【ニチイ学館】私たちは使い捨ての道具ではない。 ー外国人家事労働者の権利侵害の上に成り立つ、女性の活躍促進って何ですか?ー

総合サポートユニオンには留学生や技能実習生を始め、日本で働く多くの外国人労働者が加入して、劣悪な労働環境の改善を求めて闘っています。
今年の2月には介護業界最大手であるニチイ学館で家事労働者として働くフィリピン人女性2名が組合に加入して、未払い賃金の請求や離職に関する責任を求めて会社と団体交渉を行なっています。

日本政府は2017年から東京や神奈川、大阪など一部の地域を「国家戦略特区」と認定し、外国人労働者による家事代行サービスを解禁しました。このもとで、国の認定を受けた6社(ニチイ学館、ダスキン、パソナ、ポピンズ、ベアーズ、ピナイ・インターナショナル)がアジア(主にフィリピン)の主に女性労働者を「家事支援人材」として最長3年間、雇用するという仕組みです。6社の中でもニチイ学館は1000人以上の家事労働者を雇用する業界最大手でしたが、多くのフィリピン人労働者が雇い止めや退職を余儀なくされ、転職もできずに生活に困窮するに至っています。

ニチイ学館との団体交渉で私たちが求めているのは、未払い賃金の支払うこと、そして外国人労働者の使い捨てをやめることです。

3年働けると言われたのに「契約は1年」

総合サポートユニオンに加入した元ニチイ学館家事労働者のフィリピン人女性2名は2019年3月に来日した後、神奈川県横浜市のサニーメイドサービスの「サニーヘルス横浜店」に配属されました。失業率の高いフィリピンで生活を維持するための職を見つけることは難しいため、生活のために来日を希望していました。

ただ来日直後から、「おかしい」という点がいくつもありました。まず、契約期間です。フィリピンでは「3年契約」と聞かされていたにも関わらず、契約書では1年契約となっていました。また、勤務開始後も始業の9時以前に訪問先の鍵の受け渡しや準備を行なっていましたが、その分の賃金は支払われませんでした(会社のタイムカードによれば、ほぼ毎日8時45分頃から8時50分頃に打刻した記録が残っています)。

問題はありましたが、すでに来日のために15万円以上の費用(フィリピンの月収4,5ヶ月分に相当)を費やしていましたから、すぐに退職することは困難でした。

コロナウイルスによる自宅待機と自己学習

そのような状況にコロナウイルス感染拡大が襲いかかりました。コロナ禍で訪問先は日に日に少なくなり、家事労働者たちは、事務所や自宅で家事の知識の勉強や日本語の学習といった自習を中心的にやるよう命じられました。丸々1ヶ月間、自主学習していた月もありました。自宅学習時は、所定の9時から18時まで(休憩1時間)制服を着た状態で机に向かっての自習が求められており、時折、自習の様子をチェックするために抜き打ちでニチイの担当者が家事労働者の自宅を訪れることもありました。

家事労働をするために日本に来たはずが、業務は自宅学習一色に染まっていきました。日本語の勉強をするために多額の費用や時間を使って来日したわけではないので、この自習時間は労働者にとって大きな精神的負担となっていました。

突如始まった試験による雇い止めで、約200人が雇用喪失

2020年7月、会社は毎月行われる筆記試験において一定点数をとることが契約更新の条件の一つに追加されたと、突如として労働者に告げました。この試験では、日本語や家事労働の知識、接遇マナーなどが審査されるといいます。

家事労働者たちは、フィリピンで契約更新のための試験があるとは知らされていませんでした。日本語ができなければ契約更新されない可能性があり、当初の約束と違いました。法的にも契約更新に能力が必要な場合は事前に労働者に通知する義務があります。

そして、実際に雇い止めは実行され、2021年3月末で契約が満了する489人のうち206人が退職しており、中には会社都合の雇い止めに遭った労働者もいました。会社の説明によれば、少なくとも40人は雇い止めだということでした。

合意書で「退職後の支援の拒否」を確約させたニチイ学館

今回、総合サポートユニオンに加入した2人の組合員は、毎月行われる能力試験によるストレスと、自分も雇い止めに合うのではないかという不安の中で、ニチイ学館を退職して、転職をすることを決めました。二人は退職時に以下のような「確認書」にサインをするよう求められました。

「私は、退職後ニチイ学館からの一切の支援も必要ありません。帰国時の航空券をニチイ学館に用意していただく必要はありません。…自己都合退職を撤回することもありません。…」

なお、ニチイ学館はこの「確認書」は退職時に双方が話し合いの結果合意した内容を反映したものだと主張しています。しかし、なぜ労働者にとって全くメリットがないこのような内容の「確認書」を労働者が自ら受け入れることになったのでしょうか。この点に対して、団体交渉でも会社からは合理的な説明はありませんでした。

転職が制限される外国人家事労働者

組合員の2人は退職したものの転職先を見つけることができませんでした。それは、家事労働に従事する在留資格で滞在している外国人は、転職先も基本的に同じ場所で同じ家事労働を行うことしか認められていないからです(つまり、国家戦略特区に参加する他5社のみ)。

転職に制限がかかっていることを、組合員の二人は、フィリピンにいた際も、ニチイ学館を退職した際も知らされていませんでした。

二人はその後、入管に事情を説明しなんとか滞在し続けるための在留資格を得ることができました。しかし、退職した11月以降働く場所を見つけることができず、言葉もわからないため失業給付の手続きも組合に相談に来た今年2月まで行なっていませんでした。その間は生活に困窮し、いまでは多額の借金だけが残っています。

外国人女性家事労働者の権利を守らずして「女性の活躍促進」といえるのか?

外国人労働者による家事代行サービスは、国家戦略特区の事業の一環として行われています。その主要目的として「女性の活躍促進」が謳われています。しかし、外国人女性労働者の権利が守られていない中で実現する女性の促進とは何を意味するのでしょうか。ここで活躍促進の対象になっているのは社会の中でも一部の「女性」たちに限られているということは、明白です。
 
国家的プロジェクトだと聞いたフィリピン人家事労働者たちは、希望を持って日本を訪れました。しかし、実際に扉を開けて見えてきたのは、彼女らの人生設計など厭わず会社の利益のために切り捨てる会社でした。彼女たちの在留資格は会社に紐づけられており、一度会社を離れてしまえば頼れる相談先は一切なく、労働者としての権利を行使できるような状況は整っていません。組合員の二人は退職後、転職ができず貯めていた貯金は尽きてしまい家族に仕送りをするお金も無くなりました。家賃も払うことができなくなり、借金だけが残りました。

東京新聞の記事によると、2021年3月時点でニチイ学館を退職してから、所在が特定できない状態にいる人は48人いるとされています。彼女たちの多くが路頭に迷った状態だと考えられます。オーバーステイ状態や不法就労に追い込まれる危険性も大いにあります。雇い止めや退職に追いやった会社の責任と制度を司る行政の責任が問われるべき問題です。

転職の自由が制限されている外国人労働者、国家戦略特区の実態

国家戦略特区で働く外国人家事労働者の実態を見ると、技能実習制度ととてもよく似た構造が浮き彫りになります。それは、人手不足とされる産業に低賃金労働力としての外国人労働者があてがわれ、さらにそこには移動や転職に関する制限を付けしばりつけるという構造です。国家戦略特区内で働く家事労働者は、就労できる地域と転職できる会社が制限されています。再就職先が同一都道府県内の5社に限られている中で、転職は困難です。

そのうえ、就労可能な別の在留資格を取得することも制度上難しくなっています。会社は彼女たちの弱い立場を利用して、外国人労働者を抑圧し、意のままに使い倒せるのです。会社と労働者の間には大きな力の格差が存在します。未払い賃金があったり、雇い止めにつながるような試験がいきなり導入されても、それに対する異議を申し立てたてれば途端に辞めさせられる危険があるのです。そのことで日本での滞在が不安定になれば、声をあげることも躊躇せざるを得ません。しかし、それでも勇気ある2人のフィリピン人家事労働者が声を上げて、権利侵害と闘うことを決意したのです。

これまで私たちは、ニチイ学館と4回の団体交渉を行ってきましたが、会社側は未払い賃金は一切ないなどと立場を変えていません。退職後、労働者が被った不利益に対しても会社に責任はないと主張し続けています。

 私たちは、引き続きこの問題に取り組み続けます。更に多くの労働者との連帯を目指して、社会発信をこれから積極的に行なっていきます。労働者が生きやすい社会を目指して、皆さんも一緒に闘っていきましょう。


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