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【SGDトーク】「持続可能な都市のみどりを進化させるプロジェクト」 〜東京パークガーデンアワードの挑戦(ゲスト:吉谷桂子氏, 江口政喜氏)

満開でも枯れていても美しいお庭は、どのように実現できるでしょうか?植栽に対して既存の価値観を覆すようなコンテストの挑戦をご紹介します。

今回のSGDトークは東京パークガーデンアワードの企画と運営の中心メンバーである、ガーデンデザイナーの吉谷桂子氏と種苗生産者の江口政喜氏をゲストとしてお招きしました。「持続可能な都市のみどりを進化させるプロジェクト 〜東京パークガーデンアワードの挑戦」と題して、2023年2月17日(金)に開催されたSGDトークの模様をお届けします。

SOCIAL GREEN DESIGNや、SGDトークについて知りたい方は以下のURLからご覧ください。

当日の大まかなスケジュールは以下の流れで行われました。

17:00-17:15:イントロ(15min.) - ソーシャルグリーンデザインとは?
17:15-18:05:ゲスト紹介とレクチャー(50min.)
18:05-18:50:ディスカッション(45min.) - 参加者の方から質問を受け付け、ゲストと共にディスカッションしていきます。
18:50-19:20:Q&A(30min.) 
19:20-19:30:クロージング(10min.) - 今日のまとめ

東京パークガーデンアワードとは?(江口政喜さん)

それではまず、江口さん(株式会社えぐちナーセリー)のトークから、振り返っていきましょう。

江口さん:園芸専門の輸入会社に24年勤め、令和2年に起業しました。現在は千葉県で多年草や低木を約80種類ほど、1.2ヘクタールの農場で生産・卸をしています。今回、東京パークガーデンアワードでは、生産者の立場で技術アドバイザーとして関わっています。

東京パークガーデンアワードとは?

東京パークガーデンアワードは、「公益財団法人  東京都公園協会」が主催し、「都立公園を新たな花の魅力で彩る」という目的で行われています。

このコンテスト最大の特徴は、宿根草等を活用した「持続可能なロングライフ・ローメンテナンス」がテーマであることです。デザインはもとより、植物や土壌の高度な知識が求められ、今までのものとは一線を画すガーデンコンテストです。

東京パークガーデンアワードホームページより
ホームページトップ画像より

なぜ今ガーデンコンテストが必要なのか?

江口さんによれば「何度も公園に足を運びたくなるような、きっかけづくりの演出ができたら」とのこと。世界をひきつける魅力溢れた都市の実現に向けて、優秀なガーデンデザインの作品を四季の移ろいに応じさせることで、季節ごとにデザインが変化し、新しい発見が生まれ、次の発見を心待ちにするという循環が生まれることを期待しているそうです。

東京パークガーデンアワードの特徴は?

またアワードの特徴として、このようなことが挙げられます。
・東京で開催、東京のブランド力を使った情報発信を生かす。
・市民の参加を広く促す一般公募の「デザイン部門」、書類選考で選ばれたデザインを実際に公園内で制作する「制作部門」の2部構成。
・花壇制作費として300万円を上限として実費を入賞者5名全員に支給。
・使い捨てではなく、持続可能で既存の景観にマッチしたデザインを評価していく。メンテナンスしやすい、省力化を図れるデザインや取り組みを評価する。

持続可能な都市のみどり、何を進めている?

それでは次に吉谷さん(園芸研究家・ガーデンデザイナー)のトークを振り返っていきましょう。

吉谷さん:20年以上ガーデンデザインの仕事をしてきました。華やかな装飾性の高いガーデンを作ることが多かったのですが、今は多年生で永続性のあるガーデンを提案することも多いです。Arts &CULTIVATIONがライフテーマで、芸術性の高い栽培について考えています。

「東京に住んでいるときに、どういう暮らしが良いのかわからなくなってしまった」という吉谷さん。1990年代にイギリスに移住したことをきっかけに、ガーデニングブームが来ることを直感し、同時にみどりのある暮らしの魅力に気づきました。7年イギリスに住んでいる間、なんと300件以上の庭を見てきました。

日本に戻ってからは、芸術性が高くメンテナンスのできる庭づくりを行うことに邁進し、「美学としてのガーデニング」を念頭に置き、お仕事をされているそうです。

今回の発表では欧米のガーデンに対する考え方や活動を、たくさんの事例とともにご紹介いただきました。

昆虫の小屋があるお庭(イギリス)
6万人以上のボランティアがガーデンを支えていく(イギリス)
宿根草のローメンテナンスのガーデンを作る活動(ベルギー アントワープ)

ヨーロッパの「NATURARISTIC GARDEN」の考え方もご紹介いただきました。

・基本は適地適作
・周年〜10年以上の間植えっぱなしの宿根草(※)
・それぞれの季節に花が咲く
・丈夫で耐久性があり、支柱無しでも倒れにくい
・花後のシードベッドやグラスの穂が魅力的
・雑草のように侵略的でないか

一度植えたら何年も生きる植物のグループを「宿根草」と呼ぶ。

このような考え方が、今回ご紹介している東京パークガーデンアワードの考え方につながっていったそうです。

東京パークガーデンアワードのロゴタイプはこちら。若い人に関心を持ってほしいと思って、吉谷さんがデザインを考えたそうです。

応募開始から2ヶ月で本当にレベルの高い作品が揃ったそうです。「ガーデンコンテストなので構造物から考えるのではなく、植栽についてよく考えている方が最後に残りやすかったです。植栽の美がわかっている方々ですね。」というお話もありました。

モデルガーデンのデザインは、中心には形が保ちやすい美しい植物を配置して、ナチュラルでオーガニックなんだけど、オーダー(秩序)がある整列した美しさも意識されたようです。

吉谷さん:朝焼けや夕日は美しいが芸術ではありません。でも「植栽は芸術作品のように、人々の心を動かし人々の心を楽しませなければならないことを忘れないで」というナイジェル・ダネットさんの言葉があります。サステナブルや多様性に夢中になると忘れがちな言葉ですが、最後は自然を楽しむというところに行き着くのだと思います。自然を味わえる場所を増やしていけたらと考えています。

お話を受けて、ディスカッション

江口さんと吉谷さんのお話の後、モデレーターの小松正幸さん(株式会社 ユニマットリック)、三島由樹さん(株式会社 フォルク)、石川由佳子さん(一般社団法人 for Cities)を交えた様々なディスカッションが行われたので、その一部をご紹介します。

三島さん:「東京パークガーデンアワードのようなアワードってあるべきだよな、なんでなかったんだろう」と思いました。印象的だったのが、1990年代の社会の代わり目で、吉谷さんのようなガーデンデザイナーに光が当たって、それが世界にも広がっていったということだと思います。お伺いしたかったのは「なぜ今、NATURARISTICなのか?」ということです。

吉谷さん:イギリスではオーガニック野菜が売っている風景を見てきたし、プラスティックのジョウロを早い時期に廃止した会社もありました。DNA的に(自然由来のものが)大事だって気付かされることが多かったのです。そして古いものを大事にする文化もあります。綺麗で満開な花は素晴らしいけれど、枯れているものも美しいと思えることも大事だと思いました。

江口さん:園芸の世界に身を置いてきましたが、NATURARISTIC GARDENの考え方を知り、ガラッと価値観が変わりました。知った時は貪るように本を読んでいましたね。

江口さん:東京なり大阪なり、その地域ごとの適地適作があるはずなんです。「この植物は関東圏だけ」というので良いはずでして、その地域ごとに植栽を考え作っていくのがNATURARISTIC GARDENですよね。

吉谷さん:「(自分が住む場所と違う地域で)この植物が美しいから自分の庭にも植えたい」と考えることもあるでしょう。ただそういう経験をたくさんしてきた上で、今は美しいだけでなく雑草が生えないなど(メンテナンスをする上で環境と照らし合わせて)有益であるということをようやく考える時代になったのかなと。

小松さん:エクステリアや造園の世界は、まだまだ地位が低くて予算がつかないという発想があります。NATURARISTIC GARDENはまだ住宅に入り込めてない印象もありますが、どうすればこのような庭が増えていくのでしょうか?

吉谷さん:この植物は倒れない、侵略的ではない、環境適応するなど、育てながら考えないとわからない部分があります。そのような知見が広がり、それを住宅の庭にももっと取り入れていけると良いと思います。

江口さん:流通という点では、一年中使えるような植物が春にしか手に入らないとか、秋にしか手に入らないということがあります。東京パークガーデンアワードを続けることで、(四季を通じて植物を楽しめるように)世の中が変わっていくと良いと考えています。

参加型ディスカッションとQ&A

今回も、視聴者の皆様から本当にたくさんの質問をいただきました。質疑応答の一部をここでご紹介させていただきます!

吉谷さん:基本的には可能だと思います。例えばヒメリュウノヒゲが生えていて雑草が生えないだけでも、NATURARISTIC GARDENと言えるのかもしれません。自分の家が日当たりが良くないなら、シュウメイギクなど日当たりが良くない所でも生きられる植物を植えていくということが必要です。根っこが生えやすいのか否か、サイズ感はどうかなど、さまざまな観点があります。

小松さん:プロフェッショナルなショーガーデンのような派手な庭を作るという考え方ではなくて、もともとあった日本庭園のような何気ない庭が実はNATURARISTICですよね。個人でも可能なお庭の作り方ですね。

石川さん:植物を育てることに正解はないし、自分の家の環境に合っていることが大事だと思います。そう考えると、まずは自分の庭の環境を読み解くことから始まりそうですね!

吉谷さん:宿根草の庭は特に、園芸の知識があるだけでなくセンスが必要です。植物の剪定で、どれを切ったら良いのかわからないという声をよく聞きます。スキルを上げていくためには、維持管理費用の予算計上が大事ですよね。

三島さん:コストを今までの維持管理から減らすため、順応型管理をするというやり方もあります。業者は必要なことを必要なタイミングでやれば良いという管理方法です。このようにして、植物が生き生きと育つメンテナンスのやり方を考えていくのもありですね。

吉谷さん:ローメンテナンスという言葉はノーメンテナンスではなく、メンテナンスフレンドリーです。メンテナンスが大変なものではなく、楽しいものであるということも大事ですね。

吉谷さん:モチベーションが大事だと思います。参加する楽しさがないといけません。暑いときは辛くなってしまいますし、梅雨前にある程度作業を済ませていくなど、ストレスがかからない作業を考えていかないといけませんね。小さなところに咲く植物に嬉しさを感じるなど、そういう喜びも必要です。

三島さん:私が関わっている下北園藝部の取り組みでは、植物に関わる際にモチベーションの多様性ということも考えています。鑑賞する、食べる、工作するなど植物は関わり代がさまざまですよね。在来種や外来種など議論がありますが、結論を持たずその都度の議論の中で最適解を探っていきます。そこに学び合う機会もできますね。「小学3年生が植物のことを学びたい」と言ってきてくれたこともありました!「藝術」の藝の字が作られた背景を紐解くと、草に熱を伝えると書きます。植物のスキルの再獲得ができた結果、美しい風景ができるのかもしれません。

たくさんの質問をいただき、とても有意義なディスカッションの時間となりました。植栽に対する考え方も時代を経て変わりつつあり、これからの時代にNATURARISTIC GARDENはどのような可能性があるのか。その拡散や必要な予算、モチベーションなど多様な観点からの質問が寄せられました。

【SGDトーク】今回のまとめ

・第1回東京パークガーデンアワードを開催し、今までにない画期的なコンテストとなった。
・今までは華やかな装飾性の高いガーデンを作ることが多かったが、これからは多年生で永続性のあるガーデンを作ることも求められている。
・この考え方はヨーロッパの「NATURARISTIC GARDEN」の考え方に基づき、古いものを大事に使ったりオーガニックな食材を食べることとも似ている。
・NATURARISTICであるにはモチベーションの作り方や、流通の見直し、個人の庭に対する価値観の捉え直しなどが必要になる。

【SGDトーク】 プロフィール

ゲストスピーカー

吉谷桂子 (園芸研究家・ガーデンデザイナー)

1956年東京生まれ。1979年日本大学芸術学部デザイン科卒。(株)GKインダストリアル研究所勤務。後にフリーランスのプロダクトデザイナー(主な作品に無印良品、資生堂化粧品パッケージ、細野晴臣、大貫妙子ほかCDジャケットデザインなど)、広告美術デザイン(西武百貨店ディスプレィ、二期会オペラ舞台美術、TVCFでは`90JAL沖縄、ナショナル画王ほか)を経て1992年渡英。7年間の英国暮らしを生かしたガーデンライフの楽しみを提案。英国を中心にヨーロッパ300カ所以上の庭を訪ね、NHK BS2「チェルシーフラワーショウ」、「 イングリッシュガーデン四季物語」などガーデニング番組の企画とキャスター。帰国後は、百貨店、集合住宅、第1回より国際バラとガーデニングショウの企画ガーデンデザイン、NHKおしゃれ工房「ガーデニングレッスン」「あさイチ/グリーンスタイル」講師他。主な公共ガーデンのデザイン=六本木ミッドタウンボタニカ/2007、箱根サン=テグジュペリ星の王子さまミュージアム/2009、福島野の花ガーデン/2013、浜松市はままつフラワーパーク/2014〜、群馬県中之条町中之条ガーデンズ/2015〜。2018年全国都市緑化フェア安曇野サテライト、静岡県天浜線花のリレープロジェクトほか。2022年TOKYO PARK GARDEN AWARD代々木公園開始他に高知県立牧野植物園、丸の内ガーデンショウなど、イベントガーデンデザイン制作。北海銀河庭園のスーパーバイザー/2015〜。
著書「英国ガーデン日記」東京書籍/「英国的貧乏暮らしの楽しみ」集英社/「花に囲まれて暮らす家」集英社/「吉谷桂子のコンテナガーデニング」「庭の色」「花の育て方楽しみ方」主婦の友社他、女性誌機関紙連載多数、2013-18年/渋谷区神宮前に花を愛する女性のアウトフィットとテキスタイルのデザインブランド「Shade YOSHIYA KEIKO」主催、2015〜Dinos gardening 吉谷ブランドプロダクトデザイン。

江口政喜(株式会社えぐちナーセリー 代表)

1969年生まれ。新潟県中魚沼郡出身、稲作農家の次男。
電気メーカーにて大型コンピュータソフトの設計8年、
園芸・農業専門の輸入商社24年勤務。
2020年3月退職、家族を残し単身で東庄町へ移住、創業4年目。
趣味は子育て。現在も毎日LINEで次男の英語の勉強を教えています。
妻と息子たちが最大の理解者であり、大応援団です。
https://eguchi-nursery.jp/

モデレーター

小松 正幸(こまつ・まさゆき)
株式会社ユニマットリック 代表取締役社長
一般社団法人ソーシャルグリーンデザイン協会 代表理事
NPO法人ガーデンを考える会理事、NPO法人渋谷・青山景観整備機構理事。
「豊かな生活空間の創出」のために、エクステリア・ガーデンにおける課題解決を目指している。
https://www.rikcorp.jp/

三島 由樹(みしま・よしき)
株式会社フォルク 代表取締役
一般社団法人ソーシャルグリーンデザイン協会 理事
一般社団法人シモキタ園藝部共同代表理事
ランドスケープデザイナー ハーバード大学大学院デザインスクール、マイケル・ヴァン・ヴァルケンバーグ・アソシエーツ(MVVA)ニューヨークオフィス、東京大学大学院都市工学専攻助教の職を経て、2015年株式会社フォルクを設立。 ランドスケープデザイナーとして全国の様々な地域における文化と環境の資源をベースにした場やコモンズのリサーチ・デザイン・運営を行う。季刊「庭NIWA」にて「庭と園藝-社会とコモンズのデザイン論-」を連載中。
https://www.f-o-l-k.jp/

石川由佳子(いしかわ・ゆかこ)
一般社団法人 for Cities 共同代表理事
アーバン・エクスペリエンス・デザイナー
「自分たちの手で、都市を使いこなす」ことをモットーに、様々な人生背景を持った人たちと共に、市民参加型の都市介入活動を行う。(株)ベネッセコーポレーション、(株)ロフトワークを経て独立、一般社団法人for Citiesを立ち上げ。「都市体験の編集」をテーマに、場のデザインプロジェクトを、渋谷、池袋、アムステルダムなど複数都市で手がける。学びの場づくりをテーマに、アーバニストのための学びの場「Urbanist School」、子供たちを対象にした都市探求のワークショップ「City Exploration」を実施。最近では、渋谷区のササハタハツプロジェクトにて街路樹のオンラインデータマップ化を目指す「Dear Tree Project」を立ち上げ、都市のみどりづくりにも携わる。
https://linktr.ee/YukakoIshikawa

(執筆:稲村 行真)

アーカイブ動画について

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