フリーランスを「使い捨て」にするベンチャー企業の実態。 ウェブ制作X社が駆使するやり方とは。(エピソード1)

 ウェブ制作X社にて、プロジェクトマネージャー兼ウェブディレクターとして業務委託契約のもと常駐勤務をしていたフリーランスのAさんと、Web制作全般を担当していた元社員であるBさんがブラック企業ユニオンへと加盟しました。

 そして2019年5月20日に団体交渉を申し入れ、現在交渉中です。
 主な要求は、以下の通りです。

①Aさんの契約期間内(4月中1ヶ月分)の未払い報酬の請求
②Aさんに対する恫喝行為、パワハラの事実を認めた上での謝罪および慰謝料の請求
③Bさんに対するパワハラの事実を認めた上での謝罪および慰謝料の請求
④Bさんの残業代についての十分な説明と以下の資料の開示請求。なお、未払残業代の存在が確認された場合にはその全額の請求
(1)Bさんの月毎の労働時間
(2)Bさんの月毎の残業代支払実績
(3)Bさんの労働条件通知書(雇用契約書)
(4)就業規則、賃金規定
⑤過去にウェブ制作X社か運営するウェブサービスの開発等に関わったフリーランスとの契約方法や報酬の支払い、発生する業務量に対する報酬の妥当性等に関して、相手方の知識や経験、相場観の欠如につけ込んだ不適切な依頼がなかったかについての検証と今後の改善要求

 以下、Aさんに今回の事件の経緯を説明するための文章を執筆いただきました。

 4月末、私はブラック企業ユニオンへの加入申し込みをするため、共同代表である青木さんおよびBさんとの待ち合わせ場所である上野駅へと向かっていました。

 その途中、電車の長椅子に腰をかけながらスマートフォンを眺めていたらふと見つけたこの記事を読み、思わず笑ってしまったことを覚えています。

君たちはどう逃げるか / megamauthの葬列

 この記事は昨今のウェブサイト制作業界の大きなトレンドの一つであるフリーランスの活用可能性とその問題点について描いたもので、その的確な指摘は大きな話題になり、エンジニア界隈で広く読まれる記事となりました。この記事の中に、こんな表現が出てきます。 

この業界でゾンビとして生き続けているフリーランスたちは、それを慎重により分けている。生存者同士のか細いネットワークに流れる噂をキャッチし、危ないエンドと論外のエンドを嗅ぎ分けて、スレスレの制作をやっている。
それでも、どうしようもない案件にぶち当たることもある。もしくは、そこそこ美味しい案件の前に立ちはだかる厄介な壁として出会うこともある。

 結論から言うと、私はここに出てくる「論外のエンドクライアント」に当たってしまったように思えます。

 フリーランスへと不当に安い金額での仕事を発注し、自分たちは顧客企業に対して他よりも「洗練された」商品として制作の提案をする。
 こういった企業の経営者達は「頭を使ってライバル企業を出し抜いてやるぜ!」といったような気分でいるようですが、知識・経験を備えたフリーランスは、金額に応じた時間の使い方をしますし、制作物の品質を担保することは並大抵の難しさではありません。

 そんな中で、大量の「相場も知らないWebエンジニア志望者の群れ」が新規参入し、まともな契約書も作成しないまま仕事に着手。
 経営者サイドからみれば、要件通りの制作物を納品されれば顧客にそのまま引き渡して差額分を丸儲け、開発が行き詰まった時には何ヶ月間作業に従事したとしてもそのフリーランスには一円も支払わずに使い捨て。

 こんな企業にとっての夢物語、フリーランスにとっての悪夢が、私が働いていたウェブ制作X社では起きていたように思えます。

 私が最初にこの会社の求人を知ったのは、「ランサーズ」というウェブサービス内の求人募集のセクションでした。
 フリーランスと企業を結ぶマッチングサービスを謳うランサーズではありますが、ここでは週1日からの常駐勤務を中心とした業務委託案件が多数掲載されています。

 ランサーズで仕事を募集するクライアントは厄介な場合が多いという話はよく聞きますが、エージェント経由のお仕事に比べて規模の小さい会社のオーナー様の相談に直接乗ることができる場合が多いので、定期的にチェックし面白そうな案件には時折応募をしていました。

 そこでたまたま見つけて、応募をしたのがこのウェブ制作X社の「【週3】LP〜企業サイトまでのWEBデザインを担当するデザイナー募集!!」という募集でした。

 応募後すぐに面談となり、事務所で社長と二人のスタッフの方にお話を聞かせていただきました。

内容としては、以下の通りでした。

・3人の社員に指示を出しながらウェブ案件をどんどんこなせるチームを作ってほしい。
・自社で運用しているウェブサービスのプロモーションについても指揮を執ってほしい。
・自社で販売代理店を務めている商品のマーケティングをしてほしい。

 最初に見た求人募集の内容に比べるとかなり幅広い仕事を求められるなと思いながらも、その場ではプロジェクトマネージャー兼ウェブディレクターとしてお役に立つことができると思いますとお伝えし、その日の面談は終わりました。

 その後しばらく連絡が無かったのですが、2週間後くらいにウェブ制作X社からメッセージが届きました。
内容は以下の業務について、力を貸して頂けるかの確認とのことでした。

・WEB案件のディレクション。案件ごとではなくWEBチームの一員として従事。
・既存のクライアントのWEB案件を弊社スタッフに伝えてコントロール。
・自社ホームページの改訂(リニューアル)を導き、弊社スタッフに指示。
・商品T(弊社が販売代理店)をPR及び販売するにあたっての広告・分析。
・ウェブサービスAのメディア広告の計画及び制作。
・ウェブサービスBをより良くするための計画及び制作。
・その他、新規WEB案件発生時のディレクションなど。

 週3日にしてはやることが多いなと思いながらも、プロジェクトマネージャーやウェブディレクターとしての勤務のイメージはできていたのでその旨をお伝えし、平日10~19時(休憩1時間)の勤務であること、月単位の報酬制で1か月ごとに更新の有無を確認すること、交通費を報酬とは別途支給して頂くことなどを確認しました。

 私からは経営者に対し、「全てをフルペースで同時進行となると当然ながら時間が全く足りないので、それぞれ段階を踏んで少しづつ適切に進めさせて頂きます。」と伝え、フリーランスとして身を守るために予防線を張ったうえで、4月1日からの勤務に臨みました。

 しかし、法律無視の経営者には、そんなものはそもそも通用しない事をこの2週間後に私は身をもって知ることになりました。

総合サポートユニオンの活動を応援してくれる方は、少額でもサポートをしていただけると大変励みになります。いただいたサポートは全額、ブラック企業を是正するための活動をはじめ、「普通に暮らせる社会」を実現するための取り組みに活用させていただきます。