ワン【短編小説】

「わん!」
うちの飼い犬ワンは散歩がなによりも気に入っている。
これでも昔はワンがこんなに元気に散歩できるようになるなんて考えられなかったらしい。
「よし、準備できた。行こうか」
うちの散歩の道には小さな丘がある公園がある。公園はワンにとって最も動きやすい場所なのだろう。
「行ってこーい」
僕はワンのリードを放すとワンは一目散に丘へ向かって走って行った。
 丘の麓のベンチに座ってワンを眺めていると、ベンチの隣に飼い犬を連れた小林さんが座っていた。
「今日もワンさんは丘で走っているんですか。
「そうだ、ワンさんについて少し教えてください」
「いいですよ」
僕はそう言うとワンを飼うことになったきっかけや、ワンと一緒に行った夏の花火大会のことなどを話した。
「ワンさんはあなたに拾われて幸せだと思いますよ」
「そう言われるとなんか嬉しいですね。僕はワンを幸せにできているか不安でしたから。」
「いつだって見かけた時ワンさんは幸せそうにしているではないですか」
「そうですかね」
「そうですよ!」
「私は羨ましいです。だって私では一匹の犬でも幸せにできませんでしたから。」
小林さんはそう言うと少し間を空けて
「ワンさんとの話を聞けて良かったです」
と言って小林さんは立ち上がり公園から出て行った。
少し息をついて僕は立ち上がると、ワンを追いかけはじめた。丘の頂上までくるとワンは太陽の方を向いて立っていた。
「ワン行くぞ」
 ワンを連れて僕たちは散歩道に戻った。
長く話をしていたからだろう時間が経って、沈みかける夕日で夕飯の買い出しを思い出した。
「ワンそこ左曲がるぞ。」
僕とワンは商店街の方に進んで行った。
 夕方。1番活気のある商店街には多くの人がごった返している。
僕は適当に買い物を済ませ、最後にワン用のドッグフードを買いに店に入った。
今日は奮発するか。と思い僕はいつものプラスアルファで最近いいと話題のものを買ってワンのところに帰った。
自分の中でワンに対してこのままでワンは幸せなのだろうかと考えはじめてしまった。
帰り道、しずみかけている夕日に照らされながら僕は、「ワンこれでお前は幸せか?」
ワンからはなにも返ってこない。
そこからはワンのしあわせについてずっと考えてしまった。
気がついたら家の前にいる。ワンが心配そうにこちらに向かって鳴いている。
「あ、ごめんね。」
僕はそう言うと鍵を開ける。
「早速ワンにさっき買ってきたやつあげよう。」
僕はワンを呼び、あげる。
「うまいか」
するとワンは幸せそうな顔をした。
その瞬間僕は気がついた。ずっと考えてきた、ワンがどうしたら幸せに生きれるのか、そもそも幸せとはなんなのか、その答えが分かった気がする。いやでもこれもただの自己満かもしれないけど……。
もうワンは幸せに生活できてる。
昔からひどい扱いをうけていつもくうんって弱々しい声で鳴いていたのに今では元気に鳴いているんだもん。
ワンはなにかいいたげにこちらを見ている。
「ワン!」

金沢 かずえ(中学2年)

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