【好き】NUMBER GIRL③

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8曲目のタイトルは、そのベストアルバムのタイトルと同じだった。

「OMOIDE IN MY HEAD」

何故だか「思い出」部分だけローマ字表記。人生の中であまり見かけたことのないタイトルのセンスだった。6、7曲目に続いてライブバージョンとして収録されている8曲目。観客たちの声や拍手からその時の熱気がしっかりとパッケージされていることがうかがえる。そんな中、ボーカルが言葉を発した。

「ドラムス、アヒトイナザワ」

直後、ドラムがズタズタドタドタバチバチボコボコ。ギターがコードをジャーーーン。音が飛び交う。再びジャーーーン。音が乱れ打つ。三たびジャーーン。音が犇めき合う。さらにジャーーーン。音が蠢き鳴り響く。おまけにジャーーーン。一瞬の間。明らかにリズムのギアが切り替わる。バラバラに思えたギター、ベース、ドラムそれぞれのサウンドが、ある同じ意思を少しずつ共有しながら一つの向かうべき方向に歩みを進める。メタリックで切れ味鋭いギターが、何かの10秒前のカウントダウンよろしく、感情の高揚感と始まりの期待感を煽るようなフレーズをかき鳴らし(所詮CDの再生ではあるが、ギターを弾いている人の気合の入ったストロークが見えた。)、まさにカウンドダウン0で意思の統一とカタルシスの爆発とともに、大きく力強く一つに重なり合ったロックバンドサウンドが疾走を始める。

曲全体のグルーヴのイニシアチブを握るリズムギターの切れ味鋭いリフ。曲全体に色を与え、風景を描き、場面を切り替えるリードギターのフレーズ。曲全体を支え、前へ前へと押し進める極太ベースライン。曲全体に檄を飛ばし、時には他のパート以上に己の存在を主張する手数の多いドカスカドラム。そして、感情剥き出しの大声で絶叫するボーカル。こんなにもそれぞれの音の個性がぶつかり合ったロックバンドサウンドは聴いたことがなかった。

また、自分の中で意外だったのが、こんなにも鋭角的で攻撃的で感情的なサウンドであるにもかかわらず、どこか妙に聴き心地はポップという感覚。(このロックバンドに影響を与えたPixiesやHüsker DüやSonic Youthの存在を知ったのはもう少し先のお話。)それまで自分の感覚の中で組み合わせたことがなかった要素が一つのバンドサウンドにまとまって表現されていることに驚いた。

歌詞カードを眺めながら聴き進めていくと、途中でとても印象的な歌詞が飛び込んできた。

”ポケットに手を突っこんでセンチメンタル通りを練り歩く17歳の俺がいた”

「なんでわざわざ”ポケットに手を突っこんで”なんて歌詞を入れたんだろう?」「"センチメンタル通り"ってなんだろう…造語?」「なんでただ歩いているのではなく"練り”歩いてるんだろう?」「なんで”17歳”の自分なんだろう?」と様々なクエスチョンが浮かんだ。しかし、初見のワンフレーズにこれだけたくさん引っ掛かったということは、つまりこの歌詞の不思議な力に一発で魅了されたということに他ならなかった。(その時、私がちょうど17歳だったということも何か意味があるかもしれない。ちなみに、この歌詞が好きすぎて自分なりに英訳したものを携帯電話のメールアドレスの@の前に設定したという思春期エピソードがその後間もなく生まれることになる。)

そして、その歌詞を手がけた人物が向井秀徳という男であり、その男がまさにブックレットの写真の中で一番ヤバいと感じたあのメガネの男であり、さらにその男がまさに感情剥き出し絶叫ボーカリストであり、全曲の作詞作曲をするフロントマンであるという、怒涛の認識の連鎖が起こり、脳内がカオスな状態へと突入していった。(くるりの岸田繁は、はじめてイベントで一緒になった時、バンド名に「GIRL」とついていたため、田渕ひさ子がギタボだと思い込み、向井秀徳(「メガネをかけたおじさん」と表現)をNHKの社員だと思っていたというエピソードをWOWOWの特番で語っていた。)

「OMOIDE IN MY HEAD」

その風貌とは裏腹なメガネ男による「OMOIDE IN MY HEAD」の絶叫連呼とともに、それぞれの個性をぶつけ合いながら火花を撒き散らして加速していく演奏。そして、現実とマボロシとの曖昧な境界の中を揺れ動く己を突き動かしていく言葉たち。再生開始から約5分。メガネ男の絶叫とバンドアンサンブルの熱量が最高潮に達し、曲はピークを迎える・・・。


つづく

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