就労支援事業をつうじた政策提言(総合サポートユニオン)

 私たちは、2022年5月から2023年2月まで、コロナ禍で就労に困難を抱える若者・女性に対して就労支援を行ってきた。この事業をつうじて、転職や就労継続を希望する若者や女性が直面する様々な社会的課題が浮かび上がってきた。昨今の日本において少子化が大きく問題になっていることも踏まえると、若者や女性をとりまく労働・生活環境の改善は急を要する課題である。就労が安定し、安定した生活や家族形成・子育てができるような社会を構築するためには、それぞれの課題を解決しうる社会政策が必要である。現場で支援に取り組んだ視点をもとに、必要と考えられる政策について下記の通り提言する。

[※企業向けにも提言を公表しています]

■総論 労働問題の解決による就労支援の必要性


〇国や民間団体における従来の就労支援の特徴

 これまでも日本においては若者の失業率の高さが問題となり、国や民間団体が数多くの支援プログラムを実施してきた。それらの支援プログラムは、企業の求める人材と働きたい若者の意識や能力が「ミスマッチ」している問題の解消や、そもそも働く意欲を持てない層(いわゆる「ニート」や「ひきこもり」など)への支援が中心であった。
 例えば、国が用意している若者向けの就労支援事業は、①新卒応援ハローワークやわかものハローワークを通じた情報提供や面接指導、職業訓練を通じた能力開発、②地域若者サポートステーションを通じた「働くことに悩みを抱えた若者」のケアを含む就労サポートである。また、民間企業やNPOなどの団体も様々な支援を行っているが、国の事業と同様に、若者や企業の採用者に対する啓発活動や情報提供・面接指導などの、就職までの伴走支援などが中心となっている。

以上のような支援の在り方は、主に労働者や企業の担当者の意識や能力に着目し、それらの改善を通じて「ミスマッチ」をなくすことを目指したものであり、さらに就労意欲が低いなどの就労が難しい層をもなんとか就労につなぐことが目的となっていると考えられる。 

〇労働問題を就労疎外要因として捉えた、労働組合による就労支援の新規性

 しかし、若者の就労を困難にしている要因は「ミスマッチ」や能力不足などだけではない。私たちの支援事例からは、就労現場における残業代未払いやパワーハラスメントの横行といった労働問題が、就労継続を阻害し、若者の就労意欲や再就職の際の意識に大きく影響していることが見えてくる。このような実態を踏まえると、再就職希望者に対し意識改革や能力開発に対する支援をいくら行っても、再び労働問題の被害にあい離職せざるを得ないケースは後を絶たないだろう。
 そこで、私たちは自らが労働組合であることのメリットを生かした支援を行ってきた。労働組合という形式であることによって、会社に対して職場環境の課題をめぐる交渉をスムーズに実施することが法的に保護されている。この利点を活用し、就労中の労働者に対する労働条件の改善を通した就労継続支援、転職希望の労働者には会社による退職妨害に対処し、退職月の賃金を適切に払わせるなどの円滑な転職のための支援を行ってきた。これらの支援の特徴は、その過程で労働問題を解決しているということである。その結果、就労先の労働環境が改善し就労継続につながる、転職をするための環境が整い就職促進につながるなどの成果をあげてきた。
 以上のような成果を上げることのできた理由の一つに、私たちが従来型の企業別組合ではなく、個人加盟制の企業外部の労働組合であることがあげられる。構成員が所属する企業じたいに基盤を持ち、企業の利害と一体になってしまいやすい企業別労働組合とは違い、どんな職場の労働者でも、失業者であっても加盟することができる上に、企業から独立して、労働者の利害のために会社と交渉することができる。
 また、昨今は流動的な労働市場が広がっている。高処遇な正社員雇用は減少し、正社員雇用ではあるが低処遇な「ブラック企業」の正社員や非正規雇用労働者が増加し、不本意や解雇・退職や、よりよい待遇を求める転職などの事情で、生涯において複数の企業を渡り歩くことが一般的になっている。雇用の流動化の進む時代において、個人加盟制の社外労働組合は利用に適した形態であるといえる。
 以上のことから、個人加盟制の労働組合による労働問題の解決を通じた転職支援は、現在の労働市場の在り方にもマッチし、失業や就職難に陥る労働者の背景にある労働問題の解決も行うことができ、就労支援として効果的な取り組みとして機能する可能性があるのである。 

〇求められる政策

 個人加盟制の労働組合による転職支援の可能性について述べてきたが、その活動がより有効に機能するためには、社会政策による支えが必要不可欠である。労働問題の解決には、当事者に対する支援団体の直接的なサポートのみならず、様々な法制度による環境が重要だからだ。
 総論としては、労働基準監督署による企業の取り締まり強化や、労働法や労働組合などを通じた問題解決の方法を周知・啓発する労働者の権利教育の拡充、労働組合が活動しやすい環境の整備などが必要であろう。
 具体的な事象についていえば、退職代行や発達障害といった新しい社会的課題に対する政策的対応のほか、労働問題で精神疾患などに陥る労働者の増加にも対応できるような社会保障制度の拡充なども必要となるだろう。
 下記に、具体的なテーマごとに、求められる政策を提言する。

 ■若者の転職における「新型ミスマッチ」

 昨今では若者の多くが、企業が掲げる「SDGsの実現」などの「やりがい」にひかれて就職する。しかし、実際の職場では掲げている理念からは大きく逸脱した行為が行われ、また劣悪な労働環境に直面することで、若者が離職せざるを得ない状況に追い込まれているケースが増加している。
 支援事例の中で具体的な例では、人の役に立ちたいと考えて介護の人材派遣会社に入社し、派遣スタッフを管理する社員になったケースである。このケースの職場では、派遣の介護労働者を「モノ」扱いしており、かつ虚偽の労働条件で人を募集していた。苦情がきてもアフターフォローもしなかった。また、長時間労働やノルマで過酷な労働環境もあり、「人の役に立ちたい」という思いと現実の労働環境で葛藤し、退職を考え、当団体への相談にいたった。
 このような事例はいくつもみられ、類型化すると下記のような問題に直面し、「ミスマッチ」が生じている。

・求人詐欺(求人内容と実際の業務が異なる)
・賃金未払いなどの労働基準法違反
・パワーハラスメント(無理なノルマ、無理な残業など)
・労働条件が低すぎて生活が成り立たない(低賃金など)
・反社会的な労働内容(違法行為に加担させられるなど)
・ジョブスキルが身につかずキャリア形成ができない
・社会の役に立っていると感じられない、つまらない仕事 

 上記のような問題のある職場へ、従来型の意識改革や能力開発による就職・転職支援、就労継続支援を行っても、「ミスマッチ」の要因は解決せず、結果的に離職せざるを得ないケースが増えるだろう。特に目立つのは、劣悪な労働環境や違法行為を原因とした離職である。こうした問題を解決できなければ、就職率は上昇しない。上記の問題の解決につなげていくために、下記のような政策が必要である。

・ 労働基準監督署の強化
 
労働基準法違反・労働安全衛生法違反の改善をするため、労働基準監督署の人員を強化し、企業への調査・指導を強化すべきである。

・ 労働法教育の強化
 上記の「ミスマッチ」の要因を改善するためには、職場の中で労働者としての権利を行使し、職場環境を改善することが効果的だ。そのためには、労働法教育の強化が重要である。中学、高校、ハローワークなどにおいて労働法の教育を行うべきである。
 また、労働問題の解決には、労働組合の利用は効果的である。行政の相談窓口などで相談者に対し、労働組合の利用のメリットを周知するようにすべきである。

職業訓練の強化
 労働市場が流動化している現状と先の「ミスマッチ」の要因を踏まえると、就職に必要な職業的技能やキャリアアップのためのスキルは、企業の外で身につけなければいけない環境となっていると言える。よって、企業中心の職業能力開発ではなく、公的な職業訓練を拡大すべきである。公的職業訓練の対象となる職種や資格を増やし、メニューを増やすこと、失業者が職業訓練を受けやすくするために求職者給付の金額を増額することなどが必要である。

・介護や保育などのケアワーカーの処遇改善
 多くの若者が、仕事による社会貢献を求めてケアワーカーの職業に就職している。しかし、仕事内容にやりがいを感じる一方、現場で直面する低賃金や過酷労働などの劣悪な労働環境とのギャップに苦しみ、早期離職する傾向にある。このような状況は若者の離職問題にとどまらず、日本社会全体のケアの悪化にもつながってしまう。その現状を変えるために、特に介護や保育にたずさわる労働者の賃金の増額につながる処遇改善の実施、過酷労働の改善につながる人員配置基準の拡大などの施策を取るべきである。

社会的企業やNPOなどの支援の強化
 いまや多くの若者が、「SDGs」の実現や社会貢献につながることを仕事にしたいと考えている。しかし、多くの企業ではこれまでの職場の労働文化や価値観を変えられず、企業に求められる新たな環境に対応できていない。そのような状況を変えていくためには、新しい価値観や行動力をもった若者たちが自分たち自身で社会的企業を起業したり、NPOなどの非営利団体を立ち上げたりする動きを応援していくことが効果的である。新しい価値観の実現と適切な労働環境の両立を目指す企業や団体を応援し、社会に新しい雇用の受け入れ先を増やすことで、若者の就職率の改善にもつながると考えられる。具体的には、スタートアップやステップアップを目指す社会的企業やNPOに対する公的な助成金の拡大や立ち上げ当初の税金の免除などをすべきである。

 ■「退職代行」の問題


 流動的な労働市場が拡大し、早期離職が増加している現状に対応した新しいビジネスとして、「退職代行ビジネス」が流行している。一般的な「退職代行ビジネス」が行う事業は、労働者が辞める意思を企業側に伝えることを事業者が代行するだけである。これでは、何が離職の要因だったのかが不明なまま、労働者がただ辞めていくという事態が多発することになる。このビジネスの広がりは、離職を考えた労働者が労働組合のサポートを受けて適切な労使関係の構築につながる契機や、企業にとっての労働環境の改善の契機を奪い、労働環境全体の停滞・悪化に貢献してしまっている。
 また、「退職代行ビジネス」による消費者トラブルも頻発している。支援を行った具体例では、労働者がパワハラや未払い賃金があった会社を退職するために、「労働組合」を標榜する退職代行業者を利用した。この業者はホームページで、自社のサービスを利用すれば退職時に「会社に行く必要はない」とうたっており、退職先と直接話したくない労働者にとって魅力的だった。しかし、本人と会いたいという退職先からの連絡を受けて、業者は労働者に対して本社に行くことを勧めた。また退職代行業者は、労働者が申請していた1か月分の有給休暇の2週間分を欠勤扱いにするという会社の言い分をそのまま被支援者に伝達した。この退職代行業者は「労働組合」であったが、交渉らしき交渉は一切せず、結果として会社側の言いなりであった。結果としてこの労働者は、退職代行業者に頼んだために、全く不必要だった退職代行の料金約2万5000円と、有給休暇2週間分の賃金を失う結果になってしまった。
 他の事例では、退職代行業者を利用したにもかかわらず、そもそも辞めることができなかった。「弁護士監修」「労働組合との連携」を売り文句にした業者と契約したが、業者は会社とやり取りを始めると、「トラブルになるから2か月後にしか辞められない」と連絡してくるなど、辞めるための対応をしてくれなかった。しかし、私たち総合サポートユニオンが支援したところ、すぐに辞めることができた。 このような悪質な「退職代行ビジネス」の流行に手を打たなければ、離職率はむしろ増加し、さらには企業側の違法行為もまかり通り、労働環境が全体として停滞し、悪化することにつながってしまう。そこで「退職代行ビジネス」に関して下記の点を提言する。

・「退職代行ビジネス」による消費者トラブルの調査と相談窓口の設置
 上記の通り、消費者トラブルが多発している。これを国としても放置してしまえば、就職率の向上にはつながらない。国として相談窓口を設置し、かつ消費者トラブルの発生について全国調査をすべきである。また、消費者トラブルが発生した場合、クーリングオフ制度の対象とするなども必要である。 

・「退職代行ビジネス」の規制の検討
 「退職代行ビジネス」については、様々な弁護士から「非弁行為」になる可能性があるという指摘がある。弁護士以外の者が、報酬を得る目的で労働者本人に代わって法律に関わる問題を「交渉」することは、弁護士法第72条に違反する「非弁行為」にあたるからである。この非弁行為の法的リスクを回避するために、退職代行業者のほとんどが、弁護士との「提携」や「監修」をうたい会社との交渉が必要な場合は弁護士に依頼するという体裁を整える、労働者が組合員になった場合に団体交渉が可能になることから名ばかりの「労働組合」を装うという状態になっている。しかし実際には利用者の意思に反したトラブルが頻発しており、労働組合ならば形式的には行えるはずの「交渉」などろくに行っていない。実際に弁護士などが介在していない可能性もある。名義を貸して法律実務を行わせた場合は、非弁提携(弁護士法27条違反)になる。また、弁護士が依頼人の意思を確認せずに不利益になる行為をした場合、弁護士職務基本規程違反であり、委任契約違反でもある。この場合は弁護士会の懲戒の対象になるし、損害賠償請求の対象にもなる。
 先に紹介した事例では、こうした規定に違反する可能性は否定できない。形式を整えたからといって、このビジネスを野放しにしておくことは、社会的に有害である可能性が高い。有識者でこの問題について議論し、適切な規制を行うべきである。

■発達障害者の就労継続

 今回の就労支援の支援対象者には、発達障害者も存在した。発達障害と診断された労働者が、「能力」や「態度」に問題があるとみなされてしまい、労働条件の不利益変更を強いられたり、ハラスメントの標的になったりという被害は多い。
 支援したケースでは、就職後に発達障害が判明した際、労働条件の不利益変更をされていた。同じ業務を行う「健常者」と比べた際、発達障害をもつ本人だけ給料額が下がっていたのであった。
 当初は「指導」だったはずが、特性が「改善」されないため上司や同僚の怒りを買ってしまい、ハラスメントにエスカレートしてしまうこともある。また発達障害ではない労働者に対する場合と同様の「指導」を繰り返したり、同様の過剰な業務で追い込んだりすることじたいが、発達障害者にとっては精神的苦痛であり、実質的なハラスメントになってしまうこともある。
 これらの結果、就労継続を阻害し、また一方で企業における発達障害の採用意欲をそぐことにつながっている。
 このような職場における発達障害者へのハラスメントに対しては、2016年4月に施行された改正障害者雇用促進法で企業に義務化された「合理的配慮」が有効である。使用者は発達障害者を含む障害者を雇用している場合、合理的配慮の提供をしなければならない。ただし、「事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない」ともされており、労働現場では適切な配慮がなされないという可能性もある。また、一般の枠で採用されている発達障害者については、この仕組みが労働条件の不利益変更に用いられるリスクがあるうえ、もともと希望していたキャリアが閉ざされてしまう可能性もあり、不利益に転嫁される可能性もある。
 これらの問題を改善し、発達障害の労働者も就職しやすく、また就労継続しやすい労働環境を実現する必要がある。具体的には下記の政策が必要と考える。 

・発達障害による不利益取り扱いの具体的調査
 報道でも、発達障害という診断を理由としたハラスメント被害や訴訟が散見される。私たちの相談窓口にもいくつもそのような被害は寄せられている。コロナ禍を経て、雇用自体が縮小している環境においては、発達障害などの「ハンデ」を背負った労働者への被害は増加している可能性がある。発達障害による不利益取り扱いの実態や、「合理的配慮」の実態について、国として調査し、その実態に応じて新しい政策を考える研究会等を立ち上げるべきである。 

・労働時間規制やハラスメント規制の強化
 「合理的配慮」が機能しない可能性があるのは、職場全体の労働環境事態が過酷な状況になっており、障害者に対する「合理的配慮」を行うことが職場の負担の増加につながってしまうことが要因の一つである。そもそも、残業における配慮や、丁寧な指導、本人に配慮した業務の与え方などは本来、発達障害者に限らず、あらゆる労働者に認められるべき内容である。つまり、発達障害の人が働きやすい職場とは、誰にとっても働きやすい職場である。
 このように、障害者に対する配慮だけを強化するのではなく、労働時間規制の強化やハラスメント対策の強化などを通じて、職場全体の労働環境が改善しどのような労働者でも働きやすい環境を作る必要がある。時間外労働の上限規制を引き下げる、労働基準監督署による監督を強化する、パワハラ防止法の強化、労働組合の活用支援などが必要である。 

■社会保障制度の改革 安心して失業できる仕組みへ

 相談者の中には、過去に過酷労働やパワーハラスメントによる心身の破壊が原因となり、しばらく就労することが不可能になってしまっているケースも多かった。そのような人たちが再度就労につながるためには、失業中の生活が安定し、心身が破壊されてしまった人が治療や療養を受けられる余裕が十分にあることが重要である。
 しかし、現在の日本の失業者には、安心して失業できる環境はない。失業手当の額が少ない、「自己都合退職」扱いになってしまっており給付制限がかかる、生活保護を利用する要件が厳しく使えない、などの状況がある。その結果、失業者が無理に就労を目指してしまい、さらに心身を壊してしまったり、自分に適した仕事で就職することができず「ミスマッチ」を起こしてしまうなどの問題が起き、結果として早期に再度失業してしまうことも多い。最終的には、心身の破壊により就労自立が不可能となり、継続的に生活保護を受給せざるを得ないという結果にいたる可能性もある。
 失業者が就労自立につながるためにも、失業中の生活が安定しない社会保障制度を改善することは急務である。具体的には下記の政策が必要である。

・失業保険制度の改善
 日本における失業時の生活保障の仕組みである雇用保険制度では、自己都合退職と扱われてしまえば、失業手当の受給が2か月後になるという制限がかかってしまい、すぐに受給することができない。多くの失業者は、形式上は自己都合による退職となることが多い。退職の背景には職場の労働問題があったとしても、その問題に対抗する知識や術がなく、また自分を守るためにすぐに辞めてしまうケースが多いためである。実質的に会社都合退職と同様の扱いを行う特定理由離職者等の仕組みもあるが、その要件に該当することを証明するための証拠も十分に用意できないことも多い。結果として、失業後に失業手当が受給できず、生きるためにどんな劣悪な就労環境でもすぐに働かなくてはならない状況に置かれてしまう。以上のことから、自己都合退職による受給制限はなくすべきである。
 また、失業手当の額も少ない。1か月の収入では前職の6割から7割程度の金額しか得ることができないため、もともと低賃金で就労していた失業者は、失業手当での生活が不可能である。
 さらに、受給できる期間も短い。早期離職が多くなっている昨今では、半年以上1年未満の区分や1年以上5年未満の区分で失業手当を受給する労働者が多いと考えられ、受給期間は3か月から6か月の間が一般的となってしまう。受給期間は、雇用保険加入期間が長く最大の期間を受給できた労働者であっても、1年に満たない。
 このような状況では、低水準の金額および受給期間の短さゆえに、安心して職探しをするというより、早期に収入が得られることのみを理由に劣悪な環境で就職し、再度失業する結果につながりやすくなってしまう。受給金額の増額(従前の給料の8割から9割にするなど)や受給期間の拡大(年齢・加入期間を問わず最低6か月の給付期間にする、最大の給付期間を1年とするなど)が必要である。

・生活保護制度の改革
 失業などによって生活の糧を自ら用意できなくなった際に使える仕組みが、生活保護である。この生活保護は「最後のセーフティネット」といわれているが、その仕組み自体に大きな課題があり、利用が難しくなっている。
 生活保護は実質的に、「何もかも失った困窮層」が「万策尽きて」利用する「最後のセーフティーネット」になってしまっている。生活保護を利用しようとすれば、「部分的な貧困」ではなく、利用者は「すべてに困窮している」必要があるということである。そのため、相談者が失業や収入減少などで「部分的」に生活困窮してしまったとしても、その時点では生活保護基準以上の収入や資産があったり、処分価値のある住宅や土地、車などの資産があるならば、生活保護は使えない。
 また、生活保護を申請すると、収入や資産を厳格に審査される。その過程で、家庭訪問と称して家の中を詮索されたり、通帳の中身を開示させられ取引の内容を説明させられたり、家族に経済援助できないか確認するための文書が送られる。このようにプライバシーを丸裸にされるため、生活保護受給には恥の感情(スティグマ)を伴う。そのため、保護申請自体を忌避する人が少なくない。
 このような制度設計・制度運用をしている限り、雇用保険の受給対象から外れた失業者なども生活保護制度を利用できず、生活を安定させながら失業することができない。再就職先をしっかり選ぶなどもできず、とにかくすぐに収入が得るための仕事に飛びつかざるを得ない環境を作り出している。このような制度の脆弱さが、失業者が「ブラック企業」などの劣悪な労働環境を強いる企業に吸い寄せられてしまう要因となり、「ブラック企業」の温存にもつながっている。失業者は、「ブラック企業」への就職を繰り返すことで、心身ともに壊されてしまい、転職する意欲や、仕事への情熱、果ては就労する意欲すらも失っていく。有用な人材が使いつぶされ、最終的には働けなくなり、生活保護へ行きつくが、それ以降の就労自立への道が閉ざされてしまうことにもつながる。
 そのような事態を避けるためには、生活保護制度をより使いやすくする必要がある。具体的には、スティグマを伴う扶養照会や不当な生活指導の廃止、車の保持を認めるなどの資産要件の緩和が必要である。
 また、そもそも生活保護制度に頼らなくても、失業や収入減少などに伴って発生する「部分的な貧困」、家賃が払えない、ライフライン料金が払えない、医療費が払えないなどの問題に対応する仕組みが必要である。特に住居は重要である。ホームレス化してしまうと就労は著しく困難となり、不安定就労を繰り返す結果となっていく。すでに、失業などのために住宅を失う可能性がある世帯に対して住居確保給付金という仕組みがあるが、この制度はとても使いづらいものになっていた。まず直近にとりうる政策として、住居確保給付金の利用要件の緩和や支給期間の延長などを行うことが必要である。
 そして、その制度を発展させ、恒久的かつ普遍的な住宅手当制度に発展させるべきだろう。多くの人が住居を失う恐れがない仕組みが生活保護制度と別にできることで、「すべてを失う」前に生活を再建できる環境が作り出せるだろう。このように、生活に必要なベーシックサービスに対して、低価格・無償にしていく制度設計を行えば、労働者の失業と貧困が切り離されることになり、劣悪な労働環境の職場に飛びつかなくてもよくなり、悪質な企業は労働市場から淘汰され、全体の労働環境の改善・就労自立の増加に結び付くと考えられる。

以上

総合サポートユニオンの活動を応援してくれる方は、少額でもサポートをしていただけると大変励みになります。いただいたサポートは全額、ブラック企業を是正するための活動をはじめ、「普通に暮らせる社会」を実現するための取り組みに活用させていただきます。