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岡山県真備町の高校生が見た西日本豪雨。

2018年の西日本豪雨で、地区の3割が水没するという甚大な被害を受けた真備町。当時中学校一年生だった野口貴生さんは、友人らと一緒に、避難所でのボランティア活動を始め、3年経った今でも、地域の子どもたちに防災を伝える活動を続けています。

被災から3年の今、どんなことを感じているのか、香川・岡山で活動するYouTuberの瀬戸内サニーがお聞きしました。

*トップ写真は、野口さんが活動している団体「MSB30」のメンバー。左から、野口貴生さん、安田伊織さん、田淵陽太さん。

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*今回のインタビュイーは、野口貴生さん。

——被災当初の状況を教えてください。

「信じられない」というのが最初に思ったことでした。実はもともと真備町では、もしも大きな水害が起きれば川が危ないかも、という話は出ていたんです。でも、私たちが住んでいるのは「晴れの国・岡山」。火災や地震の可能性はあっても、まさかこんな大雨が降って、大水害が起きるなんて、誰も考えなかったと思います。

僕はその日、家族みんなで小学校に避難しました。夜になって、川の土手で見回りをしていた消防隊の方がやってきて「堤防が決壊した」と言っているのを聞きました。「決壊って何?どうなるの?」と思いましたね。東日本大震災で起きた津波のことは何となく頭にあって、怖いものだと分かっていましたが、川が決壊したら何が起こるかなんて考えたことはなかったんですよね。

——そうだったんですね。とても不安でしたよね。

避難所が何か所かあって、中学校の友だちとは離れ離れになってしまっていました。それで、無事かどうか確認したくてLINEを送ろうとしましたが、3日くらいは回線がいっぱいになっていて連絡が取れませんでした。安否が分からず、とても不安でしたね。水害の被害を受けた地域に、友だちがたくさん住んでいたので。

そのあと、携帯会社の方がWi-Fiを設置しに来てくれて、やっと連絡が取れるようになり、とても安心しました。

——真備町では、甚大な被害が報道されていました。

僕の家は高台にあり、幸いにも浸水などの被害はなく、翌日には家に帰ることができました。自宅からは真備町一帯が見渡せるようになっていて、町を見てみると、どこが川かが分からないくらい水浸しになっていましたね。そこでやっと、事の重大さに気づいたんです。

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——そうなんですね。それからはどんなことをされていたのですか?

自宅に帰ったものの、授業はなくて学校には行けないし、町は大変な状況にあるので行くところもなくて。「何かやらなければ」と居ても立っても居られなくなって、7月はずっと、避難所になっている小学校でのボランティアに参加していました。被災をしていない地域に住んでいる人たちが参加していましたね。炊き出しや支援物資の仕分けなどの活動を行いました。

——ボランティアをしていて、どんなことを感じましたか?

みなさん喜んでくださるので、嬉しかったです。でも、被災者のふりをして食料をもらおうとする人や、数の決まっているものを多めに持っていこうとする人もいて。「ごめんなさい」とお断りしなければならず、苦しかったですね。

あと、避難所で大人や子どもの様子を見ていると、子どものほうが元気になるスピードが速かったように感じます。大人は、お金や人間関係など、考えなければならないことが多かったからかもしれません。

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——ボランティアが終わったあとは、どんなことをされていたのですか?

豪雨災害のために、毎年開催されてきた夏祭りが中止になってしまったんです。それで、真備町の子どもたちに元気を届けたいと思い、イベントを企画することにしました。当時、避難所になっている公民館で、子どもたちが集まってみんなで勉強をしていて。そこにいた友だちと「MSB30」という団体を立ち上げ、秋祭りを企画しました。大人たちにも協力してもらいながら開催することができました。

子ども向けに開催した秋祭りですが、子どもと一緒に大人もやってきてくれました。みんなが嬉しそうな顔をしていて、「誰かのためになることができた」という達成感がありましたね。

——秋祭りのあとは、町がだんだんと前を向き始めていることを感じられたのでしょうか?

そうですね。復興に向かっていることに対して嬉しさを感じる一方で、災害が風化してしまうのではないか、と感じるようになりました。冬頃から、だんだんとメディアでの報道が少なくなっていたんです。

被災した地域の外では、西日本豪雨が過去のものになってしまっているのではないか。でも僕は、過去のものにはしたくない。災害が起きるのは仕方がないけれど、もう二度と、命を失ったり、悲しんだりしたくない。そう思っていました。

その頃から、MSB30は防災に関する活動を始めるようになりました。僕たちが動き、それをメディアが取り上げてくれれば、真備町に再び注目が集まるのではないかと考えたんです。そうすれば西日本豪雨は過去のことにはならないし、新たな何かを伝えられるのではないかと思って。

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——どんな活動を始められたのですか?

楽しく防災を伝えることをモットーに、活動を始めました。学校ではよく、避難訓練が行われますが、形式ばったものなので楽しくありませんし、まったく記憶に残らないので残念だと思っていたんです。でも、楽しい思い出なら記憶に残るんですよね。

それで翌年の秋には「まびっこカエルキャラバン!」を開催しました。おもちゃの物々交換(かえっこ)と、楽しくアレンジした防災プログラムを組み合わせた防災イベントです。防災プログラムでは、消火器で的当てゲームをしたり、折り紙を折る感覚で新聞紙のお皿を作ったりと、子どもたちは笑顔でとても楽しそうに、防災体験をしてくれていましたね。防災をただ伝えるのではなく、ゲーム性を絡めて遊びの延長にして、楽しく伝えていこうと思いました。

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——活動を通して、子どもたちにはどういったことを伝えたいですか?

自然災害は、起きてしまうのは仕方がありません。だから重要なのは、起こったときに、冷静に正しい判断をして行動すること。そして自分の命を守ること。また、避難所で、少しでも楽に過ごせるようにすること、といったことを伝えたいです。

時の流れとともに薄れてしまう災害の記憶や教訓を風化させないよう、防災を子どもたちに楽しく伝え続けていきたいと思います。

——自分自身の変化はありましたか?

積極性が身についた気がしています。日頃から、「してもらうだけの人間にはなるな」と学校の先生から言われてはいたものの、「僕には何もできない」と思っていたんですよね。でも、この活動を通して、自分が動けば変わることを実感できました。そして行動を起こすときには、自分の力だけではなく、周りの大人の力を借りてもいいんだと、気づくこともできました。

自分がやりたいと思ったことに共感して協力してくれる人がいたり、そういった活動を通して笑顔になってくれる人がいたりしたので、大きなやりがいを感じていましたし、学校生活と両立しながら活動を続けられましたね。

——3年前を振り返って「ありがとう」を伝えるとしたら、誰に伝えたいですか?

たくさんありますが、一個あげるとしたら、ボランティアに来てくれた台湾の人たちです。僕が小学校でボランティア活動をしていたとき、僕を含めたボランティアの人たちを支えるボランティア活動をやってくれていました。

そのとき、台湾の人たちからたくさん「ありがとう」と言われたんです。僕たちが「ありがとう」を伝えるべきなのに、逆に感謝されて。「ありがとう」という助け合いの心は、国を越えて伝わるんだ、と感動した出来事でした。

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——それでは、今後の目標を教えてください。

将来は、災害の経験や防災を伝えることに関わる仕事に就きたいと思っています。実は僕は、西日本豪雨を経験するまで、やりたい仕事や夢を考えたことはありませんでした。しかし活動を通して、やりがいや楽しさを感じ、将来も何かしらの形で関わりたいと思うようになったんですよね。

僕は今回初めて、災害からの復興を間近で見ることができました。災害は、しばらくするとメディアで報道されなくなります。なので、ほかの地域で災害が起きても、復興の前後を知ることはできても、過程については知ることができませんでした。復興の過程を見れた経験を、これから伝えていきたいです。

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——真備町が復興に向かっていることを感じられているのですね。

そうですね。先日、西日本豪雨から3年が経ち、追悼と復興のイベントとして花火大会が開催されました。僕はそのときの真備町の人たちの笑顔が忘れられません。過去を振り返って落ち込むのではなく、前を向いて歩いていることを感じました。

これまで、お店が新しく建ったり、道路が舗装されたりと、町がいくらきれいになっても、復興していることを感じられなかったんです。本当の意味での復興は、町に住む人々の心が前に向くことなんだと感じました。

昨年からは新型コロナウイルス感染拡大の影響で、MSB30としての活動はあまりできていません。しかし全国で起きている災害のニュースを目にしては、もどかしさを感じています。今後も、コロナ禍であっても、災害を経験していない子どもたちに何を伝えられるか考え、活動を続けていきます。

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MSB30
平成30年西日本豪雨災害をきっかけに「真備を元気に!」という合言葉のもと、当時中学生だったメンバーが集まった活動団体です。また、公益財団法人 福武教育文化振興財団より、2020年度の教育文化活動における助成を受けています。

お問い合わせは、一般社団法人 岡山次世代スクール協会までご連絡ください。岡山次世代スクール協会は「21世紀の学びを考える」の理念のもと、民間教育機関の立場で、岡山県内に新しい教育の形を創っています。その活動の一つとして、MSB30のプロデュースを行っています。今回の取材は、岡山次世代スクール協会の加盟団体である学塾 誠和学舎で行いました。

場所:倉敷市西中新田313-2
電話:086-434-8088
FAX:086-441-8033
メール:okayama.next.education@gmail.com

今回の西日本豪雨3年復興応援プロジェクト「3年前はありがとう」は、岡山愛溢れる企業パートナーさんと一緒に復興地を応援しています👇

【FIX】西日本豪雨_復興プロジェクトスポンサー企業様一覧

Written by 宮武由佳
Photo by Kondo Takumi


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