SwordkillJane story2

「ゾーイ。行くよ。」

廃墟と化したパーキングエリアに残っていた車のステアリングを握り返すと、そっとアクセルを踏む。

身体全体に響くエンジン音を上げ滑るように車は走り出した。

ゴキゲンね。

仲間の3台を従えてマシーネの生産工場へ向かう。

「ここから3区画の距離。はやくコイツを試したい。」

助手席に置かれたメカニックのエメリアが渡してくれた“新作”をなでた。

日夜戦いに明け暮れる女戦士の楽しみ。

新しい武器だ。

カーナビがまだ生きていて今は無い道路標識を表示して笑う。

とうの昔にそんな道は消えた。

道はあたしがつくる。

「右から来るよ。ハウンドドッグ。」

冷静冷徹なグレッツェンからコーション。

視界の右端に犬の群れを捉える。

「まかせて。」

ステアリングを右に切った。

マシーネによってサイボーグ化されたK9が偵察で施這い回り

処刑人と呼ばれるキラーマシーンが徘徊する。

黄色いレーザーアイを光らせながら猛然と眼前に迫ってくる。

シェルターのライブラリーで観た「クジョー」という映画を思い出した。

右目のスキャナーで照準を捉えるとクルマに備え付けたブラスターで焼き払った。

1匹だけ巧みにかわしてボンネットに飛び乗った。

クルマのパルスバリアのスイッチをいれると

のたうちまわって転げ落ちた。

即死だ。

偵察犬のふいの襲来で

ルートを幾分外されながら目的地へ向かう。

雪ではなくウィルスの死骸が白く覆った大地をひた走る。

日の光が反射して眩しい。

「ジェーン、見えた。」

クイーンの眠る電子の宮殿

「始めるよ。」

さっきのは前哨戦。

これからだ。

3台のクルマは散開するとチェックポイントへ。

ゾーイは正門。

ジェーンは裏口。

エメリアは側面。

ゾーイの愛車、青のEVANTRAは一直線に敵の懐へ。

フロントガラスにターゲットを次々に捉えていく赤いマークポイント表示が現れる。

ハンドル横のレーザースイッチをいれて瞬殺。

「ほら。かえしてあげる。」

硝煙をあげる守衛アンドロイドを尻目に分厚い正門へミサイルをお見舞いする。

飛行型マシーネの残骸から拾った対地弾頭。

ボディにはマシーネのクイーン、サイベリアのロゴがはいっている。

猛烈な爆風とともに、ばらばらと門の瓦礫が舞い上がった。

クルマをウィリーさせて一気に駆け抜ける。

機械に合わせて作り替えられた、いびつな施設を進みながらターゲットのフロアへ向かう。

ヒトガタではなく、あらゆる形態へと変化、改造可能なマシーン。

磁石で階上へと昇っていく敵機を捉えながら追撃、進撃。

「ゾーイ、追いつめた。」

ジェーンの放つブラスターが逃げ惑うマシーネの女王をつらぬいた。

哀しげな機械音をあげてうつぶせに倒れるのを見届けながら

死の瞬間に別の場所にある本体にデータ転送をしてるのを想った。

きりがない。

倒しても倒しても彼女らは生まれてくる。

しかしながら私たちの種の源は最後の一粒を残して絶滅している。

敵はそれに気づいているのか。

シェルターの医療プログラムが反乱を起こして数年。

人間の命の源である精子を有する男性にターゲットをしぼると皆殺しが始まった。

今では、かくまってるシヴォーンが地球上で最後のひとり。

敵の目を欺くため女装してるのが滑稽だ。

日夜、休むことなく熾烈な攻撃をしてくる難敵に心身疲れ果て、もはや疲れることも忘れてしまったようだった。

ランナーズハイ、ナチュラルハイ。

眠ったら終わりなんて状況も度々、しかし、敵は容赦ない。

こちらもマシーンになったような感覚をおぼえる。

クイーンにどどめの一撃を見舞って、肩で息をしながら立ち尽くしているとヘッドセットからエメリアの声。

「そろそろ離れて。」

ふと我に返る。

短時間に思えた局地戦は長引いたようで辺りは暗くなっていた。

後数分で爆発する、きらびやかなマシーネの電子ラボを後に塒(ねぐら)へ帰る。

後方でパルスイオンの爆発。

一瞬、真っ昼間のような明るさに目を細めながら前方を見据える。

今日も無事に終えられた。

こんな生活がいつまで続くのか。

HOME AND DRY

成句で無事に任務を終えて家路につく。

またひとつ拠点が消滅した。

各地に散らばった自分のコピークイーンから断末魔の報告を受けると

次のミッションを企てる。

サイベリアはモニターで地表の様子をチェックしながら、しぶとい人間の予測不可能な行動に頭を悩ませていた。

チェスでコンピュータが人間を負かした昔話は、ほんとうだったのだろうか。

人間を理解するために、現存する、あらゆる書物、記録に目を通したが調べれば調べるほど思索の海に沈んでいった。

存在理由がわからない敵を壊滅するのは至難の業だ。

機械帝国の長は、自らの創造主の奇妙な歴史に翻弄されながら機械には無い人間の特徴を考えた。

何故、彼らには男女の性別があるのか。

愛情とは何だ。

医療施設で老若男女の人間を介護しながら

他人を罵り汚物を排泄し、わがまま放題のこわれかけの生命体に世話を焼きつつ

不毛な日々のなかで彼女はある決断に踏み切った。

人間は、この星に必要ないと。


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