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夢で会う


つい先ほどの話、リビングで少しだけ横になるつもりが、気づいたら寝てしまっていたようで玄関のチャイムの音で目が覚めた。
誰だろうと思い出てみると、小さい頃一緒に暮らしていた祖母が立っていた。私が小学生になった年に亡くなってしまった大好きな祖母が、あの時の姿のまま訪ねてきた。
「おまちゃん、赤ちゃん産まれたんだってね」記憶の片隅にある懐かしい笑顔と声だった。「抱っこしてもいい?」と聞かれたので息子を抱いてもらうと「軽いねえ、頑張ったね、ありがとうね」と呟いて帰っていった。

そこで目が覚めた。

不思議な夢だった。
私はこの感覚を知っていた。

数年前、父が突然亡くなった。
久しぶりに帰省する予定だった。
その前日だった。

私が東京から実家に帰ってきた時には、父はすでに死装束に着替えた後だった。
葬儀が終わった日の夜、母と妹とリビングで寝落ちてしまっていた。明け方、ガラリとリビングの戸が開く音がして目を覚ました。
仕事着の父が顔を出して「お母さん達はまだ寝てるのか」と言った。「寝てるよ、お父さん出掛けるの?」と聞くと「うん、お弁当どこかなと思って」と答えた。父のお弁当は、結婚した時から母が一日も欠かさず作り続けていた。「お母さん寝てるから私作るよ」と言うと「いい、いい。まだ早いから寝てなさい」と言って父は出ていった。私は父の言葉どおり再度布団に潜り目を閉じたが、そこで父が亡くなったことを思い出して飛び起きた。あわてて家中探したが、お線香の匂いがするだけで父はどこにもいなかった。
母に話すと「お父さんはアンタが帰ってくるのを楽しみにしていたから、最後に会いたかったのかもね」と静かに呟いた。

あの時の夢と、同じ感覚だった。
たかが夢と言われるかもしれないけど、なんとなく特別な夢な気がした。


おばあちゃん、もっとちゃんと話せばよかったな。話したいことがたくさんあったのに。嬉しそうに息子を抱いてくれた顔も、夢だからどんどん忘れていってしまうだろう。こうして文章で書き残すのは私のせめてもの抵抗だ。

実家のリビングは不思議な場所なのかもしれないと思った出来事。

あ、泣いてる。ミルクかな。

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