超ショートショート「サイドテーブル」

 リビングにサイドテーブルがある。スチールウールで編まれたカゴ状の土台に、丸い天板が乗っている。直径は50cmくらいだろうか。全体が藍色で統一されていておしゃれだ。

 カゴの中は一人暮らし用の洗濯機くらいの容量があって、割となんでも入るのだが、何を入れたら良いのか悩ましい。例えば、おしゃれなクッションや膝掛けを入れておくのが定石だ。ただし、センスのない僕が手掛けると、クッションや膝掛けは潰れ、なんだか不格好な構図となってしまう。

 他に入れられるものはないだろうか。例えば、ポケモンのぬいぐるみなんてどうだろう。娘がポケモンにハマっていて、家には大小たくさんのぬいぐるみが転がっている。まとめて突っ込んだ様子を想像してみた。いや、これではダメだ。金属製のカゴが絶妙に牢屋感を演出しており、なんだか僕が閉じ込めているような気になる。ソファーに座ってテレビを見ると、真正面にサイドテーブルがあり、牢屋に閉じ込められたポケモンたちがジッとこちらをみてくる。これは耐えられない。

 そもそも普段見慣れている物を入れるのがよくないのかもしれない。ちょっとしたおしゃれを演出するためには、非日常の何かを入れるべきか。テレビ、ソファ、サイドテーブルという日常のくつろぎ空間にアクセントを加えることのできる何か。

 ピカソの『鳥籠』の絵なんてどうだろう。鳥と鳥籠と部屋の風景が、キュービズムの画法で描かれている。それっぽい著名な芸術家の作品を入れておくと通ぶれるし、誰かが訪れてきたときに説明しやすい。小さめの鳥かごを買ってきて、『鳥籠』のポストカードを中に吊るして、サイドテーブルのカゴに入れるのである。絵の中の鳥は、鳥籠に入れられているように見えて、その実、鳥籠の外にいるらしい。鳥籠に入っていない鳥を、本物の鳥かごで囲い、さらにサイドテーブルの牢屋に詰め込んだ気になる。「これで逃げられないだろう」と。その不細工なメタを独り楽しんでいる自分は、何に縛られてこんなことをしているのか。自分もメタの中に取り込まれていないだろうか。嗚呼、人生は次元の異なる外側に内包されるマトリョーシカなのか。

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 なんて妄想を止めて、僕は通販サイトで見ていたサイドテーブルを買わない事にした。

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