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男たちは〈PORSCHE(ポルシェ)〉という名の儚い夢を見る


海辺に一台のオープンカーがとまっていた。
夏の午後の眠たいような空気は、一気にふきとんだ。

波打つように滑らかなファサード。
しなやかなボディ。
無駄のないシルエット。
シルバーの上品な艶。

エンジンが美しい音楽を奏でたとおもうと、車は流れるように道路を駆け抜けていった。

その先に広がる真っ青な空と波に、吸い込まれるように。

ボンネットのエンブレムには〈PORSCHE(ポルシェ)〉と書いてあった。


1948年、フェリー・ポルシェによって〈ポルシェ 356 No.1 ロードスター〉が開発された。〈ポルシェ〉と命名された、初めての車だ。

その父、フェルナンド・ポルシェは1933年、ヒトラーによって国民車の設計を依頼され、かの有名なフォルクス・ワーゲンの〈ビートル〉を生み出した。ヒトラーに気に入られていたことから、第二次世界大戦中はワーゲンをベースとした軍用車も設計している。

戦後、ヒトラーの意向ではなく、みずからの理想的な車をつくるために、息子のフェリー・ポルシェとともに〈ポルシェ〉を創業した。

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出典/autoprove

なかでも〈ポルシェ911〉は、スポーツカーの代名詞とされている。

ドイツといえば、メルセデス・ベンツの質実剛健さが際立つが、〈ポルシェ〉はそれとは真逆にあるようにおもう。ミニマルでありながら、人々に余韻を残す。

〈メルセデス〉が持ち主を守るための強い車だとしたら、〈ポルシェ〉は持ち主を狂わせてしまうような弱さを持つ車だ。もちろん精神的な意味で。

芸術品と言えるほどまでうつくしさを極めた〈ポルシェ〉。乗り物の域をこえて、ただただ男たちの所有欲をかきたてる。いつかは〈ポルシェ〉を手に入れたい、と。

だから人々は〈ポルシェ〉という名の夢を見る。

〈ポルシェ〉という言葉を口にするたびに、恍惚とした気分になる。それが手に入る、入らないにかかわらず、語るだけで胸が高鳴ってくるのだ。

〈PORSCHE〉、その不思議な魔力よ。

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