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この鳥、なぜ落ちていく? 「月に叭々鳥図」(伊藤若冲 江戸時代中期 水墨画掛軸 岡田美術館蔵)

(「新・美の巨人たち」テレビ東京放映番組<2021.2.27>より主な解説を引用)

謎の水墨画。満月の夜に、真っ逆さまに落ちていく鳥(叭々鳥 ははちょう)。観た瞬間に、一体これは?と、度肝を抜かれるような、奇妙な感覚に襲われる。

 描いたのは、奇想の絵師・伊藤若冲(1716-1800)である。

「なぜ鳥は落ちるのか?」そもそも、「何を描こうとしたのか」

叭々鳥は、縁起の良い鳥とされているだけに、不吉な予感さえも感じてしまう黒い鳥の落下場面。鳥の眼と表情にも注目すると「まん丸な眼」「半開きの口元」驚いているのか、喜んでいるのか・・・謎である。

 この絵のタイトルは「月に叭々鳥図」(江戸時代中期 岡田美術館蔵)。

背景に描かれている満月の月も、とても繊細に怪しい雰囲気すら漂わせて描かれている。

 このように、墨と色に秘めた謎と技の数々が、この作品中の随所に散りばめられている。

 本作品を所蔵する岡田美術館・館長の小林 忠さんは語る。

 「伊藤若冲は、画遊人の側面を持ち合わせていたのでは。それは、単に自分だけではなく、人も遊ばせてくれる画家ということです。そして、満月はめでたい。叭々鳥も縁起の良い鳥としてめでたい。しかし、鳥は真っ逆さまに落ちていく。ここには、意外性、反語的な表現が汲みとれるのではないか。めでたいものが、めでたくなくなるのは、めでたいと。常識を裏返す考え方を教えてくれる絵になっている」と。

(番組を視聴しての私の感想綴り)

 謎というか、やはり一番興味を引いたのは、日本画家の福井江太郎さんが推察した一言であった。「最初から落ちようとする叭々鳥を描こうとしてはいなかったのでは。鳥の三角フォルムの形態からして、別のモチーフを描こうとして、途中で何らかの事情で、若冲自らが、落ちる鳥にしようと、軌道修正を図ったのではないか」と。

 やさしい目線があらゆるものに注がれていた若冲ならでの、ワンダーランド的才能というか、ヒラメキがここでもいかんなく発揮されていたと考えれば、むしろ観る側としては、なんとなく納得してしまう。

 もう一つの興味は、「満月の描き方」である。墨と画仙紙によるイリュージョンというか、外隈、面蓋という技法を駆使して「幽玄なる月」をみごとに演出している点であった。

 伊藤若冲であるが、「動植綵絵」に代表される極色彩で精緻な描写の天才画家である一方で、モノクロームである水墨画の世界では、一転して「画遊人」としての世界を、楽しんでいる。これは若冲が、「緊張と弛緩」「昼と夜」「白と黒」「原色と淡色」といった、表現にも二面性を持ちあわせていたとすれば、むしろ身近な、安心する存在にもなるかと感じた。

 レオナルド・ダ・ヴィンチしかり、葛飾北斎しかり、速水御舟しかり、一般の人間でも、二面性どころか、多面性の中で生きているのがむしろあたりまえとすれば、全く持って素直な表現であるのだろうと。

写真: 「新・美の巨人たち」テレビ東京放映番組<2021.2.27>より。同視聴者センターより許諾済。

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