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魔法科のカロン

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魔法学校に通う高校生たちの非日常と情動と日常。
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2018年8月の記事一覧

監視者のマリア

女はマリアと呼ばれていた。最初の自己紹介の時にマーリンだかマリーンだかと言ったのが発端だったが、そのことを詳しく覚えているものは誰一人としていなかった。無論その中には女自身も入っている。本当の名は別にあったが、連中は誰一人として女の名を知らなかった。過去には知るものもいたが、今はもういない。女は単純にマリア、もしくはマリーと呼ばれた。

マリアは魔術協会の監視者だった。反旗を翻すことなく、しかし肩

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実習生のルカ

ルカは柔らかな桃色の服を身につけた。魔法を補佐する特殊な衣装だ。上半身に沿うように縫われ、腰から下が大きく広がるようにできている。わずかな光を集め、遠くからでも見える布で作られた服だ。ルカは先の三股に分かれた銀の杖をくるくると回す。認証はすんでいる。今夜集められたのは成績上位の生徒だけだ。今日はいつもより過酷になる。そう聞かされた。

女王候補とは何をするのか。女王とは何をするのか。そも女王とは何

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年長者のアル

アルは奇妙な女だった。少なくともセブンスはそう感じていた。銀の目はどこか遠くを見ており、熱っぽい視線は宙をさまよっている。そうかと思えばひどく怜悧な顔をする。銀の髪を重たいボブヘアにして、内側に巻いている。アルは奇妙な女だった。そしてアルはセブンスの上司だった。

上司というのは関係の言い表し方として適切ではない。二人は反抗勢力の諜報員だった。要は公的な関係が基底にあり、なおかつアルはセブンスの世

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転校生のルイス

ルイス。教室中を見回して、教壇の前に立つごく真面目そうな男はそう名乗った。ルイスは転校生だった。学期も中ごろの、ひどく中途半端な時期だった。それがきっかけのまず一つ目。

ルイスは黒い髪を持ち、細いフレームの眼鏡をかけた童顔の男だ。頭の出来は良いほうと見える。容姿はどこまでも平均的で何か劇的なものがあるわけではない。普通。そう、普通だ。それがルイスという男に対する印象のほとんどすべてだった。普通。

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漂流者のガニュメート

古の魔法により十代も半ばを過ぎた今もなお幼い容姿を持つ。カロンは自宅の屋敷に一人で住んでいた。否、彼の心にはロールがいたので、一人というのはやや不適切であったかもしれない。しかし、彼がひとりで暮らしていたのは事実だ。そこにあるときからガニュメートという男が加わることになる。

ガニュメートは『大人』だった。大人は協会式の魔法を使う。ガニュメートも専用の道具を持っていた。大人らしく高い背に、発達した

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