入社して04秒でTikTok

気が付くと、社会人5年目になっていた。

社会人になってからというもの、恐ろしいほど時間の経過が早い。

年をとればとるほど、一年があっという間に過ぎるなんていう話をよく聞くが、今でも十二分に早すぎるのだ。

いつも通り会社に向かって歩いていると、真っ黒のスーツを着た、いや、着させられている、明らかに自分よりも年下の若者たちがいる。

イキイキとした顔の人、不安げな顔をした人、様々だ。

少し不安げな人の方が多いだろうか。

その若者たちの正体はそう、新入社員だ。

イキイキとした人も不安げな人も、みんなフレッシュで初々しく見える。

遊戯王のパック風に言うと、フレッシュ・オブ・デストラクションだ。

なぜ遊戯王のパック風に言ったのかは聞かないで欲しい。

そんなフレッシュ・オブ・デストラクションな、日本の未来を担う新入社員たちが、ネット上で馬鹿にされるところを度々僕は目撃した。

その馬鹿にされる諸悪の根源、それは「TikTok(ティックトック)」だ。

ツイッターやインスタグラムを開くと、もう新入社員の子達が、TikTokで流行っている音楽をBGMに、ヘンテコなダンスを踊らされている動画が転載されている。

ツイッターやインスタグラムには、その踊らされている動画を引用し、小馬鹿にする投稿ばかりが目に入ってくる。

中には異常に拡散されている動画もある。

「就職した企業が、TikTokに力を入れている」

これは今の時代、ある意味最悪なパターンなのかもしれない。

驚くことに、入社式の日にTikTokを踊らされている投稿も発見した。

そしてその動画を全く関係のない人たちが別のSNSでも拡散し、「入社式にTikTokを踊らされるなんて...」と言ってネタにしている。

最初は僕も小馬鹿にしながら見ていたのだが、改めて深く考えると、これは全く他人事ではない、由々しき問題なのかもしれない。

皆さんも一度、自分の立場になって考えてみてほしい。

あなたは右も左も分からない社会人初日の新入社員で、緊張と期待を胸に入社式に臨む。

入社式を終えて一息ついたところに突然上司が近寄ってきて、「さ、ひとまず同期みんなでこれ踊ってみて。TikTokに投稿するからさ。できるだけ元気に頼むよ。」なんて倒置法混じりに唐突に言われたら、「僕... TikTokは出来ません...。」なんて咄嗟に言えるだろうか。

僕が仮に今の新入社員だったら、「実は俺、こーいうのいけるんすよ☆」みたいな感じで快諾してしまい、ヘンテコなダンスを踊ってしまっているだろう。

そこでのダンスがなぜが評価されてしまい、会社のTikTok要員となった僕は、その会社の、「SNS事業部 TikTok推進課 血へド吐くまで踊りやがれ係」に配属が決まる。そして会社でTikTokを撮る度に自分は召集されてしまい、定時を超えてもなお、ぶっ通しでヘンテコなダンスを踊らされるのだ。

「か、かなり残業して踊ったぞ......今月は相当残業代がついたはずだ......」と思ったら、その会社は固定残業代制で、これだけ踊ったにも関わらず納得のいく給料を得られず、がっくりうなだれ、血ヘドを吐いてしまうのだ。

「チュッ♡ 血ヘド吐いてゴメン......生まれてきちゃってゴメン......」

想像しただけで口の中に血の味が広がってくる。

いや、これは先週シンプルに親知らずを一本抜歯したからだ。

そして度々撮ったTikTokが一本ぐらいは異常に拡散されてしまい、ネットの連中に馬鹿にされるのだ。

そして僕は自分を正当化する為に言うだろう。

「ボクは踊らされているんじゃない。自分の意思で踊っているんだ。」と。

考えただけでもゾッとする。

ゾット・オブ・デストラクションだ。

中高生のときに体育館や視聴覚室で行われる、お酒やタバコ、クスリの怖さを勉強する授業があっただろう。

その授業の中で、お酒やタバコ、クスリを誘われた時のために、断る予行練習をしたのを覚えているだろうか。

その中に、SNSに関する撮影を断る予行練習も、今後は取り入れるべきなのかもしれない。

「オレ、TikTokはできないんだ。デジタルタトゥーになっちゃうからさ。」と、倒置法混じりに断る練習をするべきだ。

そもそも、よくこんなくだらないアプリが浸透したものだ。

そして、よくこんなくだらないアプリが若者を中心に受け入れられ、ビジネスの場でも使われるようになったものだ。


改めて僕たちは今一度、この世の中自体を疑う必要があるのかもしれない...........。










こんな記事を書きながら、せっかくだから久しぶりにTikTokのアプリを開いてみる。














「お、おぉ.........。」














「ボインボインのプリンプリンではないか。」














今なら声を大にして言えるだろう。


















僕は、TikTokが大好きである。








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