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昭和30年代の「職業・家庭科」

かつて(昭和31年から),都立高校の入試科目は9教科(主要5科目と,音楽,美術,保健体育,職業家庭),900点満点の時代がありました.
現在の学力テストは,主要5科目のほかにスピーキングテストがあるようですね(これはこれでとても大変です).
かつての「職業・家庭」の試験問題は,必須問題もありましたが複数分野の内容から出題された問題を見て,自分のできるものをその場で選んで回答するものもありました.事前申請ではないので,問題を見て気に入れば,履修していない(例えば,女子用分野の)ものでも選択することができました.

現在,普通中学校で,「職業・家庭」の教科名はありません.昭和37年以降「技術・家庭」となりました.しかし,昭和36年までは「職業・家庭」という教科名で実施されました(資料2).昭和30年代中期には,中学を卒業して就職する生徒もかなりいた時代です.「職業・家庭」を義務教育で履修するのは必要なこと だったと思います.私が中学で履修したのは昭和30年代中期の「職業・家庭」で,多分,以下で引用する昭和31年に改訂された学習指導要領(資料1)に則った「職業・家庭」の最後のものだったと思います.
私立の入試では主要5科目であるところが多く,音楽,美術,保健体育,職業家庭は受験科目の亜流意識があり,緊張に欠ける生徒もおり先生は大変だったろうと思います.私は,職業家庭という教科が好きでした.
工作は大好き,製図も大好きです.女の子のようですが,私は母の裁縫を身近に見ていましたからミシンも裁縫も編み物も実技はともかく,試験問題に出る事や物の名称はよく知っていました.商業簿記の授業では複式簿記を習いましたが,これも私は好きでした.現在,思わぬ所でそのころ習った複式簿記が役に立っています.職業家庭はそれぞれ専門の先生が教えました.これらの教科の狙いは,生活に必要なことを身に着けることにありますが,同様な心構えは,主要5科目でも知識としてだけではなく,自分の生活の場に適用してみることが本当の力であると気づきます.例えば,数学でも,純粋数学とは対極になりますが,応用の場にいて数学を作り出せることも重要なことです.中学生の頃の職業家庭は,受験に特化して主要5科目だけ勉強する効率主義よりも良かったように思います.

技術は時代とともに変わります.昔,私の近所の職業訓練校の学園祭を見学に行ったとき,活気があったのは和文タイプ科でした(40年も前のことです.求人があったのでしょう).しかし,パソコンの普及とともに消えてしまいました.身の回りの技術の変化は恐ろしいほどです.
現状(令和の時代)の「技術・家庭」教育は,私は知りませんが,少しだけ言及します.「技術・家庭」のカリキュラムには,技術分野と家庭分野があり,技術分野の主力は,情報,コンピュータ,プログラミング,IoTなど,家庭分野は,衣・食・住と環境のようです.デジタル教材のデータを用いるなど,現在の「技術・家庭」の方法はだいぶ変わったようです.
私は,知識だけでなく,それを具体的な形で応用の場に活かせる(あるいは,必要な理論を作り出せる)能力も大事にしたいと思います.

■[資料1]
職業・家庭の内容
 (昭和31年5月の学習指導要領より抜粋した)
●1群: 栽培、飼育
●2群: 工業、木工、金属加工、機械製図、電気回路、整備修理
●3群: 商業、小切手、簿記、現金出納帳
●4群: 水産業
●5群: 食物、調理、栄養、被服、住居、育児婦人衛生
●6群: 職業選択、各種学校
(感想)このような分野は,時代や地域により変化します.例えば,現在の「技術・家庭」では,情報,コンピュータなどという項目を落とすわけには行きません.

中学校 学習指導要領 職業・家庭科編
昭和31年5月25日印刷 昭和31年5月28日発行 著作権所有 文部省  https://erid.nier.go.jp/files/COFS/s32jo/chap3.htm

■[資料2]        
昭和22年新制中学校の発足時には教科名「職業」,26年改訂で「職業・家庭」となり,内容の改訂をしながら昭和36年まで。33年改訂(37年実施)で教科名を「技術・家庭科」と改め,内容については,37年から55年まで,男子向き(技術)と女子向き(家庭)で構成。52年改訂(56年~平成4年実施)では,履修内容について男女の相互乗り入れを実施。平成元年改訂(平成5年~13年実施)では,履修領域に男女による差異を設けないこととなった。平成10年改訂(平成14年実施)では,技術分野と家庭分野の構成としている。

■[資料3]
1. 中学校における職業・家庭科は実生活に役だつ仕事を中心として,家庭生活・職業生活に対する理解を深め,実生活の充実発展を目ざして学習するものである。
2. 職業・家庭科の仕事は啓発的経験の意義をもつとともに,実生活に役だつ知識・技能を養うものである。
3. 職業・家庭科の教育内容は,地域社会の必要と学校や生徒の事情によって特色をもつものである。

■[資料4]
新たに義務教育となった中学校の教育目標には「社会に必要な職業についての基礎的な知識と技能、勤労を重んずる態度及び個性に応じて将来の進路を選択する能力を養うこと。」が明記されている。そこで中学校に新たに「職業科」が設けられ、農業・商業・水産・工業・家庭がおのおの一科目としてその中に置かれ、生徒はそのうち一科目または数科目を学習することになっていた。授業時数は、週当たり、必修教科としての職業科は四時間、選択教科としての職業科は一~四時間であった。その後昭和二十四年十二月局長通達で、職業科は「職業・家庭科」に改められ、その内容は、農・工・商等のわくをはずし、実生活に役だつ仕事を中心として構成されることとなったのである。授業時数は、必修・選択とも、週当たり三~四時間であった。しかし、新しく発足したこの教科の施設・設備は乏しかった。


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