見出し画像

日本酒と小さいしくじり

ただ美味しい日本酒が好きなだけで、別に詳しいわけじゃなかった。せいぜい分かっても辛いのか甘いのか、香りが強めなのかそうでないか。そして飲みやすいのかどうかくらいだ。そのくらいは慣れれば、誰にだってわかる。

だから、正直日本酒の製法とかについて話を聞くのはいいけど、語り合うのはとても辟易したし、後輩と日本酒飲みをした翌日にまた「教えてください」と言われるのが嫌だった時期もあった。「そういうもの」を「そういうもの」として理解するまで、捉えるまで、慣れるまで、あるいは諦めるまでに一年くらいかかった。

「日本酒が好きな自分」が他人には「日本酒に詳しいあの人」にすり替わっていた。ここから、そんな「キャラクター」のバイアスについてのちょっとしたしくじりエピソードになる。

自分が入学するときと卒業するときではなんとなく日本酒の流行り方が違っていた。もしかしたら、自分の社交範囲とか情報をキャッチできるアンテナみたいなのが張られるようになったのかもしれないけど。ただとにかく、自分が日本酒を飲みはじめたときには、周りに日本酒が好きだ!という人なんてそう多くなかったし、Facebookで投稿したり日本酒のグループが作られたりなんてこともなかった。だから最初は、とりあえず美味しいお酒で当時面白かった奴らとくだらないことを話す会っていうのをゆったりとしたペースで自分が主体的に開いていた。

気付いたら、「日本酒が好き」というキャラができていた。事実だし、無個性の自分にはいいキャラクターだろうと思った。そしてそのまま、留学とかを挟みながら、日本酒を楽しく飲んでいた。(全然違う話をすると、ヨーロッパにいる人で日本酒が飲みたければロンドンのピカデリーサーカスにあるジャパンセンターをみるといいと思う。飲みやすい日本酒があったはず。)

話を戻すと、留学から帰ってきてから辺りを皮切りに、日本酒が好きな知り合いが増えていった。面白い人たちが揃っていたのもあって、そこでの飲み会は楽しかった覚えがある。気を遣われた部分もあるのだろうけど、何を言ってもある程度笑ってくれたりリアクションしてくれることが多く、それはとても嬉しいことだった。ある時、そういった日本酒が好きな人間でFacebookでグループができるようになって、自分も参加した。そして当然の流れとして、そのグループで飲み会をするようになった。

途中から、自分はあまり会に行かなくなって、最後はほとんど参加することなくそのまま大学を卒業した。

人も面白かったし、日本酒も好きだったけど。その「日本酒が好き」というのが他の人と違った。そのグループでは誰もがとても日本酒に詳しく、そこまでの熱量が自分にはなかった、というのが大きい。後はメンバーも変わっていく中で、自分にとって喋りやすい人間がいなくなったこともあるかもしれない。

もともと兆候はあった。飲み会ではそこで集まったグループの「共通項」、、、会社であれば会社の話、大学の同期なら大学の話をすることが多いのは、多分なんとなくわかると思う。上の自分がいたグループにおいてその共通項は「日本酒」なのだが、自分は「日本酒」の話ができなかった。美味しい、以上の感想がなかったし、興味もそこまでなく、とどめに知識もない。そもそもの共通項・コミュニケーションの通貨を自分は持っていなかったのだ。

そうなると、代わりのものが必要になる。例えば、雰囲気を楽しむ、雰囲気を提供するというのが一つあるだろう。
どんな人にも必ず、まとっている雰囲気がある。場に似合っているかに合っていないかというのは、その人がどんなキャラクターなのかとは少し違うところに存在するからだ。だから、雰囲気になじんでいたはじめのうちは、それでも他の話ができたが、そこから少しずつ、少しずつ面々や雰囲気がもっとパーティーじみたものに変わっていった。最後に、都合あって出れなかった飲み会で、酔った人間がキスをしているのを撮って流す、そしてそれをゲラゲラ笑って楽しむ様を見て、自分は合わないな、と感じた。それを「内輪の楽しさ」と見れなかった時点で自分は輪の外にいて、またそもそもの共通通貨で使えた「日本酒」の話題さえ持っていない以上、行く理由がなくなったかなと思い、参加しなくなった。

これは「〇〇が好きな人」という評価が「〇〇に詳しい人」と同格の表現になっていたがゆえに、自分がある意味で過大な評価をされてしまった。そしてそこのズレから身の丈に合わないコミュニティに属し、気づいたらなにもできなくなってコミュニティからはじかれてしまった、という話である。
ただ、しょせん飲み会だから、行かないなら行かないでいいのをなーにうじうじ話しているんだと思う人もいるかもしれない。特に当事者からしたらたまったものじゃないかもしれない。
まあそこら辺はさ、元気出して。別に嫌いとか、死ねって言ってるわけじゃないし。「レベルが高すぎてついていけなかったかわいそうな子、、、私たちって、罪ね、、、」みたいな感じで日本酒飲みながら自分に酔ってもらえるといいんじゃないかな。

まあ、それでもこんなうじうじした話を書いたのは、多分もう少し重要な場面、環境で、同じような状況の人がいるかもしれないし、そんな人が自分の状況を見つめ直すきっかけになるかもしれないと思ったからだ。これでどれくらいの人がこの記事に同情するのかも気になった、というのもあるけど。

一応付け加えておくと、ほとんどの場合において、上の自分みたいにキャラを降りること、誤解を振り払っていくこと、嘘をつき続けること、、、色々な選択肢がある。どの選択肢でも死ぬことはないと思うので、その時の自分がどうしたいかくらいの刹那的な感情でも良いし、キャリアプランとかそういうある種の重たさが備わっているものであれば、逆にそのキャラクターに自分を持っていくというのも間違いなく一つの良い手段だと思う。

結論、外のキャラクターと自分の「キャラクター」のズレについてはその差異がもたらす重要度(その決定で自分が支払うコストとリターン)と踏まえるとベターかもしれない。

まあ、それはそれとして。

あえて例で締めくくるが、それでも「日本酒は好き」なので、これからもインスタには上げるし、飲んだことがない人にはお勧めを紹介するし、面白い人と楽しく飲む時はできる限り準備するし、にわかとして全力で楽しんでいきたいし、日本酒自体はプライベートで布教していきたい。ただやっぱり詳しくはないから、紹介じゃなく教えを乞うなら酒屋に行ってこいというのが、自分なりのこのエピソードの決着になる。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?