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雨の帰りみちからの手紙


あの人は、元気だろうか。
疎遠になってしまった人がずいぶんといる。
親友だよね、と言われて、そうなの?と返して傷つけてしまったあの子も、わたしだけ先に受験が終わって帰りみちに誘ってもらえなかったあの子たちも。
毎日のようにくだらないメールや電話をしていたあの子も、深夜にはじめて一緒に流星郡を見たあの子も。
連絡先もわからなくなってしまって、今どうしているかもわからない。
わたしは今25歳で、きっとこれからもそうなる人が増えていく。

制服を着ている間は、だれかがいないとだめだった。
休み時間に一人でいると、今日は機嫌が悪いのかと聞かれる。
教室移動は友達が必ず待っていた。
ぐちゃぐちゃなロッカーを片付けてくれる子がいて、テスト前は勉強を教えてくれる子がいた。
お昼に机をくっつけて、チャイムが鳴ると急いで戻して。
グループが大きくなればなるほど、わたしは生徒会室に逃げるばかりだった。
それでも、いつもひとりぼっちな気がしていた。

昔から、好意を持たれるとすべてを追求されることが窮屈だった。
何かを食べた話をすると誰と?と聞かれるのが気持ちが悪かった。
そのせいで、大人になってからも好意を持ってくれた人に悲しい思いをさせてしまったこともあった。

今はあの時よりまわりに人がいない。
寂しく感じることもあるけど、前より苦しくない。
好きでいることも、苦手でいることもずっと自由になった。
人との距離はだいたいこんな感じ、がつかめている。
連絡をちょっと返さなくてもSNSを見張られることもない。たぶん。
だれかの好意を向けてもらうことにもそんなに興味はないし、あんなに苦手だった親のことも、一緒に買い物に行くくらいにはなった。
親はいつだってわたしに優しかったのかもしれないと気づけたし、わたしはわたしなりにまわりのことを大切にできているはずだし。
わたしの好きとあの人の好きはいっしょじゃなくていい。
わたしが一番に報告する相手も、わたしに3番だっていい。
かたちはそれぞれなんだから。たまに集まって笑えればいい。

卒業制作も就活もやりたくないと思ってたけどなんとかなった。
親知らずなんて生えてこなければいいのにと願っていたのもあと1本になった。
時間は当たり前にすぎて、良くも悪くも必ず終わりが来る。
それがわかって本当に楽になった。

社会人になってわかったこと。
歳を取ることがわりと嫌いじゃないんだと思う。
知らなかったことを知って、理解できなかったことがわかるようになる。
髪質も肌質もかわって、それに上手に付き合っていく方法を探すのも好き。
服はどんどん無地が増えて、ジーンズとTシャツが似合うようにもなった。
忘れてしまったことはきっとたくさんある。
それさえ忘れてしまったけど、許せることが増えたのはうれしい。
小学校は大嫌いだったけど、中高も大学も楽しかった。
苦手な音楽も数学も選択しなければ受けなくていいし、好きなことを専門に勉強することもできた。

老いを懸念することは、未来の自分に失礼だ。
何年か上手に歳を重ねられなくても、きっとまた大丈夫になる。
大切な恋人と離れることになったり、親ががいなくなってしまったとき、これを読んだら、なんて流暢なことを言っていたんだと辛くなるかもしれない。
でも、いまのわたしは大丈夫だと信じている。
会いたい人の住所を知っていたら手紙を書くよ。
SNSで繋がっているなら元気?と文字を打つよ。
大切な人には会いたいと伝えるよ。
昔は上手にできなかったことが今ならできる。
言わなくてもわかってほしかった自分を抱きしめてあげられる。
溺れるようにもがいたがむしゃらなわたしを忘れることはない。

もっと大人だと思っていた、と思う歳を幾度となく越えていく。
いまだに27はお姉さんだと思うし、30歳はまだ先だ。
結婚も子どもも夢のまた夢、自分一人の人生でさえまだ決めかねている。
同級生はちらほら結婚しているけど、まだ思い描きたい自分の理想の姿を追いかけていたい。
もっと自分を好きになれる。
なんとなく27歳で結婚、とか言っていた小さいわたしへ。
きっとできそうにありません。ごめん。
でも、わたしはその当たり前のしあわせ以外にしあわせを見いだせている。
詩を書けるし、旅にも出れる。
もののけ姫もスクリーンで見れるよ。
安心して。楽しいよ。
だから、何回でも胃が痛くなろうが気持ち悪くなろうが、大丈夫だよ。



傘をさしてただ足を前に進めることしかない時は、わたしはわたしに手紙を書く。
頭の中で書いたら忘れちゃうから、たまにはこうして書いてみるよ。
だからまた、同じことの繰り返しでもいいから、また届けてね。





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