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企業法務に係る法律手続専門職を目指して (2)

日本における制度状況との関係

(1)行政書士界における問題

前回の記事で具体例として示したとおり、企業法務に係る法律事務手続専門職になるためには、現在の日本の法制度上は、司法書士と行政書士の資格が両方とも必要です。そして、それらを組み合わせ、それぞれの専門分野を活かして対応することが必須だと考えています。

この点に関連しますが、行政書士界で、会社設立の場面において、行政書士が登記手続を取り扱えないことに関して、業務範囲の拡大を望む声をときおり目にします。私はこの意見には懐疑的です。

上述のとおり、会社法人に係る法律事務手続を取り扱うためには、司法書士と行政書士の資格は両方必要なのです。つまり、行政書士の資格だけでは登記ができないので、会社法人の手続を全てカバーできないという制約は自ずと発生します。なぜか、設立手続にフォーカスして議論がされることが多いですが、会社法人に係る手続全てについて生じる問題であり、設立手続に限らないと思います。

私は、本当に依頼者が求めているのは何かという視点で考えると、会社法人に係る法的手続を、行政書士の資格のみで完結させたいという発想自体に無理があるのではと思っています。司法書士と行政書士を合体させ、より企業法務の実務に特化したような資格が、会社法人の皆様にとって必要なのですが、現状の日本にはその資格がないのです。

(2)パラリーガル

日本の大手法律事務所や準大手法律事務所では、パラリーガルと呼ばれる弁護士補助職が、専門職として手続的な業務を主体的に担っていることが多いです。

ただし、パラリーガルは国家資格者ではないため、顧客に対して、自ら、直接、単独で、法的アドバイスは行えません。弁護士の指示監督下で業務を行う必要があります。

また、例えば名刺の肩書を「パラリーガル」と記載しているなど、弁護士秘書や事務所職員とその職責が明確に分化された、いわゆる狭義のパラリーガルの活用が進んでいるのは、大手又は準大手の法律事務所に限られていると思われます。つまり中小規模の法律事務所では活用が進んでいないのが現状です。

なお、中小規模の法律事務所においてパラリーガルの活用が進んでいないのは、

  • 大手法律事務所と比較して、中小規模の法律事務所では、登記手続や官公署への書類提出の頻度が日常的に発生しない、

  • 日本にパラリーガル制度がまだ一般的に浸透していない、

  • 資金力の問題(パラリーガルを常時雇用しておくことにコスト・パフォーマンスを見いだせない)

といった理由が考えられます。

※パラリーガルに関する詳細は拙著(下記)にまとめておりますので、ご興味があればご覧ください。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0BY1XCYVY?ref_=pe_3052080_276849420

中小規模の法律事務所では法律事務手続専門職の供給が不足している

上に述べた背景事情、また色々な弁護士の先生方とお話をする中で、特に中小規模の法律事務所において、企業法務を取り扱える法律事務手続専門職としての司法書士・行政書士のニーズがある一方、供給が不足している可能性があることがわかってきました。

具体的には、企業法務に係る法律手続専門職の育成が司法書士・行政書士界で進んでおらず、また依頼者(法律事務所も含む)の側がそれを見つける方法がないということです。これは司法書士・行政書士の業界としての課題だと思われます。

法律事務所においてこのようなニーズがあるということは、エンドユーザーたる法律事務所の依頼者、すなわち中小企業の皆様も、法律手続専門職の提供する法的サービスが受けられていない、という現状があることを意味しているように感じられます。

次回は、上記を踏まえたうえで、当事務所が、上記の課題の解決のため、また社会にどのように貢献していきたいかを述べることとします。


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