超ショートショート「Macbookを閉じる音」

 俺はMacbook Proを使っている。ネットサーフィンしたり、たまにカフェに行って文章を書いてみたり、とにかくこのPCの前で過ごすことが多い。

 仕事では残念ながらWindowsの性能の良くないものを使っているが、プライベートではやっぱり自分の好きなものを使いたいじゃないか。1年前に思い切って2年ローン(金利ゼロ)で購入してしまったが、全く後悔はしていない、むしろQOLが格段に上がったと思う。人付き合いが少なく平日の夜も休日も誰かと会ったり飲んだりすることもないので常にPCと一緒にいる。このMacbook Proと結婚しているようなものだ。好きなモノを使うべきだというのは自明である。

 Macbookの何が良いかって、キーボードの打ち心地とか、ディスプレイの綺麗さ、Apple独特のUIというのももちろんあるが、なんといってもPCを閉じるときに鳴る「パタン」という音だと思う。

 「パタン」というありきたりな擬音では表現は出来ないのだが、なんとも言えない寂寥感というか、終わりの余韻のようなものを感じる。例えれば「古池やかわず飛び込む水の音」の「ポチャン」という水滴の落ちる音の後に広がる静けさが心のなかに広がるイメージが近い。伝わるか。

 もう少し音を文章で表現してみれば、「パタン」よりも「コツッ」「コッ」が近いか。「コッ」よりも半角の「コッ」という音のほうがより近いか。他のPCでは絶対に出せない音だと思う。試しに家電量販店でいろんなノートPCを閉じて音を聞いてみたのだが、Macbook以外にこのニュアンスを出せるPCはなかった。(開いて閉じてをお店のPCで何度も繰り返したせいで店員に変な目で見られて何度も声をかけられてしまった。)

 正直、この音を聞きたいがためにPCを開いているのでは?と思うことさえある。なんの生産性もないネット巡回やYoutube巡回をするのも、ひとえにPCを開いて、そして閉じるという行為のための前座のようなものだ。本質は最後の一瞬にある。

 今日も適当な文章を並べて一段落したのでPCを閉じる。

 「コッ」

 これこれ、この音だよ。これでいいんだよ。でもやっぱりもう一回閉じる音が聞きたくなったので、PCを開けてすぐに閉じる。

 「コッ」

 やっぱりいいわ。

 「コッ」

 ・・・

 「コッ」「コッ」「コッ」

 調子乗って3連符♪

 「ココッ、コ、コッコッコッ♪」

 今日は気分がいい。

 「コッコッコッ...」

 「ちょっと!静かにしてもらえますか?!ここカフェなんですけ怒!!」

 ・・・

 すみません。隣のサラリーマンに怒られた。


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