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『スペースロマンサー』第23話 旅路の途中

 二人が出発してから2日ほどが経過した頃、彼らの周囲は変わらぬ荒涼とした地表が広がり続けていた。
 地平線の彼方まで何もない荒れ地が広がり、風は冷たく、砂埃が舞う音だけが響いていた。
 しかし、地上の過酷な風景とは対照的に、上空には異なる光景が広がっていた。
 天空に広がる夜空は鮮やかなルビー色の輝きを放っていたのだ。
 この星の大気は地球のそれとは異なり、赤外線を多く含む恒星からの光が、大気中の特定の気体と相互作用することで、このような美しい光景を作り出していた。
 そして、一定の間隔で空を覆うオーロラは、さながら幻想的なカーテンのように揺らめいていた。

(これこそ宇宙を旅する醍醐味だ)

 ノヴァの故郷では太陽系こそが安住の地であり、危険な宇宙に行くのは愚か者がすることだと考える人たちが多くいる。
 そのような人たちは異なる恒星が放つそれぞれの輝きが、どれほど想像を絶する景色を作りだすのかを知る由もない。
 奇跡的な確率によって”この世界”に生きているというのに、そのような生き方はあまりにも、”もったいない”とノヴァは強く感じるのだった。


「この空を見れただけでも、ここに来たかいがあったな」

「ワタシは、戦いから逃げられればそれでよかったんデス。それでも、ノヴァさんに会えたことはすごくうれしいデス。」

ジローは静かに答えた。その言葉には強い親しみが込められているように感じられた。

◇◇◇◇◇◇


 二人の旅路は続いていく・・・・

 宇宙船から一定の距離を離れた時点で、何らかの影響によりイブとの通信が途絶えていた。

「う~ん。地図のデータは保存してあるから、ルートの確認に支障はないけど、イブのサポートがないと何かと不便なんだよなぁ」
ノヴァは不満そうにつぶやく。

「イブさんがいないと寂しいデス!」

 ジローの言葉にノヴァは少し驚いた。

「いつのまにそんなに仲良くなったんだ?」

「それに、二人きりでノヴァさんと会話が続くかも心配デェス」

「急に気まずくなるこというなよ」

 二人は笑いながら、進み続けた。
◇◇◇◇◇◇

 最初の補給ロケットの着弾場所まであと数日というところまで進んでいた。
ふとジローがノヴァに尋ねる。

「ノヴァさんのスーツは私の故郷のものとは全然違うデ「わかるか?これはおれが開発した特別なスーツなんだ」

自分のカスタマイズしたガジェットに触れられるとうれしくてたまらないノヴァはジローの言葉に食い気味に反応する。

「まだ私が話している途中デ」
「そうか、そうか、そんなにこのスーツのすばらしさを聞きたいか!」

「言ってないデス」

「デザインのすばらしさは見てわかると思うが、さらに、このスーツの素敵なところは着心地が宇宙一快適ということだ」

「宇宙一デスか?」

「そう。このスーツを着るということは、まるで二度寝をするときの布団の中のような、そんな底なし沼のような感覚なんだ。」

「よくわからないデスが、そんな状態で動けるデスか?」

「そのくらい快適なつけ心地で、ずっと着ていたくなるってことさ」

「私も着られるデスか?」

「悪いが俺専用だ」

「ケチデぇス。それでどんな兵装が備わっているデスか?」

「兵装て、・・・・武器か?
そんなナンセンスなものはついてないぞ。武器なんて付けたらエレガントさが失われるだろ?」

「ウエポンがついていないスーツなんて、私のところでは考えられないデス!どうやって危険から身を守るデスか?」

 頭部を指さしたのちに、こぶしを作りながら胸をたたくジェスチャーを交え
「頭脳とハートで乗り切るのさ」とかっこつけるノヴァ。
 あまりにクールな所作に感動しているに違いないと思いながら、ジローの反応を見てみる。

「デェス」
 その髑髏からはいつも以上に表情がなくなっていた。



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