような指導をしてできるようになるのか。なる。一連の指導を終え、書き下し文を一切指導せず、訓読文を書き下し文にするプリントを配付して取り組ませた。問題は10問程度である。置き字や助動詞として訓読する「不」の入った文も含まれる。事前の説明は一切せず、ヒントも出さない。

どのくらいで、全員ができたか。20分程度で全員が終わった。途中もヒントは一切出していない。ただ、淡々と、「こうではないね」と丸せずに直させ続けただけだ。

プリント終了後、「書き下し文をつくるときに気をつけることを自分なりに箇条書きでまとめなさい」と指示し、回答させた。ほとんどが、一般的に教員が指導すると思われる書き下し文の作り方である。もちろん、「不」以外に助詞や助動詞は含まれていないので、生徒の回答には助詞・助動詞についての留意事項は含まれない。しかしそもそも、漢字仮名交じり文として書き下し文を書かされることなんて、模試くらいしかないのだ。読めればいい。

私は漢文の専門家ではない。だから、このような指導がどの程度適切なのかはわからない。しかし、パズルのように漢文を学習するよりはいいと思う。

また、同僚たちも同じように指導している。このやり方をやってみて、自分の漢文の指導法が変わったと言う方もいる。

もちろん、国語科全員で取り組むための手立ては打った。その手立てについては割愛する。プリントや、どのような手順で、どのくらい指導していくのかも割愛する。

ただ、漢文の文構造のような指導も、やり方を工夫すれば、所属校の生徒でもできるのだと言いたいのだ。

「生徒実態」なんて、そんなものだ。生徒をなめてはいけないのである。生徒の可能性を狭めているのは、「生徒実態」という言葉で生徒の能力をわかったような気になる人たちなのだ。

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