偶然スクラップ#40: ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

今日は、昨日観たタランティーノの映画『Once Upon a Time in Hollywood』のレビューを書いてみます。

タランティーノの作品を映画館で観たのは『ジャンゴ』ぶり2回目。上映時間が161分と長いので二の足を踏んでいたが、映画館で映画が観たいなと、ここ数ヶ月思っていたし、ようやく空いてきたので、ついにTOHOシネマズ日比谷の土曜日の最後の回を予約した。

僕が初めてタランティーノに触れたのは中学3年の家庭科の授業の時。かれこれ25年前。受験シーズンだったこともあり、生徒の数は少なめ。家庭科の先生が理解ある人だったので、何かいつもと違うことをということで、クラスメイトの映画に詳しい男子生徒に映画を選ばせ、授業中に皆で視聴した。この映画の授業は全部で4回ほどあって、スピルバーグの『激突 (Duel)』、『いまを生きる (Dead Poets Society)』、『フルメタル・ジャケット (Full Metal Jacket)』そして『レザボア・ドッグス (Reservoir Dogs)』。

最初の回が『激突』で、出てくるのはほぼ車を運転するビジネスマンと大型トレーラーだけ。アクションは、ビジネスマンが運転する車とトレーラーがハイウェイを走ってるだけ。ビジネスマンを追い詰める、まるで生きているかのようなトレーラー。設定が限定されているのに、ドキドキハラハラ、目が釘付けになる描写に、「これが映画か」と感動したのを覚えている。

『レザボア』も然り。限定されたシチュエーションの中で起きるドラマのカッコよさに痺れ、タランティーノ好きになった。それと、こんなすごいものを知っているその同級生に「こいつすげーな」となった。そいつとは、高校と大学も同じところに行くことになった。半年前に結婚観で口喧嘩をしてから会ってない。二年に一回はこうなる。

そんな思い出のあるタランティーノの作品。ディカプリオとブラッド・ピットの共演も楽しみだった。舞台は、1969年のハリウッド。落ち目の西部劇スター俳優のリック・ダルトン(ディカプリオ)と専属スタントマンのクリス・ブース(ブラッド・ピット)が中心に話は展開される。彼らが主役。いや、60年代アメリカの車、ファッション、インテリアも主役級にスクリーンに現れ、それらの表情も精緻に描写される。そして観客は爆音で流れる当時の音楽に包まれる。スクリーンは、黄色、オレンジ、青、グレーがかった緑、黒とヒッピーっぽい色で溢れていた。

ストーリーは、1969年にロマン・ポランスキーの妻シャロン・テートがマンソン・ファミリーによって殺された事件やブルース・リーやスティーブ・マックイーンなどの実在の自分物などのリアルと架空が混ざり合ったハリウッドのおとぎ話だ。この映画の中で、タランティーノは、亡くなってしまった往年のスターたちの輝く姿を私たちに見せてくれ、また生き残ったスターたちが、時代の変化―テレビの出現、カウンターカルチャーの興隆、若手の台頭―の中、減っていく仕事の中、もがき、苦しみ、圧倒的な演技を見せつけ、そして折り合いをつけながらもハリウッドに生き続ける様を見せてくれる。色々なレビューでも書かれているが、タランティーノのハリウッドに対する愛情がそこには込められ、役者たちを宝石のように輝かせてみせる。この映画は映画でなければだめなのだ。

もし私が映画マニアであれば、瞬間的にグッと来る場面がたくさんあったのだろう。映画が観終わったとき、正直フラットな気持ちだった。『La La Land』を観終わった時と似ている。「よかったぁ」とため息が出ることはなかった。僕は、4年振りに引っ張り出してきたGIANTのクロスバイクで家路についた。真っ暗な皇居の道を走る。ディカプリオとブラッド・ピットの圧倒的な演技と映像の映画さが頭にこびりついていた。そして、一日寝かして今、この文章を書いている。『レザボア』を観てから25年。タランティーノは、彼が愛するものを愛を持って作りつづけていた。


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