物理の時間

私の高校時代には、体罰なんて当たり前とうそぶく教師がいたものです。その中で、ライデン瓶がことのほか気に入っているその教師は、ことあるたびに、生徒全員の手を繋がせライデン瓶で発電して貯め込んだ電気を流すぞと言って脅かすのが日常だったのですが、決してそれを実行することはしませんでした。

その教師が一度大喝采を浴びたことが有ります。
それは、放物線の授業でのこと、いつものように小難しい理論は方程式を黒板に書きまくった後、つまらげな生徒を見回して、おもむろに黒板の端から端まで山型の線を引いたのです。
そして、廊下への出口ギリギリまで行き、そこから手にしたチョークを黒板に平行に斜めに投げ上げたのです。
そのチョークは、先に引いた線に沿って、黒板の前を綺麗な弧を描いて飛んで行ったのです。

驚いたのは、生徒たちです。あまりにチョークが先生の引いた線に沿って飛んだものですから、「凄~~~い!」普段はたいして興味も示さない悪童が中心になって、教師をほめそやしたのです。
そして、なんと「アンコール、アンコール!!」のコールが始まりました。

教師の方も、思わぬ反応に、それでもまんざらでもない顔で、また、チョークを投げたのです。そんなに二度も上手く行くはずないと冷めた目で見ている一部の生徒がまたしても驚きました。またまた、綺麗に線に沿って飛んで行ったのです。

この件いらい、この教師の評判が上がったのはもちろんですが、教師の方も事あるごとに自分の特技を見せるようになり、授業が面白くなっていったのです。こんなこともあるんだという話です。

私の通っていた高校の特徴は、先生のほとんどが東大出だということです。
それがどうしたという御仁に問いたい、東大出が沢山いるということは、教師はみんな理解力・洞察力・判断力など、さまざまな面で能力が高いこと意味しています。そんな人は、学校の授業など聞かなくても理解していたはずです。

だからいくら説明しても理解しない生徒を呪ったことでしょう。なんでこんな簡単なことを理解できないだろうと頭を悩ましたはずです。類推する力が全く低い生徒たちに教える授業は苦痛だったことでしょう。
浪人を経験して、苦労して大学に入って教師になった方は、自分の苦労を生徒たちに重ね合わせることが容易ですから、その先生の教師は分かり易いと評判が立つはずです。

先の物理の先生も東大出でしたが、この一見以来持論が変わったそうです。生徒のレベルをよく理解することから授業は始まるということを、他の教師に行って回ったそうです。


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