嫌いと好きが逆転するのって簡単なことかもしれない
小学生の頃からラムレーズンが嫌いだ
何が嫌いって、あの独特のアルコール臭さが生理的に受け付けない。人間が食べてはいけない物の味がする。ドライフルーツのはずなのに中からでてくる不味み汁(まずみじる)、あれはなんなの?あれがラム酒か。父親はよくバニラとラムレーズンのアイスを好んで食べていたけど、私には何が良いのか理解できなかった。
嫌いになった切っ掛けは、たしか小学校の給食にレーズンパンなるものが出たときだったと思う。
食べたこと有る人には分かると思うが、給食のパンってちょっとアルコール臭がする。そのせいで、普通のレーズンのはずだが実質ラムレーズンみたいになっていたのだと思う。両親ともに酒を飲まない家庭だったためアルコール臭に慣れていなかった私は、えづきそうになった。
何回か試しに食べてみたが、胃が受け付けなかった。だから毎回器用にレーズンの部分を切り取って、周りの友人に押し付けていた覚えが有る。(はた迷惑すぎる。)それからレーズン自体も大嫌いになってしまった。
訪れる転機
そんな感じで物心ついてから18年以上ラムレーズンを毛嫌いして生きてきた私だが、最近ひょんなことからLAWSONのサクバタというものを食べることになった。
派遣の単発バイトで製造に携わったという縁が有って、まー自分が作ったものだしいっちょ食ってみっかという親心でLAWSONに出向いたのである。
正直全く期待してなかったし、無理そうなら同行してた友人に押し付けるつもりでいた。のだが…。
なんだこれは…。超絶うますぎる!!
硬めのクッキーに分厚いバタークリームとレーズンが贅沢に挟まれているという商品なのだが、まずこの硬めのクッキーが香ばしくて100点。クッキーを割ったらそのあとするっとクリームゾーンに前歯が到達する。冷たいうちならバタークリームははじめ少し硬いがふわふわほぐれて、甘さが控えめで100点。肝心のラムレーズンは甘みが強く、あっさりしたバタークリームと芸術的に調和して100点。
全体で文句なしの100点満点だし、瀬戸塩の人生の美味いモノ偏差値は貫禄の70である。医者になれるほどのポテンシャル。たぶん今日から一か月間米だけを食うかサクバタだけを食うか選べと言われたら迷わずサクバタと答えるだろう。それは流石に嫌だが、一週間くらいなら余裕でいける。
なによりラムレーズン!キミはなんだね。小学生時代に同じ時を過ごしたときより美味しくなりすぎてやしないか?(ただクッキーやバタークリームが美味しいだけならこんなに感動していなかっただろうから、やっぱりラムレーズンの味に強く惹かれたのだろうと思う)
さしずめ仲良くもなかった幼馴染に同窓会で再会したら思い出より格好良くなっててときめいた気分である。いや、この場合は私の味覚が成長したからラム酒を美味しく感じるのか。じゃあもしかしてラムレーズンも私にときめいてくれてる?このあとふたりで二軒目いく?
永遠に続くかと思った至福の時間も、食べ終えてしまえば泡沫と消える。なぜあのとき一つしか買わなかったのかと血涙を流すほど後悔した。それ以来寝ても覚めてもサクバタのことしか考えられなくなり、会う人会う人にサクバタのことを話すダイマ怪人と化した。
サクバタを迎えに
そんな私が、あっちから来ないのなら迎えに行ってあげようとLAWSONに駆け込むのは自然なことであった。
だが無情なことに、自宅周辺のどの店舗を回ってもサクバタは置いていない。もしや製造終了か!?と調べてみたがそんなことはなかったので、単に人気で売り切れてしまっているだけらしい。まぁ私が選んだ菓子なんだから競争率が高いくらいが丁度いいさ、と強がってみる。
関係ない話だけど、最初は一方的に嫌ってたのにいつの間にかベタ惚れしててそいつの為に街中を駆けずり回るっていうシチュエーション、商業BLの4話くらいでよく見ません?私が男ならサクバタとカップリングされていただろう。
余りに見つからないのでスーパーやファミマやブルボン製やら、目についたありとあらゆるレーズンバターサンドを試してみたが、てんで駄目だった。何もかもが違う。私にはサクバタしかいないと悟った。
これも商業BLの2巻くらいでよく見るシチュエーション。アイツと一度別れて他の男にいってみるけど、却ってアイツの良さが際立ってしまうものだ。
そして再会は唐突に。初めてサクバタを食べたあの運命の日以来、見かけた全てのLAWSONに入店しスイーツコーナーでサクバタの有無を確認するRTA走者となっていた私は、例外でなく大学の最寄り駅のLAWSONにも突撃してみたのだ。するとそこに、整然と、並べられていた。紫のパッケージが。
気が付くとレジに並んでいた。前回に懲りて、この日は2つもまとめて購入した。片手には午後の紅茶ミルクティーも一緒である。
大学でのおやつタイムが最高のひと時になったのは言うまでもないだろう。私はサクバタに気持ちを告げ、製造中止で生き別れることになるまで一生愛すことを誓った。
長々と語ったが
結局、今は嫌いだと思っているモノ、コトでも、好きに転じるのは意外と唐突で簡単なことかもしれない。なんなら、「今まで誤解しててごめんな」という謎の罪悪感でより好きになるまである。
私は今回の出来事で、脳内データベースに「嫌い」で記録してあることでも見放してしまわず、向き合い方を変えながら何度でも経験してみようかという気になった。
面と向かってエピソードトークすることも皿洗いも整理整頓も電話対応も干ししいたけも今は苦手だし嫌いだが、案外好きになれる時が来るのかもしれない。
決してサクバタのダイマというだけではないのである。でもほんと人生がちょっと変わるくらい美味しいので一度食べてみてほしい。あ、私の自宅周辺の人は買い占めないで…お願いします。