クセノフォン「ソークラテースの思い出」

1月くらい空いてしまった。続けるのって本当に難しいですね。とりあえず年末まで週1頑張りたいと思います。

表題は古代ギリシアの軍人さんでもあるクセノフォンが師匠のソクラテスについて書いたものです。ソクラテスについて書いたものはプラトンの対話編が有名なのでこちらの方はややマイナー。内容もプラトンに比べればすこしこじんまりとしています。ただその分ソクラテスの実像にはプラトンよりも近いといわれているそうです。

読んで驚いたのは真ん中くらいから続く兄弟を大事にしなさいとか、友人の大事さとか、親に孝行しなさいとか書いてある部分。かなり儒教に近いなということ。(訳者の解説でもそう指摘している)ただそのためあまり魅力のないものに感じてしまう感はある。儒教と古代ギリシアに共通点が生まれているのは驚きだが。まぁ孔子もクセノフォンも旧来の秩序が壊れたときに活躍し、その後国を追われているという点で似ているので、そのような動乱の時代に追及される秩序、倫理とは東西問わずに通ってくるのかもしれない。

読んでいて一番疑問であったのはソクラテスが正義を「国法に従うこと」とし、この点が全体を通じて繰り返し語られていたにもかかわらず、どのような法制なのかということは出てこなかったところです。プラトンなら有名な哲人国家があるがクセノフォンは「国法に従う」しかなく物足りなく思う。しかも時代設定のアテナイは専制の時代で、師匠のソクラテスを死刑しているため、国法について単純に今あるのがいいと思っているとは考えにくい。それなら過去のアテナイの政治家、例えば、トュキディデスのペリクレスではアテナイを「少数者の独占を排し、多数者の公正を守る民主制」といい、世界でお手本にすべきいい制度を我々は持っていると述べているので、クセノフォンも例えばペリクレスはこういうことを言っていたというような場面設定をしてあるべき国法の内容を語ってもいいはずである。だが彼自身、またはソクラテスが、実際にどのような国法を想定していたのか、不明のまま終わっている。

単にアイデアがなかったのか、ほかの著作に埋め込んだのか、訳者の解説ではアテナイのライバルであるラケダイモン(スパルタ)の保護を受けていたので正直書けなかったのかもしれないが、内容があまりない割には未完成というより謎が漂うので、非常にひかれる一冊だと思った。他のも今後読んでみようと思う。

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