見出し画像

異常な出来事に人間が本来持っている可能性や優しさで向き合った人々の姿を通じて絆の本質をえぐり出したミュージカル。トップ俳優たちが「全員が主人公」の物語を演じ、演劇というものの新しい可能性さえたぐりよせた…★劇評★【ミュージカル=カム フロム アウェイ(2024)】

 「9.11」。この数字の羅列、あるいは日付が特別な意味を持つようになったのは、あらためて説明するまでもなく米国東部時間2001年9月11日朝(日本時間11日夜)に起きた米中枢同時多発テロからである。主な標的となったニューヨークのワールド・トレード・センターやワシントンの国防総省ペンタゴンのほか、世界中の様々な場所での、それぞれの人の「9.11」があったはずだ。テロの手段として旅客機が使用されるという特殊性から、さらなる被害を防ぐため、テロの直後から領空が閉鎖された北米地区では、その周辺国に直接的な影響が及んだ。米国およびカナダの主要都市に飛行中の旅客機が近付くのを防止するとともに、目的地への到着が絶望視される旅客機の乗員乗客の安全を確保するため、ハリファックス空港などとともに大量の旅客機を受け入れたニューファンドランド島のガンダ―国際空港とその町の人々にとっては、まさに町の歴史をどれだけさかのぼっても体験したことのない未曽有の大事件であった。しかし、後に世に長く語られるのは、舞い降りた旅客機の数(38機!)ではない。それだけの旅客機に搭乗していた乗員乗客合わせて6600人もの人々を受け入れたガンダ―の町の人々の心意気だ。訓練ができていたわけではない。スーパースターがいたわけではない。皆が「今の自分に最大限できることは何か」を問い続け、生活の延長として見ず知らずの人々を受け入れたガンダ―の精神こそがテロの危機にみまれた人々の救いとなったのである。「9.11」をめぐっては、自分たちの乗る飛行機が乗っ取られたことを知った乗客たちによるテロリストへの必死の抵抗によって野原に墜落させ(ホワイトハウスか米議会議事堂への)旅客機突入テロを阻止したとされるユナイテッド航空93便のエピソードが映画『ユナイテッド93』として公開されているが、ガンダ―の町の3日間はこのミュージカル「カム フロム アウェイ」として結実した。愛や悲しみを謳い上げるだけのミュージカルではない。普通の人々の普通の生活の中に飛び込んできた極めて異常な出来事に対し、人間が本来持っている可能性や優しさをもって向き合った人々の姿と、戸惑いも困惑も偏見も包み隠さずむき出しにして絆というものの本質をえぐり出したミュージカル。主役を張ってきた俳優たちが屹立した人間として全員が主人公の物語を演じきった日本初演公演は、演劇というものの可能性さえたぐりよせる画期的な公演となった。(写真はミュージカル「カム フロム アウェイ」とは関係ありません。単なるイメージです)。

 ミュージカル「カム フロム アウェイ」は2024年3月7~29日に東京・日比谷の日生劇場で、4月4~14日に大阪市の「SkyシアターMBS」で、4月19~21日に名古屋市の愛知県芸術劇場 大ホールで、4月26~28日に福岡県久留米市の久留米シティプラザ ザ・グランドホールで、5月3~4日に熊本市の熊本城ホール メインホールで、5月11~12日に群馬県高崎市の高崎芸術劇場 大劇場で上演される。
 
★序文は阪清和のエンタメ批評&応援ブログ「SEVEN HEARTS」でも無料でお読みいただけます。舞台写真はブログでのみ公開いたします。

★無料のブログでの劇評は序文のみ掲載し、それ以降の続きを含めた劇評の全体像は通常はクリエイターのための作品発表型SNS「阪 清和note」で有料(300円)公開しています。なお劇評の続きには作品の魅力や前提となる設定の説明。安蘭けいさん、石川禅さん、浦井健治さん、加藤和樹さん、咲妃みゆさん、シルビア・グラブさん、田代万里生さん、橋本さとしさん、濱田めぐみさん、森公美子さん、柚希礼音さん、吉原光夫さんといった俳優陣の演技についての批評、戯曲・演出・舞台表現に対する評価などが掲載されています。場合によっては、特定のスタッフワークについて言及することもあります。

【注】劇評など一部のコンテンツの全体像を無条件に無料でお読みいただけるサービスは原則として2018年4月7日をもって終了いたしました。「有料化お知らせ記事」をお読みいただき、ご理解を賜れば幸いです。

★ミュージカル「カム フロム アウェイ」公式サイト

ここから先は

5,375字
この記事のみ ¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?