アマゾン倉庫労働記〜入社1ヶ月で団体交渉してみた〜


はじめに

 私はアマゾンの倉庫で働く非正規雇用労働者の賃上げを要求事項に掲げ、労働組合に加入して団体交渉やストライキを行なっている。
 結論を先に述べると、団体交渉をしたといっても所属する派遣会社にであって、アマゾンは拒否、アマゾンの倉庫業務を請け負う日本通運に至っては、組合側が申入書を送ってから2週間以上も無視を続けた末、交渉を拒否しているという状況である。
それでもよいという方は、以下にアマゾンの倉庫で働く私が交渉を行うに至った詳細を述べるので、読んでいただきたい。

自己紹介

 私は現在アマゾン倉庫で棚入れ(アマゾンではStowという)業務を行っている。
    年は20代前半。新卒で就職した企業を辞め、しばらくは何もしなかったが、いい加減貯金が底を尽きてきたので働くことにした。 貯金が尽きるギリギリまで何もしていなかったということもあって、すぐに収入が得られる必要があった。
    そのような状況で、アマゾン倉庫を選んだ理由はいろいろある。
    そのうちのいくつかをあげるとシフトの都合がよい、業務内容が人と関わらず楽そうといったものであるが、一番大きな理由は以下のツイートに触発されたところが大きい。

このツイートを見てから、現代の私や日本の暮らしが成り立っているのはいかなる労働の上であるか、という疑問があった。それゆえ、いくつかの候補を経たのち私はアマゾン倉庫の実態を見てみることにした。

なぜ、団体交渉をするようになったか

 アマゾン倉庫の実態を述べるより先に、なぜ団体交渉をするに至ったかについて触れる。 これは、ユニオンにも聞かれたが、正直わからない。自分はそういうことが多いのである。
      しかし、それだけでは納得も共感もされず、この記事を書く意味がないと思うのでいくつか挙げてみよう。

「普通に働けば報われる」という幻想を持てない

  まず、私の世代というものは、一般的に言われているように労働というものにポジティブな印象を持っている人は少ないと思う。

    80年代のBRUTASが「愛人・出世・休暇」という特集を組んでいたように、一昔前は出世に関心がある人間がいたみたいだが、現在そのような人間は決して多くないだろう。仕事や社会に対して期待してないということの表れである。
    いつだったか、バブル期のコカ・コーラのCMらしいものを見て衝撃を受けた。働くという行為が普通に楽しげなものとして描かれていたからである。

  しかし、非正規雇用が4割を超え、企業に入ったとしても、給与に見合わない長時間労働や理不尽な働かせ方が珍しくない今となっては、自分が敷かれた道で頑張れば、その先に行動に見合った報酬があるという幻想が成り立たない。最近強盗が増えている(と思う)のもそのようなことを反映しているのではないか。 幻想が成り立たないがゆえに、他人の行動に希望的観測を抱いていても仕方がない。
 従来とは違った形で自分で行動をして改善を要求するしか道がない。
    そのような意識が今回のように、労働組合に加入して自らの賃上げを要求するという行動に至ったことと決して無関係ではないだろう。
 世代的な感覚に加え、私の育った環境も関係していると思う。
    私は現代においては中流以下(世帯年収は確か500万円以下、親はブルーカラー)の環境で育った。また、学生の成功体験の根源は家庭環境、人間関係、部活、勉強といったものに集約されるだろうが、私はそのいずれも持ち得ていなかった。こうした経緯から、一般的な価値観、例えば競争で勝つことが善というようなものは到底受け入れられないものとなっていった。

過去の闘争に触れる

  後は、もともと古い話が好きなこともあり、およそ100年前に劣悪な環境で働かされていた醤油工場の労働者や小作農が立ち上がり、争議を行なった例などを見ていたことも影響しているのではないか。

 こういったものを読むと、権利というのはかつてここまでして勝ち取る必要があったということを自覚させられる。

    おそらく以上のような理由によって、団体交渉に至った。

アマゾン倉庫の実態

 経緯をできる限り説明し終えたので、次にアマゾン倉庫の実態について述べる。
・自分の作業(Stow)の解説
  私の事情を書くよりも、この記事の方がわかりやすいと思うのでまずは読んでもらいたい。

 ここに書かれていることは私の体験したことと大体同じである。
  違うことと言えば、まず、私は棚入れ(Stow)業務を行っている。これはただ単に商品を棚に入れていくだけという業務であり、ピッキングと似たような作業と思ってもらって構わない。
  ノルマとしては、1時間に400個(およそ8秒に1個)以上を棚に入れることが求められる。これがどれくらいきついかというと、目の前に幅と奥行きの異なる大きな棚があると想像してほしい。そのスペースにひたすら商品を入れていくのだ。化粧品や文房具のような小さい商品ならば、問題はない。4秒以内に入れることだってできる。しかし、家電製品等の大きく、重い商品になると話は異なる。10秒を超えるのが普通だ。その作業に加え、商品自体を入れているケースの運搬や、商品に問題がある際の処理を行ったうえでの400個である。このノルマを達成するためには、休みなく動き続けなければ到底達成できない。そしてなにより、これだけハードな労働をこなしても派遣労働者である我々の手元には時給1150円しか渡らない。この時給ではフルタイムで労働をこなしても月収18万円程度。そこから社会保険も引かれる。到底生活ができない。

 労働環境として特筆すべき点として、腰痛が非常に多いということである。
 それもそのはず、かなり重たい物を持ち上げたり、降ろしたりすることが非常に多い。ウエイトトレーニングの知識が少しでもある者ならわかる、デッドリフトにおいて絶対にしてはいけない背中を丸めて物を持ち上げる動作をほとんど全員が行っている。これに対しては、注意がされているのを一度も見たことがない。
  我々の生産性は厳しく管理され、安全に関しては正直細かすぎると思うことさえ注意喚起がありながら、なぜか腰痛だけは厳しく言われない。ただ、腰痛が多いので気をつけてくださいと言うことと、昼終わりに行われる2分未満のストレッチくらいで対処しようとしているらしい。

どのような人が働いているか       

・正社員
 私たち末端の派遣社員を管理するのは、アマゾンから倉庫業務を委託されている日本通運の正社員が多いように思う。私はアマゾン倉庫で働き始めてからすぐに、労働の過酷さに気づいた。
  先ほどの記事でも書かれているように、休む暇がないのである。その上、仕事の効率は機械で管理されており、目標に達しなければ上の立場の人間から注意される。仮にノルマを達成したとしても時給の変わらない派遣労働者にとっては生産性を上げても意味がなく、それどころかますます生産性を要求されるだけなので生産性を上げるべきでない。
 一方で、正社員は、倉庫の生産性を向上させることによって評価される。その結果、派遣社員と日本通運側では意識のズレが生じている。ある日、日本通運の人間から次のようなことを言われたことがある。

「この倉庫は日本〇位の生産性です。これはすごいことです。だからこの数字を維持すべく皆さんも頑張りましょう」
「昨日は一度も目標に達しなかったが、今日はどうしてくれるんや」

このような言葉が少数の人間にせよ、発言されるということが私としては違和感があるのだ。

 ・派遣社員 
 派遣社員の特徴としては平均年齢が高い。推定では中高年が過半数を超えていると思う。 ある男性が言っていたことだが「ここを辞めたらいくところがあらへんわ」という発言が印象に残っている。
 以下の会話は私がトイレで聞いた推定50代くらいと若い男性の会話である。

若い男性「○○さん、久しぶりですねー」
50代「おう、子どもがコロナにかかってな。自宅隔離?で休んどったんよ」
若い男性「1週間も休んでたんだったら、仕事に復帰するとき大丈夫でしたか?」
50代「正直、行きたくなかったんやけどな、ここ辞めたら行くとこあらへんわ」

 アマゾン倉庫の労働は過酷であるが、それでもそこでしか働くことができない人というのは「現実に」決して少なくない数がいるのだ。
ブルーカラーの非正規労働者の権利が主張されるのは少ないと思うが、社会的には顧みられることのない人物がどこにいるのか、その一端を初めて知った気がした。

団体交渉の話

 本題まで長くなったが、いよいよ団体交渉の話に入る。
    冒頭にも述べた通り、団体交渉の申し入れは所属する派遣会社、アマゾンから業務委託されている日本通運、アマゾンに対して行った。 アマゾンは自社に所属する人間でないことを理由に拒否、日本通運はしばらく無視を続けた上に拒否という状況であり、ひとまず団体交渉は派遣会社のみと行った。
    結論から言うと、あまりにも不毛な交渉だった。
    相手方はまともに資料を用意しておらず、それは自分の一存では決められない、自分は知らないと言い、国会のような答弁を繰り返すだけであった。
    以下にその不毛な交渉を要約して書いていこうと思う。

    相手側は取締役、弁護士という計2名。
    こちらはユニオンの専従スタッフが1名、今回の当事者である私、そして交渉の支援のために参加した組合員が4名。まずはこちら側から今回の団交に至った経緯の説明。物価が上がり、実質賃金が低下している。現在の時給ではフルタイムで働いても生活ができない。そのため、派遣会社に雇用されている全ての非正規雇用労働者に対し、一律10%の賃上げを行なってほしいという要請を述べた。
    そして、相手側からの返答。

会社側「物価が上がっていることや、労働者の生活が苦しいことは理解している。しかし、アマゾンの事業は我々が行っている事業の中でも利益率が低いもの。派遣労働者の手に渡る額を増やすことは創業以来から努力し続けてきた。現在もコストダウンや取引先との交渉に努めているが、今回の申し入れを受け入れることは叶わない」

ユニオン「利益率が低いと言うが、具体的にアマゾンの事業はどのようになっているか」

 会社側「具体的に把握しているわけではない」

ユニオン「それだけではわからないので、財務諸表を見せてほしい」

会社側「財務諸表を見せることは私(取締役)の一存では決められない」

ユニオン「では具体的にどうやって、我々があなた方の言っていることが本当かどうか確かめればいいのか」

会社側「そういうことは事前に言ってもらえれば何かできたかもしれない」

ユニオン「何かできたかもしれないと言うけれども、あなた方は我々の送った文書に対して返信がなかったではないか。〇日までに文書で回答くださいと書いてありましたよね」

 会社側「我々の認識ではその文書の内容と今回の交渉は同一のものであるので、今話せばよいと考えていた。それは認識の違いというだけの話」

 この認識の違いという話でかなりの時間を使ったのちに、ようやく相手側が非があったことを認め、議論が先に進む。

ユニオン「では話を戻すと、我々は財務諸表が見たいわけではない。あなた方が口では努力してますと言っても我々が具体的にそれを確かめる術がない。取引先との交渉をしていると言ったが、具体的にいつ、どのような話をしたか」

会社側「(弁護士の発言)私はすべてを把握しているわけではないが、それは相手側とも関わる話なのでこちらの一存では決められない。」

 ユニオン「もういいです、あなたは。私は会社のことを聞いているのにどうして弁護士が出てくるんだ。あなた(取締役)が話してくれ」

 補足しておくと、今まで結構な割合で弁護士がなぜか答えてたので、ここでこのような発言が出た。​​
    以下は、相変わらず不毛なやり取りが続き、最終的には相手に取引先との交渉を再び行うこと等を認めさせて終了となった。
    大体このような流れであったように記憶している。

結果として、ストライキを行う

  相手側の対応にあまりにも不誠実さを感じ、ストライキを1週間行うことを決定した。
 ストライキの期間中、労働者は給与を得ることができない。それでも私がストライキをすること選んだ理由はなぜか。
 かつて行われた日本の争議例を示したように、労働者(労働者に限らず)の権利というのは何もしていなくても相手が保証してくれるというものではない。高校のころ、国語の授業で丸山真男の『「である」ことと「する」こと』を読んだ。これは丸山が1958年に行った講演の記録である。そこで確か、「権利の上にねむる者はやがて権利を失う」というようなことを言っていたように思う。今思えば、凡庸で当たり前のことであるのだが、その当たり前のことがなぜか印象に残っていた。
    期間は限定的であるものの、日本では久しくなっているストライキを行うことに意義はあると考える。

おわりに

  何だかグダグダの文章を書いたが、この文章を読んで誰かの所属する環境を変える励ましになればいいと思う。


総合サポートユニオンの活動を応援してくれる方は、少額でもサポートをしていただけると大変励みになります。いただいたサポートは全額、ブラック企業を是正するための活動をはじめ、「普通に暮らせる社会」を実現するための取り組みに活用させていただきます。