iaku粛々と運針_2018

舞台上に絡まり合う生と死のうねり…★劇評★【舞台=粛々と運針(2018)】

 2017年5月、私はその舞台の誕生に立ち会った。大阪を拠点に良質な作品を連発している演劇ユニット「iaku」が新宿ゴールデン街のわきを抜けたあたりにある新宿眼科画廊スペース地下という60人ほどしか入れない空間で初演した「粛々と運針」だ。iakuを率いる劇作家・演出家の横山拓也にそういう思いがあったかどうかは分からないが、問題作「エダニク」で東京でも評価が高まっていたiakuがさらに全国に打って出るため新たな代表作を生み出すべく投入されたように見える渾身の一作は、2人ずつ3組で、つまり6人の俳優が会話を積み重ねていく形式。会話は渦を巻き、観客は小さな、密着度の高い空間で、完全に劇世界の中に取り込まれていった。夫婦や兄弟の何気ない会話が、いつしか社会的な問題へとリンクしていく。あるいはその逆で、社会的な問題が家庭という小さな空間に向けて照射され、それぞれの家族の中で議論として先鋭化する。そんな斬新な演劇的構造を持った作品だった。その小さな劇場で受けた衝撃の通り、一夜にして大きな評価を得て、新たな代表作となった。その「粛々と運針」が再び東京で再演されている。今回はこれまでの代表作で特に人気の高い「人の気も知らないで」「あたしら葉桜」「梨の礫の梨」とともに4作品を約2週間かけて上演するという「iaku演劇作品集」の枠の中での上演だ。初演と同じ役者による再演だけに、感情表現のクオリティーは軒並みアップ。初演ではやや物足りなかった、3つの空間が絡み合った後のとぐろを巻くようなエネルギーも加速度がついていて申し分ない。登場人物たちの議論の切実さがわずか1年でより深刻に聞こえるのは、横山の演出や役者の演技がキレを増していることに加え、権力者たちの掛け声倒れの政策が働き方や子育てなど日本の家族をめぐる問題をますます難しいものにしている現状とも関係がありそう。終活や尊厳死をめぐる状況も目まぐるしい変化を遂げているだけに、この戯曲が投げ掛ける問題点の意味は大きい。
 舞台「粛々と運針」は5月16~28日に東京・駒場東大前のこまばアゴラ劇場で上演されている「iaku演劇作品集」の中で、5月16日(19:30開演)、19日(11:00開演)、20日(19:00開演)、21日(13:00開演)、24日(19:30開演)、26日(19:00開演)、27日(11:00開演)、28日(13:00開演)の各日に上演される。

 なお、iakuでは東京公演の後、6月2日に愛知県知立市のパティオ池鯉鮒(知立市文化会館)花しょうぶホール、6月9~10日に仙台市のせんだい演劇工房10-BOX box-1、6月15~17日に福岡市のぽんプラザホール、6月23~24日に札幌市の扇谷記念スタジオ・シアターZOOを巡る「粛々と運針」ツアーを実施する。
 愛知知立公演・仙台公演・福岡公演・札幌公演はチケット発売開始済み。

 なお、当ブログでは「iaku演劇作品集」で上演された「人の気も知らないで」の劇評と「あたしら葉桜」の劇評を掲載済みです。今後、残る「梨の礫の梨」についても劇評を掲載予定です。順次掲載してまいりますので、今しばらくお待ちください。

★「人の気も知らないで」劇評
http://blog.livedoor.jp/andyhouse777/archives/66282563.html

★「あたしら葉桜」劇評
http://blog.livedoor.jp/andyhouse777/archives/66282638.html

★舞台「粛々と運針」公演情報=iaku公式サイト
http://www.iaku.jp/information/iaku-works2018#syukusyuku

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