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GE帝国盛衰史


GEでは業績のプレッシャーが常にあり、あらゆる職位で、目標未達はキャリアの終わりを意味した。部門のトップは、部下がどんな方法で目標を達成したか知らないことはあったし、知る必要もなかった。方法は些事に属し、いつでも修正可能だが、最終的な財務目標を達成できなければ取り返しがつかなかった。

chapter1 「隠された真実」 第9段落

大きなミスを犯しても、GEの規模はそれを吸収してきた。(中略)GEは大きすぎて、たった一度の失敗でつぶれるようなことはありえないのだ。

chapter40 「反対なら辞めろ」第8段落

 著者はとトーマス・グリタとテッド・マンという二人のウォールストリートジャーナルの記者。2人ともアメリカ人。2人の名前で検索しても本書しか出てこないので有名記者というわけではなさそうな。本書は量としてはかなりありchapterは59まである。タイトルとしては盛衰史とあるが原題の「LIGHTS OUT」のとおり「盛」の時代といえるジャック・ウェルチ時代はあまりなく、「衰」の時代のジェフ・イメルト、ジョン・フラナリー、特にウェルチの後継者のイメルト時代が中心となる。なので、ギボンの「ローマ帝国衰亡史」というものがあるので「GE衰亡史」でいいのになぜ「盛衰史」としたのか、そっちのほうが人口に膾炙っていう判断だったのかだろうか。本書はビル・ゲイツの推薦図書としてメディア等で紹介されており、自分もそれきっかけで読んでみた次第である。

 本書は歴史の教科書のように淡々と事実が、誰が何をした、を書き連ねている。なのでもしかしたら結構途中で脱落した人も多いかもしれない(キンドルで読んだのでみんながチェックした箇所を見ることができるが、かなり前半に偏っている)ただ、GEを批評するという姿勢よりもジャーナリズムとしてできるだけ客観的に事実を記載しようという姿勢は非常によかった。あまり部外者が正論言っても仕事している人間ならただのきれいごとと思うし、たまにあるジャーナリストの上から目線は読んでいてうんざりすることもあるので。引用した箇所にもあるがGEのような大きな企業はたった一度の失敗でつぶれることはない。裏を返せばなんでこうなってしまったのか、よくわからないといえる。ストーリーとして原因→結果を期待している人は結局何が言いたいのかイライラするかもしれない。ただ企業に限らずある程度の大きさの組織の不祥事は往々にして原因が複数であり、さらに「悪者」らしい悪者がいない場合も少なくない。本書ではそういうリアルを追体験できるように思う。実際自分がこの企業に属していたら果たして何ができたか、外部の人間から聞かれたときにどう答えたのか、それを考えてみるとなかなか途方に暮れる。
 1つ感じるのは、よく巷では日本企業の不合理性でアメリカ企業は合理的という評価は正しいのかということだ。最近では生産性の低さというだろう。両国に差は特に文化などで説明されることが多いが、GEの内実はまさに昭和日本のモーレツ企業そのものである。厳しいノルマ、色々な事業に回されるキャリア、イメルト社長は元大学アメフトの選手でバリバリの体育会系で最大の強みは自他ともに認める精神力、という具合である。
 つまり日米両国の経営スタイルの差を文化的な要素や法制度では説明が難しい。GEの内実は日本企業に向けられるような非難すべてを当てはめることが可能なのである。ではなぜ日米の企業は比較されるほどに異なるのか。直感的に感じるのは企業の古さである。日本企業は古い企業が生き残っているゆえに古い経営が生き残り、アメリカは古い企業が淘汰され新しい企業が大きくなるがゆえに新しい経営が主流となる、というものである。そして新しいがゆえに大きく成長し、大きく成長するがゆえに成長しない日本企業と比べられるというものである。
 日本企業についてよくアメリカとの比較で色々聞くことが多いが、そこでいわれていることが本当に当てはまっているのか、考えさせられる一冊であった。

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