【イベントレポート】医療とテクノロジーの最前線、丸川 珠代氏と若手起業家が語る医療DXの課題と未来
2024年7月24日、元テレビ朝日アナウンサーで自民党参議院議員の丸川珠代氏を迎え、若手経営者とのクロストークを実施。日本の女性活躍や医療DXの課題と未来展望について議論しました。
後編は「若手医療ベンチャーが捉える、今後の日本の医療マーケットと未来」と題し、若手起業家・経営者の視点からヘルスケアスタートアップの課題と未来について語っていただきました。
▼ 前半セッション「女性リーダーの創出に向けた女性活躍推進のあり方」はこちら
■ 登壇者
丸川 珠代
自民党参議院議員 東京選挙区選出 現在3期
テレビ朝日アナウンサー時代、勉強会にて内閣官房副長官(当時)安倍晋三と出会い、その人柄に触れ政治家を目指す。平成19年の参議院議員選挙にて初当選。自民党野党時代には女性局長として全国津々浦々の声を聞き歩き、平成25年の2期目、令和元年の3期目の選挙でトップ当選を果たす。
環境大臣、東京オリンピック・パラリンピック担当大臣等を歴任。東京の発展と環境、医療、介護など多方面の政策に取り組んでいる。
猪川 崇輝
株式会社Buzzreach 代表取締役CEO
2005年治験被験者募集専門会社のクリニカルトライアル社、2009年製薬企業向けの治験広告を専門とするクロエ社(現エムスリーG、3H社)、両社の立ち上げより参画し取締役を務める。2017年5月に独立、同年6月株式会社Buzzreachを設立。 新薬開発(治験)における課題を一気通貫で解決するstudyworksを中心としたプラットフォームの開発や、患者特化型SNS事業を展開し、現在までに約20億円の資金調達を実施。
志水 文人
株式会社3Sunny 創業者・元代表
GREE、リクルートを経て、2016年に株式会社3Sunny(スリーサニー)を創業し、医療Vertical SaaSのCAREBOOKを開発運営。事業成長後、2022年帝人株式会社にM&A。2023年に3Sunnyを退任後、エンジェル投資やヘルスケア企業の戦略や資金調達に関する支援をしている。
有村 琢磨
株式会社ポテック 代表取締役
PREVENT CTO → LINEヘルスケア PM → その後フリーランスとして複数社のヘルスケアベンチャーに関わらせて頂いたのちに現職の株式会社ポテックを創業。ヘルスケア領域における新規事業立ち上げを大手企業からスタートアップまで幅広く支援している。
■ ファシリテーター
藤本 修平
静岡社会健康医学大学院大学 准教授
ヘルスケアスタートアップ企業、総合商社グループでヘルスケアに関する新規事業責任者などを歴任し、ヘルスケアアプリ、店舗型サービスや介護関連のAI開発などに従事。その後、現職ではヘルスケア・医療・介護における産学連携・オープンイノベーション・マーケティングリサーチに関する研究を専門とし、ヘルスケアビジネスの講義を担当。加えて2024年には、株式会社メドレー(東証プライム) のオープンイノベーション パートナー、Funds Startups株式会社でベンチャーデットファンドのアドバイザーに就任。
ヘルスケアスタートアップを取り巻く国内の動き
藤本:
厚生労働省が2024年6月に発表した「ヘルスケアスタートアップの振興・支援に関する ホワイトペーパー」によると、国内のスタートアップの創設社数は減少傾向にあるといわれています。 また、日本のヘルスケアスタートアップは盛り上がる一方で実態としてはまだ多くの課題もあり、問題意識を持った有識者の方々により「25の提言」がなされました。
総論的な内容として、「分散型臨床試験(DCT*1)」と呼ばれるような治験の形のほか、「インパクト投資」文脈でのヘルスケアの意義などが記載されています。一方で、起業促進やスタートアップの強化・構造に寄与する方針を国がしっかり出してくれています。
このようなヘルスケアスタートアップを取り巻く背景を含めて、今回はスタートアップ現場の課題とそれに対して望むことを登壇者の方たちにお話いただきたいと思います。
規制の壁や入札制度、助成金集めなどの課題が浮き彫りに
藤本:
はじめに「日本でヘルスケアスタートアップをしていて、困っていること・望むこと」について聞いていきたいと思います。
猪川:
当社の事業領域は25の提言でいうところの、提言7「上市までの時間・コストの大幅圧縮に向けて、分散型臨床治験(DCT)等の試験DXを積極導入する」に入っていますね。
この背景には、日本でもっと新薬を出そうという考えがあり「もっと効率的に治験をする方法はないの?」といわれた際にこのDCTの出番になるのです。
これまでの治験は中央集権型のモデルで、基本的に医療機関ですべて完結しなければいけませんでした。つまり、これからはひとつの医療機関で治験を完結するだけではなく、医療機関と外の機関でDXを使って出来ることを組み合わせる必要がある。
例にあげると、オンライン診療を受けながら自宅で治験を受けるなど。このようなことをしていくのがDCTに含まれています。
スタートアップはまずプロダクトを作り、使ってもらってPDCAをまわすイメージですが、医療スタートアップははじめに規制の壁を超えられないのが弱みかなと思います。とくに治験の領域では規制のハードルが高く、良いプロダクトなのに使用できないなどがありますね。
志水:
私が創業した株式会社3Sunnyでは病院向けのSaaSの開発・運営をしていました。
課題に感じていたのは「入札資格」について。一般的に、公的病院にプロダクトを売る際は入札制になることが多いです。入札額が300万円未満であれば、できたてのスタートアップでも入札の資格があります。しかし仮に3,000万円以上のものを売るとなった場合、売上200億円規模の企業でなければ、そもそもプロダクトを売れないんですよね......。
最近、その規制を緩和するという話があったのですが、その認識がない病院の方も多く「スタートアップならこの金額は無理でしょう」となることも多く。入札資格について緩和と周知していただけると、当時の自分は嬉しかったなぁと思いますね。
丸川:
スタートアップが参入していく上でハードルになるのは、SaaSやSaMDだけでなく、新薬の分野もあるという話をよくしています。先に入っている企業だけではなく、スタートアップが入るための状況をいかに切り出していくのか、「スタートアップだから評価していくこと」をどう作っていくのかをまさに我々が推進しているところです。
有村:
私からは健康領域に関する課題をお話できれば。日本は国民保険が充実し過ぎているがゆえに、toC向けのヘルスケアサービスにユーザーがお金を払ってくれない傾向がありました。エビデンスをもとにしたより良いサービスを作ろうとしても、そこに価値を感じてくれる人があまりいないのを非常に感じていました。
そこで国にお願いしたいなと思っているのが、健康保険協会の財源の中で、自由に保険の代わりになるような制度を作ってほしいということです。今は自治体が公費制度を作っていると思うのですが、それを健康保険協会の裁量でも作ってくれるような制度ができれば、市場が活性化するんじゃないかなあと思っています。
丸川:
実は私、国民皆保険を守る国会議員連盟も務めています。健康保険組合連合会の方たちも自分たちの保険サービスを守るためにいろいろな工夫をしたい。けれど今は高齢者に支給する負担金が大きくなっていてだんだん資金的な自由度がなくってきているので国に支援してほしいという話を聞いています。
有村さんは自己負担のところを調節するような仕組みを、というご提案ですよね。公的保険制度に割り込んでいけるかは別として、そういうカバーの仕方もありえるのかなと、斬新かつ面白いご提案だと思いました!
猪川:
僕の領域からもリクエストがあります。僕らは治験を支えるサービスをしていますが、日本のバイオベンチャーやSaMDをやっているようなスタートアップは資金が集めづらい環境があります。
医療機器や新薬の医薬品においても必ず治験に通らなければいけないというときに、日本ではものすごくコストがかかるんです。その結果、スタートアップは海外にいく企業が多いんです。日本初なのに海外で治験をして承認を得るという流れがあるんです。
その状況で「スタートアップと大手製薬企業の承認を得るプロセスが一緒」というのはすごく不思議といいますか......。国内で「新薬・医療機器を増やしていこう!」と言っていても、資金力も違うゆえ、海外に出て行ってしまっている現実を考えると、お金も承認プロセスも”正しい流れ”
を考える必要があると感じています。
丸川:
コロナ禍でDCTが広がってきて、次は治験のコストをいかに下げて創薬スピードを上げていくかという点は政府でも非常にプッシュをしているところです。
具体的には「臨床研究中核病院」といって、新薬や新たな医療技術を開発する病院が全国にあり、ここに国際的な治験ができる人材と環境を整えて臨床試験をしていく方向に推していこうとしています。
また、今までの医療現場では、先生と製薬企業が繋がっているところにしか治験ができる環境がありませんでした。これからは日本のあらゆる地域に住んでいる患者さんが治験に参加するチャンスを得られるようにしていかなければいけないと思っています。
一方で、日本では医薬品を承認するプロセスは安全性と有効性を重視し、薬が承認されると必ず保険制度が適応される仕組みになっています。これが日本のよさでもあり課題でもありますね。
今後、個別医療や総合医療、オーダーメイドの医療が進んでいく中で、今までと同じ承認の仕組みでいいのか? あるいは、承認はするけど保険に入るまで別の仕組みで支えられないのか? という議論をまさに行っているところです。
ただし、承認をされないと保険に入れないのに「どうやってマネタイズするのか」という大きな課題が出てきます。仮に日本で承認された場合は、日本の承認の基準を参照してくれる国をマーケットにして出ていける可能性も考えられますし、アジアに治験のネットワークを広げていくことも考えています。新薬を作るなら先にFDA(米国食品医薬品局)に話した方が早いという話も出ています。
それから、2030年にむけて「データを使える」ように整備していきます。具体的には、医療情報ネットワークに全国10万以上のクリニックが標準化されたカルテで繋がっている状態にし、認証された企業がデータを使えるようになる予定です。ぜひベンチャー企業の皆さんにも活用いただきたいですね。
これから進む医療DXに期待していること
藤本:
続いて「医療業界・医療現場を知っている立場からみて、これから進む医療DXに期待していること・心配していること」について聞いていきます。
有村:
背景を説明すると、いま国で進めている医療DXは大きく分けて3つ「診療報酬改定DX」「電子カルテ情報の標準化」「全国医療情報プラットホーム」があり、これらを推進するための工程表も公開されています。
また、「全国医療情報プラットフォーム」の全体像を見てみるといいことがたくさん書かれていますね。
医療情報を連携していくことや、2次医療基盤の話、自治体と連携するようなプラットフォーム、介護情報を繋いでいくプラットフォームの話など。情報の一部はマイナポータルに連携されていくという流れです。これが出来上がった未来は、結構期待できるものなんじゃないかなと思っています。
藤本:
ここからお三方にお聞きしたいのは医療DXで注目している事業や今後医療DXに期待していること、そして「最終的に医療DXは病院に広まった後に何をするのか?」という未来像をお話いただきたいです。
猪川:
医療DXが国の政策で解決をされていくとすると、未来の医療では患者さんが軸になっていくのではないかなと。マイナポータルもそうですし、患者さんが自分の医療データを自分で管理して、未来の医療のためどのようにデータが使われているのかを自己で把握できる。「ここでは使用していいよ」と自分で選択できる未来を個人的にも求めています。
自分の事業に立ち戻ってみると、製薬企業なので利益が出なければ続きません。
しかし、ある難病の患者さんが治療薬がひとつもないという状況において、患者さん発信・起点で創薬が始まってもいいのかなと。そんな時、僕が一番やりたいのは患者さん自身がお金を出し合って創薬するような環境ですね。
もう少し進んだテクノロジーの分野であればキャッシュだけじゃなくても、ビットコインのようなイメージで新しいお金の価値を生んで、それに対して投資をしていく。もし新薬が承認されればみんなにゲインがあがる。そしてまた創薬に投資ができるサイクルができる。このような「患者中心医療」になると医療機関がもっと自由にできるような環境が成り立っていくのかなと思います。
丸川:
私も「治療法のない病気の患者さんを助けたい」と思い、これまでゲノム医療を推進してきました。ゲノムは細胞の核にある遺伝情報を解析して、みなさんが持っている病気の組織にある情報をいただいて、それに基づいて治療法を選んだり、薬の研究を進めることです。実は創薬には膨大な時間とコストがかかってきて、薬に到達するのは本当にわずかな確率です。そのプロセスを今後誰が支えていくかが課題になっています。
一方で、今までは多くの患者さんに効く薬を作ってきた創薬スタイルが、これから遺伝情報に基づいて細分化された創薬になっていくとなると、これまでの創薬スタイルが問われてくるのではないかと思っています。その中で、猪川さんがおっしゃったような、患者さん起点で未来に投資する創薬スタイルは新しいモデルになりうるなと思いましたね。
志水:
これまでは医療SaaSというポジションで、病院にサービスを広めることをしてきました。
今は逆に、病院経営を見る立場になり、その視点に立つと職員の配置基準などが決まっているので、人を削って医療SaaSを導入する余地は少ないということに気づきましたね。
そこで僕自身がやっていきたいのは、医療DXを広めるときに、自身が病院や介護施設などの経営側の視点で、医療DXを推進するイケてる医療・介護グループを作るのが必要なんじゃないかなと。
現在、クリニックレベルでは医療DXが進んできてはいるものの、本丸は大きな病院や介護施設。お金もかかりますし参入障壁もありますが、それを真正面から僕はやっていきたいと思っています。......これ、課題ではなく自分の決意表明になっていますね(笑)。
あくまでも病院経営側の意見として、診療報酬・請求業務はみんな疲弊している印象です。0.5〜1%くらいの比率で人件費がかかっていて、DXによってその1%のコストがなくなると病院にとって大きな利益になるので、医療DXを推進していこうという流れになるはずなので、そこは推進できると嬉しいですね。
丸川:
ざっくりですが、国民医療費の半分は人件費に払われているのが現状です。それにも関わらずこれから賃上げをしていかなければいけない。仮に5%の賃上げをするとなると1兆円の財源が必要になるんですね。
当然、賃上げをしていかなければ日本の医療・介護業界はもたないけれど、容易に人材が集められるともわからない......。こんな利益の薄い構造の中ですが、医療DXに本気で取り組まなければ、地域で医療サービスの提供を持続できなくなるのもそう遠くない未来にくると言われているので。業務の部分での医療DXも本気で進めていかなければですね。
有村:
医療DXが進んだ未来は、請求業務のコストが限りなく低くなった状態になるのではないかと思います。先ほど、志水さんは組織化することで利益率を高めていこうというお話だったかと思いますが、僕は逆の未来を想像していて、お医者さんだけでも診療報酬算定をどんどんやっていいのではないかなと。
そもそも日本では、診療報酬算定を医療施設単位でやらざるを得ないのが現状です。しかし医療DXが進んだ未来では、お医者さん個人や看護師さんでやれる未来もくるのではないかと。少ない人数でやれる幅をどれだけ増やせるか?みたいなところはすごく面白いのではないかと思います。
丸川:
まさに同じことを考えていました! 医療を周辺で支える人材の確保の方針は決まっているわけではなく、専門職でなければない人ほど、流通や小売など他の業態と競合してしまう。「国の負担を増やさずにどうやって人材を確保するのか?」が国にとって大きなテーマとなっています。
とくにクリニックの場合は医師も高齢化して数が減少していっていますがし、人材確保が難しい。患者さんを診療する以外の部分をどこまで医療DXに任せることができるのかが大きな挑戦になってきますし、実現できた未来が存在していたら私もうれしいなと思います。
医療・テクノロジー分野といっても、それぞれ挑戦している領域も違い、幅が広く、様々な現場があり、今後の発展がとても楽しみです。
そして、医療の現場でそれを受け入れる側に「これだけテクノロジーで解決できるんだ」とどうやって伝えていくのかが大きな課題かなと改めて感じます。
また、政治の側に、スタートアップが生み出す価値を評価できる人材や評価軸がまだ十分ではありません。今後はスタートアップに関わっていく政治家や行政の人をもっと増やして、もっと接点を持たなくてはいけないと思います。医療と介護を連携しようと思ったら、自治体も地域単位でスタートアップの皆さんと関わっていくことが非常に大事になるので、これもぜひ後押ししたいです。
■ イベント開催にあたり
セブンリッチグループでは、ベンチャー・スタートアップを中心に事業のバリューアップを行っております。事業成長には、企業の市場からのアプローチによる市場戦略のみならず、政治・行政側との連携による事業環境整備といった非市場戦略も非常に重要だと考えています。
本イベントは、この市場・非市場、ふたつのアプローチを組み合わせ、事業を社会に実装する確度とスピードを上げるためのきっかけを作るべく、スタートしました。
初回のゲストとして参議院議員の丸川 珠代氏をお招きし、政治家としてマクロに社会を変えていく豊富な経験と、若手経営者たちの革新的な視点を交えた意見交換を通じて、参加者・登壇者、それぞれに新たな気づきとインスピレーションを提供したいと考えました。
今後も、社会の小さな変化の芽が生まれる場所づくりに取り組んでまいります。
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