『スペースロマンサー』第20話 物資問題
ノヴァは船外活動用のスーツを身に着けた後、ジローとともに探索の準備のために倉庫へ向かった。
倉庫は船の最後部エリアに配置されており、最前部に位置するコクピットエリアからだと移動に数分を要する。
「探索はどのくらいの時間がかかる?」
倉庫に向かう道中でノヴァがイブに計算を依頼する。
船の中ではどこにいてもイブとやり取りをすることが可能だった。
「ここから半径2000kmのエリア内の複数のポイントを回ることとなります。進行速度によりますが、出発から帰還まで30日から50日ほどかかることが見込まれます。」
二人のヘルメットにイブが情報を送信することで、マップと探索ルートの情報がそれぞれに表示される。
ジローは少し驚いた様子だった。
それもそのはずで、すでにイブがジローの装備と情報の送受信ラインを確立し、イブの意図する挙動を行うよう調整がなされているということであり、つまりは、”ハッキング”がなされたことを意味していた。
普通であれば警戒するシチュエーションである。
「イカスデェス」
ノヴァは気にするのをやめた。
地図には三つのポイントとそこまでのルートが表示されていた。
「お腹がへっちゃうのが心配デス」
とノヴァを追いかけながらジローが言う
「確かにな。問題は食料と水をどうするかになってくる。それに空気も持っていかなくちゃだ。ローバーに乗せられる食料と空気の積載量は合計でだいたい0.5立法メートルで500リットルぐらい。ジローほどの大喰らいと一緒だということを考慮すると・・・・」
探査用ローバーは、ある程度の日数を要する移動も想定しており、それなりに物資などが詰め込めるように設計されている。ただし、ノヴァのローバーは調査機器やエネルギータンクなどがあるうえに摂取した素材も載せて帰ってこなくてはならないため、物資の積載可能量はそれほど多くなかった。
通常の惑星探査ミッションでは、それほど日数を要する長距離の移動であれば、宇宙船で移動してしまうため、今回のようなケースは想定外ということになる。
「私はノヴァさんの3倍は食べたいデス!」
ジローには節制という言葉は存在しないらしかった。
「・・・・。探査日数が50日間だと仮定して、食料1,000リットルに水が600リットル必要だと考えると、・・・・。併せて1,600リットルか。酸素は液体で積載するとしても、スペースが足りないな。」
計算用コンソールを用いて必要な食料の量を算出し、積載可能量と比較する。
人間が十分な活動を行うために接種が必要なカロリーは、2500から3000カロリーといわれている。
その場合、栄養素をバランスよく配分すると、1キロ程度の食料を食べることとなる。加えて、水分は3リットル程度の摂取が望まれる。
ジローの要望どおりその3倍を用意すると食料が3キロで、水が9リットル。
併せて1日に食料が4キロに、水が12リットル必要な計算となる。
1キロ当たり5リットル分の空間を占領することとなり、少量が20リットルで水が12リットル。合わせて、32リットル。50日分だと1600リットル=1.6立法メートルとなる。
ローバーの積載可能量が500リットル=0.5立法メートルであり、必要となる約3分の1程度しか積載できない。
「私にアイディアがあります。ジローさんの船にミサイルはありますか?」
とイブ
「あるデス。」
「ミサイルの飛距離はどのくらいですか?」
「この星の反対側まで飛ばせるデス。」
「・・・・!そうか、”プレポジショニング”。
ミサイルを使って中継地点に食料を送るのか!」
”プレポジショニング”とは21世紀の宇宙開発の初期から用いられている手法であり、火星への有人ミッション計画などにおいて、将来の宇宙ミッションや計画に先立ち、必要な資材や機器、その他の供給品を目的地に事前に配置する戦略を指すものである。
「その通り。ミサイルの起爆装置を停止させたうえで、食料を搭載して飛ばします。落下地点は計算可能ですし、発信器を付けることで、ピックアップが可能です。」
「最高のアイディアデス!これで、毎日お腹いっぱい食べても心配いらないデス!」
「こいつ、もう一回砂に埋めた方がいいんじゃない?」
「それによりマスターの生存確率は200%上昇します。」
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