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イギリス憲政論

イギリス憲法に潜む機能の秘密は、行政権と立法権の密接な結合、そのほとんど完全な融合にあるということができる。

Ⅰ 内閣p14

衆議院は、選出機能をもった議院である。すなわちそれは行政部の長官を選出する議院である。

Ⅴ 衆議院p162

新興国は、他の条件さえととのうならば、君主なしの議院内閣制を採用して、イギリス憲法特有の主権に相当する、安定し、よく整備された主権をもうけることができるのである。

Ⅶ いわゆる「牽制と均衡」p308

 著者は19世紀イギリスのジャーナリスト、評論家のウォルター・バジョット。今でも存在するイギリスの雑誌「エコノミスト」の編集長を務めた。一時期は政治家を目指して衆議院への立候補もする。本書の「イギリス憲政論」はイギリス政治の古典として憲法の運用上の権威としても扱われているとのこと。ただ憲法学の教科書のようにこの条文についてこのように解釈すべしという内容ではなく、古臭い言い方でいえばイギリスの「国体」について解説しているものである。
 ウィキペディアだと君主擁護論として紹介されているが、冒頭引用したようにはたして擁護になっているのか疑問である。もちろん反対ではないし、イギリスにとって立憲君主制がもっともいいという趣旨は貫かれてはいるがけっこう冷めた言いぶりが目立つ。君主については世襲でなった者は平凡で役に立たない、そもそも熱心に仕事する動機もないし経験を積む場もない、のような、むしろ君主はいらないと思っている?と疑いたくなる内容である(擁護理由も大衆にとってそのほう「わかりやすいから」という、逆に一般有権者にケンカ売るようなもの。これじゃ選挙とおらんわ・・)もしイギリス憲政についてこれが権威的な理解であるなら日本の象徴天皇制とほぼ同じようなものだと感じられた。(むしろ日本は先どりしてたのか?)

 むしろバジョットが強く擁護しているのは議院内閣制という制度である。これを大統領制と対比させ、議院内閣制=立法部と行政部が一致した体制⇔大統領制=立法部と行政部が分離した体制、として大統領制に対して議院内閣制がいかにすぐれているか論じている。この視点はありそうななかった視点である。政治制度を考えるときは古典的な王政、貴族政、民主政という区分で考えてしまうが、議院内閣制と大統領制を、主権が一致しているか分割されているかという視点で分けてその優劣を論じているのは優れていると思った。(立法部と行政部の多数党が一致しないと政権がレームダック化する今のアメリカ政治のこと思い起こせば一致の必要性はすぐカンづくだろう)
 また、特に衆議院について最も大事な機能が「指導者の選出」となっていることは、まさしく現実の政治を見れいればそのとおりであると思った。なぜなら議院内閣制においては立法部と行政部が一致しているのでその両方を指導する首相こそがもっとも重要であり、その首相を選ぶ衆議院選挙こそが最も重要な政治イベントとみなされているからである。(そして衆参両院の議長の選出は非常に地味な扱い)
 教科書的な三権分立論はむしろ現実の政治の分析をするうえでミスリードになるのではないか、そう思えるくらいバジョットの分析は気づかされるものが多いものであった。

 古い政治評論ではあるがそもそも論として私たちが誤解していることを訂正してくれる本である。現代の日本の政治を考えるときは真っ先に読んだほうがいいと思った。

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