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My dearest, like a cherry blossom




“老いは祝福である”

生物として老いることがなければ世代交代も起こらず、流行り病に負けすぐに絶えてしまう。だから、老いることは次の世代を生かすために与えられた宿命でありその種族の繁栄に欠かせない祝福である。(天地創造デザイン部より)

でもこの物語の主人公に訪れる老いはあまりにも早く、あまりにも残酷だった。
老いが祝福なのであればもちろん若さも祝福であり、人は若さの中で作られるきらめいた思い出があるからこそ少しずつ待ち構えている老いというものを受け入れて生きてゆけるんだと思う。


そんなきらめいた若さの真っ只中で、疑うことなく過ごせたはずの未来が、突然失われてしまったら。


老いた体にはちぐはぐな真っ赤なコートとバッグ。晴人と一緒の時だけは、晴人との思い出の中にいるときだけは、若くてかわいい美咲のままでいられた。

彼女は最後まで優しく、潔く、周りの人達を気にかけながら、残された人たちの背中を押すように去っていった。自分の運命に必死に抗って、絶望し、できることなら晴人と一緒に歳を取り、ずっと手を繋いで散歩をするような2人でいたかったと切に願いながらも、残された人たちが前に進めるように愛を置いていった。

私だったら美咲さんみたいに人生を終えられるだろうか。今日が自分の人生の中で1番若い。大切な人を大切にしよう。やりたかったこと、いつかいつかと先延ばしにしてきてしまったことを、少しだけでも前に進めよう。病ではなくとも人生がいつ終わってしまうのかは誰にもわからないんだから。

晴人はこれからどんな未来を歩むんだろうか。本編はどちらかというと美咲さんの物語だった。そしてそこにモノローグやエピローグで晴人の語りが入る。そしてエンドロールにかかるMr.Childrenの”永遠” 。この一曲分が晴人の物語だ。 


“時は行き 過ぎる そこに何らかの意味を人は見出そうとするけど 冗談が過ぎる たとえ神様であっても 死ぬまで許さない”


冒頭に触れた、生命のための祝福だなんだという話なんて晴人にとっては一切関係ない。美咲さんに老いを与えた神様すらも、彼は呪うのだ。美咲さんが帰ってくるのならばどんなことだってするだろう。どんな悪魔にだって魂を売るだろう。でも、何をしたって彼女は帰ってこないから。

だから晴人は心の中に美咲さんを小さな神様みたいに住まわせて、彼女に恥ずかしくない生き方ができるように頑張るしかないんだと思う。  


いつか晴人が年老いて美咲と同じ姿になって、天国で再会できた時にはどんな会話をするかな。耳たぶちゃん、奥手すぎる晴人のために体張ってくれてありがとう← 

残された人たちがみんな幸せでいて欲しいと、見終わったあととても愛しい気持ちになれる素敵な映画でした。







↓以下細々とした感想↓


実際に30歳を越えて老いのかけらを感じ始めた女性としては、中盤以降の描写が辛くて辛くて仕方がなかった。

部屋の電気をカチカチと付けたり消したり繰り返す仕草、始めは意味が分からなかったけれど反射で映る自分の姿を受け入れられない悲しみがクッキリと表されていてハッとした。凄く刺さった。基本的に美咲は老いてからの姿を受け入れられないのでその顔がハッキリと写るシーンは少ない。だからこそ、いざ顔が写ったときの悲壮感は半端ではない。どんどんと介助が必要になり、人としての尊厳さえも失っていってしまうように感じられる描写が辛かった。とにかく辛かった。


松本穂香さん演技エグすぎ凄すぎ…初めてちゃんとお芝居を見たけど、病院での診断を受けてサロンを辞めた日、美容師の道具をしまいながら慟哭するシーン。彼女はもうめちゃくちゃに怒っていて、悲しみと絶望と運命への怒り。ここの叫びの迫力は物凄く、一気に物語に緊迫感が出たように思う。それからはずっと両手を合わせて握りしめながら彼女に少しでも希望が見えるようにと祈ってしまった。結末なんて既に知っているのに。エネルギーと笑顔がほとばしる彼女が少しずつ一つずつ物事を諦めていってしまう姿が痛々しくて仕方がなかった。特殊メイクも含めてめちゃくちゃ体当たりの全身全霊の演技。

 



晴人はとにかく真っ直ぐで、ずっと美咲さんのことが愛しくて仕方がない目をしていて。だからこそ、彼の気持ちもわかってめちゃくちゃ泣けた………

正直晴人はかわいそうなんですよ、なーーーんにも知らせてもらえなくて。たくさんたくさん嘘をつかれて。頼ってもらえなくて。勝手に逝かれて。誰よりも支えてあげたかったはずなのに。誰よりも一緒に辛さを分けてもらいたかったはずなのに。

私たちは美咲さんの物語を知ってるからこそ理由はわかるんだけど、もし私が晴人だったらもう耐えられないしもう絶対に頑張れない。でも、それでも、彼の中には美咲さんにどつかれた肩の痛みがずっと残っているから、立ち止まり続けることもできないんだよな。


ねぇ!健人くん、めちゃくちゃモサいんですけど!(褒めてる)
本人も想像以上だと言っていた原始人晴人が出てきた時は本当に”やば!”って言ってしまったよね。笑  

このnoteのタイトルは健人くんがクランクアップ報告をしてくれた日の#K_T_Tから貰いました。公式の映画タイトルも好きだけれど、Love like the falling petals(散る花びらのような恋)はこの作品そのもののこと、My dearest, like a cherry blossom(桜のような僕の誰よりも大切な人)こちらは晴人の美咲への気持ちが込められている、そんな感じがする。そしてこの気持ちがひしひしと伝わってくる、素晴らしいお芝居だった。もうお芝居ですらなかったもんね。本人が「あるはずのない美咲さんとの思い出がフラッシュバックした」と認めるように、もう一体化してたんだもん。

ただの弱虫だった一人の男の人が、本当に大切だと思える人と出会ったときの一途で真っ直ぐな姿。美咲さんを見つめる愛おしそうな目やぶちキレたときの目、最後の決意の表情、、、すごく表情で、体全部でお芝居をするなーと魅入ってしまった。くるくる動く目線にぱたぱたせわしないまばたき。頼りなく丸まった猫背でまんまるにアイスを食べる愛らしい姿。どれもこれも晴人そのもので、これは物語の終わりに流れる曲をSexyZoneが歌ったらダメだよ!だってここにいるのは健人くんじゃなくて晴人なんだから!って素直に思った。どんな姿もたまらなく愛おしかった。……凄い俳優だよほんと。

彼がこの先も役としてどんな人生を過ごすのか、どんな世界に身を投じていくのか。追いかけていくのが楽しみです。




“Youは役者だよ”    

ジャニーさん、さすがです。




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