とあるコンテストに応募し、佳作となるまで
はじめに
私は1人で「超知能がある未来社会シナリオ」に応募し、ありがたいことに「佳作」を受賞しました。授賞式は5月31日、人工知能学会の中で行われました。
今回のコンテストでは優秀賞該当なし。佳作8作品、入選4作品でした。
チームで応募され受賞された作品もある中で、AIに「ド」が付くほど素人だった私が一人でどうやってコンテストに挑み、作品を作ったのかという制作秘話(?)です。小説などで創作されている方のご参考になれば幸いです。
「超知能がある未来社会シナリオコンテスト」とは
本コンテストは超知能がある2040年代の未来社会を柔軟に深く理解する材料となるシナリオコンテストです。具体的な趣旨説明は公式をご参照ください。
一般社団法人 人工知能学会
超知能がある未来社会シナリオコンテスト
https://www.ai-gakkai.or.jp/future-contest2024/
シナリオの概要と選評
シナリオの概要
規制に向かっていたAI開発はSDGsを目標値に限定し緩和される。動物語翻訳AI、植物成長管理AIが出現、ビックデータが集積する。ある研究者がAIは産みの親の意識に縛られると発表、議論を呼び、自然界の変数をアルゴリズムに入れて人類に公平だとする<Glove AI>を産み出す。
選評
自分なりに授賞式の選考理由をまとめると、以下の3点で評価して頂いたようです。
1、AIを人間のためではなく動植物の理解促進に利用するという視点
2、SDGsの目標とAIについて絡めてシナリオを作成したこと
3、超知能による社会変容を描いた点
なおシナリオは近々公表される予定です。また公表されたらリンクをこちらにも貼ろうと思います。
気になる方のために簡潔にシナリオの趣旨を言えば、「自然中心主義的なAIの誕生を描き、そのAIが受け入れられる社会的背景やそのAIが与える影響をSF的視点で描いた」作品になります。
応募にあたり自分なりに工夫したところ
応募要項を徹底的に読む
応募要項では「重要性、独創性、蓋然性」の三つが重視されていました。具体的には公式サイトに以下のように記載されています。
重要性:そのシナリオが人類に与える影響の大きさや、それによって私たちが追求すべき理想的な世界像に示唆を与えるもの。
独創性:これまでのシナリオ(SF作品など)では考えられなかったような全く新しいシナリオ、もしくは、存在していたとして、それに新たな意味づけを行ったシナリオ。
蓋然性:その未来が実現可能であるか、現実の世界や既知の科学と矛盾していないか(オカルトでない)。シナリオ全体として一貫性があるか。
https://www.ai-gakkai.or.jp/future-contest2024
そこで作品作りの目標を3つ定めました。
1.社会問題を組み入れる
私は自分テーマをSDGsにしました。2030年目標達成を目指しているSDGsが年表のターニングポイントになると考えたからです。また現実とシナリオの整合性や現実感を表現するのにも良いと思いました。そこでSDGs現状の目標達成率と具体的内容をおさらいしました。
2.他の人が着目しない視点を入れる
SF作品ではAIによる管理者会やAIの反乱は長年のテーマです。できれば今までSFで語られないテーマにしたいと思いました。しかし私はAIの素人。
そこでAIの基礎知識や話題になっていることを調べました。
3.最新のAI研究の知見を入れる
コンテストで最も重視される点を考えることは、コンテスト応募において大切な視点だと思います。
今回は「オカルトではない」と「シナリオ全体として一貫性があるか」を重要点として仮定し資料を読むことにしました。
参考資料を読む
応募要項の参考資料が今回のコンテストで大変参考になりました。
参考資料に目を通したのは、主催者がどのようなシナリオを想定しているか知る手掛かりでもあります。なので参考資料は取り寄せて全て読み、英語のサイトは翻訳AIを相棒に一通り目を通しました。
その中で特に参考になった、というより面白かった本はこちらです。
カイフー・リー, チェンチウファン 著,中原尚哉訳,AI 2041 : 人工知能が変える20年後の未来, 文藝春秋, 2022.12. 978-4-16-391642-2.
最初は図書館で借りましたが、あまりにも面白くて購入したほど。Amazon概要ではノンフィクションのように紹介されていますが、SF作家、陳楸帆氏が世界各地の未来社会を描いた短篇SF集でもあります。
この作品では「視点」が参考になりました。世界各地が舞台ですが個人の日常にフォーカスして描かれていた点です。ここから、概略だけではなく未来社会の中に生きる個人像を描くようにしようと考えました。
アイディアを出すために
1.素朴な疑問を持つ
私のシナリオのアイディアの根っこはマックス・デグマーク著『LIFE3.0――人工知能時代に人間であるということ』の「アシロマAIの原則」です。
マックス・テグマーク著, 水谷淳 訳,LIFE3.0 : 人工知能時代に人間であるということ, 紀伊國屋書店, 2020.1. 978-4-314-01171-6.
条文を読み「AIはなぜ人間のために働くことが前提にされているのか」という素朴な疑問を持ちました。
ロボットの語源とされるカレル・チャペック『R.U.R.』もロボットは労働力の代わり。AIも人間の再現に目標が置かれていたので、あたりまえちゃ、あたりまえなのですが。
チャペック 作,千野栄一 訳,ロボット : R.U.R, 岩波書店, 1989.4, (岩波文庫). 4-00-327742-2.
素人だからこそ、前提となる土台を疑うことができたのだと思います。
これはシナリオのアイディアの根幹「なぜAIを人間が独占できるんだ? SF的視点でみれば動物のためのAIや植物のためのAIがあっても良いのではないか?」という問いが産まれた瞬間でした。
正確にはグリーンAI(環境問題をAIで解決する)という考え方が既にあり、新しい発想とは言い切れないのですが、それでも私にとって「大きな問いの始まり」でした。
2.今ある技術を整理する
そこでグリーンAI、動物×AI、植物×AIというテーマで論文を色々と当たりました。(論文の探し方、読み方はまた別に記事にします)
論文で調べた知見を元に年表に書き起こし、架空の年表の隙間をSFで埋めていきました。同時にAI入門書などを読み漁りました。
シナリオにあげた参考文献は最終的に参考にした文献です。厳密には参考文献の選定のために倍以上の書籍、論文、Webに目を通しました。
その中で自分なりに理解したことは以下の3点です。
AIの深層学習はビックデータが必要。
現時点で深層学術に使われるビックデータは、自然言語、画像、統計。自然界のビックデータはまだ少ない。
AIは目標を最大限に追求する。(おそらく目的関数の方が正確だと思われますが、わかりやすく目標と言い換えて理解しました)
3.社会問題に関心を向ける
小説のアイディアは社会問題の中にあると思っています。(もちろん今まで書いてきた作品全てが社会問題に根差したテーマとは言いません)
どんな小説も少なからず書かれた時代に影響されるからです。
こうした考えは学生時代に歴史学を専攻したことが影響しています。歴史は研究者の数だけ見解があり、時代により研究への評価も変わると学びました。
「社会に出ても問題意識を持て」と言われた恩師の言葉は今も心に残り、問題意識が歴史学を生む、と思った記憶があります。学生時代に得た専門的な知識はほとんど忘れていますが(汗)小説を書くときにも歴史学的な視点が生きていると思います。
記述のときに気をつけたこと
今回、娯楽性は評価対象外でしたが、せっかくなら面白い作品にしたい。
というのがSF好きな物書きとしての心理です。ですから、
読者が共感できる部分を作る
シナリオはミクロとマクロの視点、同時に1人の人物の人生も入れる
リアリティを持たせる
以上の3つのポイントは自分なりに気をつけました。先に挙げた参考資料の『AI 2041 人工知能が変える20年後の未来』を読んで面白いと思ったところを自分なりに取り入れたとも言い換えられます。
具体的に、1は、「海面上昇で被災し、避難を余儀なくされた学生」を、2は「1人の研究者の研究人生」を使いました。また3は「実際にある考え方を組み入れる」「海面上昇のシュミレーションを参照する」ことで表現しました。
おわりに
今回のコンテストに応募と受賞がAIやAIアライメントへの関心を高める動機となりました。A Iアライメントの研究動向はSF好きとして気になるところでもあり、今後も関心を寄せたいと考えています。
またこのシナリオを元に「さなコン2024」に同じ世界線の後日譚を書き下ろすことができました。こちらの背景はまた記事にします。
今後もAI関連の研究に関心を持ちつつ、創作活動を行いつつ、発信を続けたいと思います。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
少しでも参考になることがあれば嬉しく思います。
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