スクリーンショット_2019-09-27_16

人形制作会社スタジオ・ノーヴァと、残業代未払いや不快な行為の問題について団体交渉を行いました!

 8月末から人形制作会社スタジオ・ノーヴァとの団体交渉が始まりました。スタジオ・ノーヴァは、NHKの教育番組などテレビ番組を中心に人形劇の人形や小道具を作っている会社です。NHKで番組名を上げると『いないいないばあっ!』の小道具やワンワンの着ぐるみ。『新・ざわざわ森のがんこちゃん』や『えいごであそぼwith Orton』などです。他にもイベントやCMで使用する人形や着ぐるみなども製作している人形製作、人形劇業界では老舗と言える会社です。

 以下は、労働組合に加入し、残業代未払いや不快な行為の問題について団体交渉を始めたAさんによる、団体交渉の報告です。

◾️同じ仕事なのに待遇の差…。非正規を差別する就業規則

 私は一年毎に契約更新を行う嘱託社員です。つまり、非正規社員でした。スタジオ・ノーヴァでは正社員と非正規社員との待遇にいくつかの違いを持つ規則を作っていました。その一つが病気休職期間中の給与です。病気休職期間中、正社員には給与が支払われますが、非正規社員には0円でした。
 正社員と非正規社員の仕事内容や責任の有無などが違うならばそれもありかもしれません。しかし、正規、非正規で働き方に違いはありませんでした。社内でも「正社員になっても嘱託社員の時と何も変わらないよ!」と正社員が笑い話にするほど、本当に何も変わらないのです。それにもかかわらず、賃金や傷病手当、退職金などの待遇には差をつける。それは明確な非正規差別でした。

◾️健康保険ではなく東京芸能人国民保険?

 そもそも、健康保険に加入していたら、病気で休職する場合は、傷病手当金という制度が使えます。そこから賃金の6割程度の補償を受けられることになっています。
 しかし、この会社では、東京芸能人国民保険という保険に社員を加入させています。そのため、傷病手当金の制度は使うことができません。前述の通り、スタジオ・ノーヴァでは非正規社員は傷病手当金制度が使えない上に、会社からの補償も受けられないという状況に追い込まれてしまいます。非正規社員は病気になったら辞めろということでしょうか?また健康保険であれば1年以上加入していれば、病気で退職した場合、最大1年半の間、傷病手当金を受けることができます。Aさんは退職後も病気で苦しんでいますが、上記の制度のために現在傷病手当金も受けられない状態です。

◾️非正規差別の問題を認めさせ、差別制度を撤回するよう約束

 病気休職機関中の給与の制度について「非正規差別ではないか」とユニオンが問いかけたところ、会社は「考えたこともなかった」とあまりにもあっけらかんと言い放ちました。差別をしているという自覚はなく、そこで苦しんでいる者がいるとは夢にも思わなかったのでしょう。驚くべき想像力のなさに呆れました。
 今回の団体交渉で会社は、会社が行っていることが明確な差別行為であり、違法行為であることを認め、嘱託社員(非正規社員)にも休職中の給与を出すことを約束しました。

◾️「残業代は出さないシステムにしている」!? 

 社長は入社に際しての面談の時に「残業代は出さないシステムにしているんだ」と言いました。入社してすぐの私にはその言葉の意味が理解できませんでした。残業させるがお金は払わない、とは? 働かせるが賃金は払わない。残業もある、休日出勤もある。しかし、賃金は払わない。
 実際に残業はありました。それを勤務時間表に記入していました。しかし、それは給与には反映されませんでした。時折、勤務時間表を記入している際に「給与に反映もされないのになぜ働いた時間を記入しているのか」と絶望した時もありました。
 団体交渉で、「未払い賃金については支払います」と約束を取り付けました。しかし、また別の問題が浮上しました。時給単価についてです。実際は週休二日制でしたが、契約上は隔週土曜日出勤となっていました。そのため、時給単価が下がる計算をされていました。時給単価について団体交渉で追及された際、社長は「会社側としては善意で休日を増やしていた訳だから」と「善意」という言葉で隠し、論点をずらしてきました。
 時給単価を下げていたことについては認めていたにもかかわらず改善を約束させることはできず、「再度計算します」という回答しかしてくれませんでした。

◾️口の中に食べ物が入っていても、電話が来たらワンコールで対応…それでも「休憩は取れていた」?

 時間外労働についての交渉において昼休憩が取れていないことを認めてほしいと会社側に伝えました。しかし、会社ははじめ、それを全く認めませんでした。というのも、会社は「手待ち時間」と「休憩時間」の違いを理解していませんでした。
 会社での昼休みは昼12時から1時間という規定になっていました。しかし、実際には12時からとれることは少なく、休憩に入ることが出来ても電話やメール対応、上司から仕事を言いつけられたら対応するなど実際にはいつ仕事が入っても対応できるようにスタンバイしている状態でした。食事をしている時に電話が鳴れば、急いで口の中に入っている食べ物を咀嚼し、ワンコールで対応する。メールが来れば上司に相談し、早急に返信する。
 その時間を会社は「休憩時間だった」と主張してきました。その認識のずれを感じ、たまりかねて「社長、手待ち時間って知っていますか?」と聞きました。すると、会社側はキョトンとした顔で「知らない」と言いました。そこで「手待ち時間」と「休憩時間」の説明を行いました。なぜこのような基本的なことを団体交渉の場で説明しなければならないのか本当に呆れるばかりです。説明し、社長は認めるものの「だからって休憩時間1時間を全部働いていたってするのは・・・」とモジモジと言い始めました。会社側の主張が論理的ではないことは社長も理解していたと思います。それでも納得せず、社長は感情に則った主張を続けました。
 休憩は「手待ち時間」だったとして残業代を支払うことは認めたものの、その後も「この日は休めていたはず」や「この日は30分は休めていたよね」など主張を続けています。

 ◾️労使協定を結んでない!? 

 また、就業規則について、社長から驚くべき発言がありました。会社は労使協定を結ばずに社員に残業をさせていたことを認めました。それを社長は「怠慢だった」と発言しました。
 この会社は来年で創設50周年にもなる歴史のある会社です。そんな会社が49年も何をしていたのか。「怠慢」で片付けるにはあまりにも長い年月です。社長は「いつかやらないと、と思っていた」と言い訳をし、「今回の件で協定を結ぶことにしました」と言いました。では、今回、私が労働組合に入らなかったらいつ労使協定を結んだのでしょう。甚だ疑問です。

◾️ハラスメントの調査結果は「開示する必要ない。裁判起こしてもらっていいです。」 

 次に、不快な行為を受けたことについてです。私は、上司から「彼氏いるの?」としつこく聞かれたり、「金稼げる人と結婚すればいいから」などの不快な発言をされていました。また、女性上司から腹部や臀部を触る不快な行為が「遊び」と称して行われていました。加えて、まともな指導を受けることができていなかったと考えています。女性上司のイライラをぶつけられるために存在している状態としか思えませんでした。
 不快な行為に対して会社は「調査はしたが、業務上の指導としての相当性を逸脱するものではなく、セクハラ・パワハラに当たる事実はない」と一方的に回答してきました。パワハラ、セクハラの判断をする前に、こちらが出したハラスメントリストに対して、当該行為の行為者がなんと答えたのか、その調査結果を出してほしいと伝えたところ、「その必要性はないと判断したので出さない」と回答してきました。なぜ調査結果をユニオンに開示する必要性がないと判断したのか、その理由を聞いても答えず、挙句には「裁判を起こしてもらっていいです。」と社長は言ってきました。その時の社長の態度は、ハラスメントの被害者に向き合おうとする態度には到底思えませんでした。

◾️「自由」と「無責任」のはき違え 

 社長は会社が行っていること、行っていないことについて追及されると「そういうことをきっちりしない自由な会社だから」と言い訳をしました。そして、事実を認めることを避け、それでも追及されると拗ねるという稚拙な態度をとりました。社長は「自由」という言葉を使いましたが「怠慢」の正当化でした。「無責任」を逃れるための言い訳として聞こえました。
 交渉において最初にする質問は「○○について調べましたか?」でした。なぜ、限られた時間の団体交渉においてそのようなことをしなければならなかったかというと、会社が想像以上に常識に欠けていたからです。そして、社内の人間が法律を知らない、制度を知らないことを正当化し、自身が認識していることを法律だと誤解している様はこちらが恥ずかしくなるほどでした。
 そのため、交渉を行う上で、会社が行っていたことや行わなかったことが「違法である」と認識してもらうことが必要でした。
 それは会社が今までに自ら調べ、行っておくべきことです。あまりにも怠慢な会社の態度を見て、そのためにこのような事態になるまで放っておかれたのだな、と呆れることしかできません。知らないならこれから正していけばいい。それが出来ないのがこの会社が衰退していった原因なんだろうな、と最後には呆れも怒りも通り越して悲しみを覚えていきました。

 今後、会社がどのような対応をとってくるかはわかりません。しかし、会社の制度が違法と独自ルールによってつくられていることを認識し、会社の体制を振り返り、新しい一歩を踏み出してくれることを期待して返答を待ちます。


【相談窓口】ブラック企業ユニオンでは、労働相談を受け付けています。セクハラ・パワハラ、残業代が払われなかった、長時間労働だった、などの相談・情報提供を受け付けています。電話番号:03-6804-7650
(平日17~21時/土日祝13~17時 水曜定休日)
メール:info@bku.jp
【寄付】
ユニオンに寄付をいただける方は、noteのサポートか、下記の振込先をご利用ください。
郵便振替:00150-8-765273 口座名義:総合サポートユニオン
ゆうちょ銀行:〇一九(ゼロイチキユウ)店 当座 口座番号 0765273

総合サポートユニオンの活動を応援してくれる方は、少額でもサポートをしていただけると大変励みになります。いただいたサポートは全額、ブラック企業を是正するための活動をはじめ、「普通に暮らせる社会」を実現するための取り組みに活用させていただきます。